ひとことで言うと
認知症の在宅療養で在宅チームが担うのは、もの忘れそのものより、暴言・徘徊・夜間の興奮などの行動・心理症状(BPSD)と、体の病気の見落とし、介護者の疲れへの対応です。「困った行動」の背景に痛み・便秘・薬の副作用が隠れていることが多く、医療と介護が一緒に探すことが土台です。
認知症の方が自宅で暮らし続けるとき、在宅チームが本当に向き合うのは「もの忘れ」ではありません。夜中に起きて歩き回る、介護を拒む、家族を責める、といった行動・心理症状(BPSD)と、本人がうまく訴えられない体の不調、そして介護する家族の疲れです。医療と介護の役割分担をまとめます。
01在宅チームの役割分担
| 職種・事業所 | 担うこと |
|---|---|
| 訪問診療医(かかりつけ医) | 認知症の診断と経過の把握、BPSD の背景にある体の病気(痛み・感染・便秘・脱水)の診察、薬の整理と副作用の確認、必要なら認知症専門医・精神科との連携 |
| 訪問看護 | 体調の観察(本人が訴えない不調の発見)、服薬の管理、家族への対応方法の助言、BPSD の記録 |
| ケアマネジャー | ケアプラン、通所・ショートステイで生活のリズムを整える、家族の負担の把握、認知症カフェや家族会の紹介 |
| 訪問介護 | 身の回りの支援、日々の様子の変化の報告(食事・排泄・睡眠・機嫌) |
| 通所(デイサービス・デイケア) | 日中の活動と交流、入浴、家族の休息の時間 |
| 地域包括支援センター・認知症初期集中支援チーム | 診断や介護につながっていない段階での相談と訪問 |
認知症の在宅療養では、医療の出番は「困った行動を薬で抑える」ことではなく、「困った行動の裏に体の不調がないかを探す」ことです。訪問看護と介護職の観察が、その材料になります。

認知症の患者さんが急に怒りっぽくなった、夜眠らなくなった、と聞いたとき、私は「認知症が進んだ」と考える前に、痛みはないか、便は出ているか、水を飲めているか、新しい薬を始めていないかを確かめます。介護職の方の「先週から様子が違う」という一言が、診察のきっかけになります。
02BPSD の背景を探す
BPSD(行動・心理症状)は、認知症そのものの症状というより、本人が「不快」「不安」「痛い」を言葉で伝えられずに行動で表しているものと考えます。次の順に背景を探すと、対応の糸口が見つかることが多いです。
- Q1.体の不調はないか(痛み・便秘・尿路感染・脱水・発熱・皮膚のかゆみ)はい訪問診療・訪問看護が診察・処置する。治ると行動が落ち着くことが多いいいえ
- Q2.薬を変えた・増やした直後ではないか(睡眠薬・抗不安薬・抗コリン薬など)はい主治医が薬を見直すいいえ
- Q3.環境の変化はないか(入院・引っ越し・介護者の交代・通所の開始)はい慣れるまで見守り、環境を戻せるものは戻すいいえ
- Q4.介護のやり方が本人に合っていないか(急かす・否定する・身体に急に触れる)はい訪問看護・ケアマネが介護職・家族と対応を見直すいいえ
体の不調
最初に疑うこと
痛み・便秘・感染・脱水
薬
2番目に疑うこと
新しい薬・増やした薬
最小限
BPSD への薬
転倒・誤嚥の危険が増える
抗精神病薬の使用
BPSD に抗精神病薬などを使う場合は、転倒・誤嚥・意識の低下などの副作用の危険があり、専門医の判断のもとで最小限にします。「落ち着かせる薬」を安易に増やさないよう、介護職・家族から「薬が増えてから眠ってばかり」といった変化を主治医に伝えてもらいます。
03介護保険と医療の使い方
- 介護保険の申請:認知症の診断があれば、40〜64歳でも「初老期における認知症」として特定疾病に当たり、介護保険を申請できます。
- 認定調査:認知症の方は調査のときにしっかり振る舞うことがあります。普段の様子(夜間の行動、服薬の管理、金銭の管理)を家族やケアマネジャーが調査員に伝えます。主治医意見書にも BPSD を書いてもらいます。
- 通所・ショートステイ:生活のリズムを整え、家族の休息を作ります。認知症対応型のデイサービス、グループホームのショートステイなど、認知症に慣れた事業所を選びます。
- 訪問看護:介護保険で入り、服薬管理と体調の観察を担います。医療保険の精神科訪問看護は、認知症は対象から除かれています。
- 成年後見・日常生活自立支援事業:お金の管理や契約が難しくなったとき、地域包括支援センターに相談します。
04介護者を支える
認知症の在宅療養が続くかどうかは、介護者が倒れないかで決まると言っても過言ではありません。介護者が「もう無理」と言い出す前に、休息と相談先を組み込んでおきます。
介護者の負担の確認
- 夜間に何回起こされているか。介護者は眠れているか
- 介護者が自分の受診・仕事・用事の時間を取れているか
- ショートステイやデイサービスを「使ってよい」と思えているか(罪悪感を持っていないか)
- 介護者が本人に強く当たってしまう場面がないか
- 家族会・認知症カフェ・地域包括支援センターなど、話せる場所を知っているか
- 介護者自身の体調(血圧・睡眠・気分の落ち込み)

診察のとき、私は患者さんと同じくらい、付き添うご家族の顔色を見ています。「大丈夫です」と言うご家族ほど、限界が近いことがあります。ケアマネジャーから「ご家族が疲れてきている」と教えてもらえると、ショートステイの利用や薬の見直しを早めに提案できます。
05よくある質問
- 訪問診療はいつから頼む?:本人が通院を嫌がる、外来で待てない、付き添いが難しい、といった段階で相談します。「まだ歩けるから早い」ということはありません。
- 認知症の薬は在宅でも続けられる?:続けられます。訪問診療医が処方し、訪問看護や薬剤師が服薬を管理します。効果と副作用を見ながら、続けるか減らすかを主治医が判断します。
- 本人が介護を拒む:拒む理由(怖い・恥ずかしい・痛い)を探ります。介護職を変える、時間を変える、声かけを変える、で受け入れることがあります。
- 一人暮らしの認知症の方は在宅で暮らせる?:見守り・服薬管理・火の元の対策・金銭管理をチームで組めば、一定の段階までは可能です。「独居の方の在宅療養」の記事に詳しくまとめています。
- 施設への入所はいつ考える?:介護者の限界、夜間の安全、医療の必要性の3つで考えます。「まだ早い」と先送りせず、見学や申し込みは早めに始めます。
06介護職・家族への接し方の共有
BPSD への対応は「薬」より「接し方」で変わることが多く、在宅チームの中で接し方をそろえることが大切です。訪問看護やケアマネジャーが、本人に合った対応を見つけて、介護職・家族に伝えます。
| 場面 | 避けたい対応 | 試したい対応 |
|---|---|---|
| 介護を拒む | 急いで体に触れる、説得する | 一度引いて時間を置く、本人の好きな話題から入る、同性の職員に替える |
| 同じことを何度も聞く | 「さっき言いました」と返す | 毎回初めてのように答える、目に付く場所にメモを貼る |
| 夜に起きて歩く | 強く制止する | 日中の活動と日光、夕方以降の水分・カフェインの調整、トイレの誘導 |
| 家に帰ると言う(自宅にいるのに) | 「ここが家です」と否定する | 「そうですね、お茶を飲んでから」と気持ちに寄り添い、話題を変える |
| 家族を責める | 言い返す | その場を離れる。介護者の気持ちを訪問看護・ケアマネが受け止める |
07受け入れ先の探し方
Med-Tasuki(メドタスキ)では、訪問診療・訪問看護・居宅介護支援事業所・介護施設を地域ごとに探せます。医療機関・介護事業所の方は、一括依頼で近くの施設にまとめて受け入れを相談できます。
参考にした情報
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。