神経難病:全体像

神経難病の在宅療養ガイド:訪問看護・保険・支援制度の全体像

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対象:ケアマネジャー・訪問看護師・病院の MSW・訪問診療医の方、ご家族

前川 裕貴(脳神経内科専門医・頭痛専門医)

この記事の監修

前川 裕貴

脳神経内科専門医・頭痛専門医

荏原ホームケアクリニック 頭痛センター長

地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者

日本内科学会 内科専門医日本神経学会 神経内科専門医日本頭痛学会 頭痛専門医難病指定医

Med-Tasuki(メドタスキ)は、監修者が開発した、在宅医療・介護の施設どうしが患者さんの受け入れをチャットで相談できる無料のサービスです。近くの施設へまとめて相談できる一括依頼も使えます。

ひとことで言うと

神経難病の在宅療養は、医療保険・介護保険・難病医療費助成・障害福祉の4つの制度を組み合わせて支えます。病名で訪問看護の保険が変わる点と、進行を見越した準備が要です。

神経難病は、脳・脊髄・末梢神経・筋肉の病気のうち、原因がはっきりせず、長く付き合っていく病気をまとめた呼び方です(法律上の用語ではありません)。筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症、脊髄小脳変性症、多発性硬化症、重症筋無力症、筋ジストロフィーなどが含まれます。

在宅療養では、使える制度が多く、病名や年齢で使い分けが変わるのが特徴です。この記事では、在宅チームの顔ぶれ、制度の全体像、訪問看護の保険の決まり方、相談先を1本にまとめます。詳しい内容は、見出しごとに紹介している個別の記事で説明しています。

神経難病の在宅療養で起こりうること

症状の出方や進むスピードは、病気によっても、同じ病気の人どうしでも大きく違います。在宅チームとしては、次のような変化が起こりうることを頭に置き、今の状態だけでなく「次に必要になりそうなこと」を先に準備しておくことが大切です。

  • 動く・歩く:転倒が増える、立ち上がりや移乗に介助が要る、寝返りが難しくなる
  • 食べる・飲み込む:むせやすくなる、食事に時間がかかる、栄養や水分が足りなくなる
  • 呼吸:たんが出しにくくなる、夜間の呼吸が浅くなる。人工呼吸器を使う方もいます
  • 話す・伝える:声が小さい、言葉が聞き取りにくい。文字盤や意思伝達装置を使う方もいます
  • 介護する家族の負担:夜間のたんの吸引や体位変換が続き、休めなくなる

在宅チームの顔ぶれ

  • 脳神経内科などの専門医(病院の外来):診断、病気そのものの治療、節目での方針の相談
  • 訪問診療医(在宅医):定期的な診療と急変時の対応、訪問看護指示書の作成
  • 訪問看護:医療処置、状態の観察、リハビリ、家族への指導、看取りの支援
  • ケアマネジャー:介護保険のケアプランと事業所の調整
  • 相談支援専門員:障害福祉サービス(居宅介護・重度訪問介護など)の計画づくり
  • 保健所の保健師:難病の方の療養相談や家庭訪問、地域の関係機関との調整
  • 訪問リハビリ・訪問介護・薬局・訪問歯科・福祉用具の事業所

専門医の外来と訪問診療を併用するときは、「処方はどちらが出すか」「訪問看護指示書は誰が書くか」「夜間や急変時はどこに連絡するか」を最初に決めておくと、家族もチームも迷いません。

使える制度は大きく4つ

神経難病の在宅療養は、主に次の4つの制度を組み合わせて支えます。どれか1つだけで足りることは少なく、それぞれの窓口も違います。

  1. 1

    医療保険

    訪問診療・往診、訪問看護(病名や状態によって医療保険になります。次の見出しで説明します)、薬局の在宅訪問など。

  2. 2

    介護保険

    65歳以上の方は原因を問わず、40〜64歳の方は「特定疾病」(16の病気)が原因のときに使えます。ALS、パーキンソン病関連疾患、脊髄小脳変性症、多系統萎縮症は特定疾病に入っていますが、多発性硬化症・重症筋無力症・筋ジストロフィーなどは入っていません。

  3. 3

    難病医療費助成(難病法)

    指定難病(2026年4月時点で348疾病)と診断され、重症度などの基準を満たすと、医療費の自己負担が原則2割になり、ひと月の上限額が決まります。訪問看護・訪問診療・薬局のほか、介護保険の訪問看護なども対象です。

  4. 4

    障害福祉サービス(障害者総合支援法)

    対象の病気(2025年4月から376疾病)の方は、身体障害者手帳がなくても、区市町村が必要と認めれば、居宅介護・重度訪問介護・短期入所・補装具・日常生活用具などを使えます。

このほか、障害の状態によっては身体障害者手帳を取得でき、区市町村のサービスが広がることがあります。また、東京都には在宅難病患者向けの独自の事業(レスパイト、医療機器の貸し出しなど)があります。

訪問看護は「別表7」で保険が変わる

要介護・要支援の認定を受けた方の訪問看護は、原則として介護保険で行います。ただし、「厚生労働大臣が定める疾病等」(通称「別表7」)に当たる方は、認定を受けていても医療保険の訪問看護になります。別表7には、神経の病気として次のものが入っています。

  • 多発性硬化症、重症筋無力症、スモン、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、ハンチントン病、進行性筋ジストロフィー症
  • パーキンソン病関連疾患:進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病(ホーエン・ヤールの重症度分類ステージ3以上で、生活機能障害度がⅡ度またはⅢ度のものに限る)
  • 多系統萎縮症、プリオン病、亜急性硬化性全脳炎、ライソゾーム病、副腎白質ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症、球脊髄性筋萎縮症、慢性炎症性脱髄性多発神経炎
  • 頸髄損傷、人工呼吸器を使用している状態(ほかに末期の悪性腫瘍、後天性免疫不全症候群も入っています)

別表7に当たると、医療保険の訪問看護で週4日以上の訪問、1日に複数回の訪問、2か所の訪問看護ステーションの利用(週7日の訪問が計画されている間は3か所まで)ができます(2026年9月時点)。

「指定難病」と「別表7」は別の一覧です

指定難病であっても、別表7に入っていない病気は、要介護認定があれば訪問看護は介護保険が原則です。また、パーキンソン病は重症度の条件を満たしたときだけ別表7に当たります。病名だけで判断せず、主治医に確認しましょう。

医療処置と暮らしの道具の準備

病気が進むと、たんの吸引、胃ろうなどの経管栄養、人工呼吸器(マスクで使う NPPV、気管切開をして使う TPPV)といった医療処置が加わることがあります。たんの吸引や経管栄養は、家族や看護職のほか、研修を受けて登録した介護職員も、医師の指示のもとで一定の条件を満たせば行えます。

道具の準備も早めが安心です。電気式たん吸引器やパルスオキシメーターなどは障害福祉の「日常生活用具」、意思伝達装置や車いすは「補装具」の対象になります。東京都では、在宅療養中の難病の方に吸入器・吸引器を貸し出す事業や、人工呼吸器を使う方の非常用電源の整備を補助する事業もあります。人工呼吸器を使う方は、停電や災害への備えも欠かせません。

先を見越した話し合いと家族の休息

神経難病では、胃ろうをつくるか、人工呼吸器をつけるか、どこで最期を過ごしたいか、といった大きな選択を迫られることがあります。症状が進んで意思を伝えにくくなる前に、ご本人・ご家族と医療・介護のチームで繰り返し話し合っておくことが大切です(人生会議、ACP とも呼ばれます)。

長い療養では、介護する家族の休息も計画に入れておきます。介護保険のショートステイ、障害福祉の短期入所のほか、東京都には難病の方が一時的に入院できる「在宅難病患者一時入院事業」や、人工呼吸器を使う方の自宅に看護人を派遣する「難病患者在宅レスパイト事業」があります。

困ったときの相談先

  • 入院中なら、病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)や退院支援の窓口
  • 保健所・保健センター:難病の療養相談、家庭訪問、東京都の在宅難病患者向け事業の申し込み(東京都の特別区・八王子市・町田市は保健所・保健センター等、それ以外の多摩・島しょ地域は都の保健所)
  • 難病相談支援センター:療養生活の相談、公的な手続きの助言、就労の相談など(東京都は東京都難病相談・支援センターなど3か所)
  • 区市町村の窓口:難病医療費助成の申請(東京都の場合)、障害福祉サービス、身体障害者手帳
  • 地域包括支援センター:65歳以上の方などの介護保険の相談

Med-Tasukiで在宅チームを探す

神経難病の方の在宅チームを組むときは、人工呼吸器やたんの吸引、1日複数回の訪問など、対応できる事業所が限られる条件が重なりがちです。Med-Tasukiの一括依頼では、患者さんの住所(町名まで)と条件を入れると、近くの施設へまとめて受け入れを相談でき、引き受けた施設とはそのままチャットで調整できます。

参考にした情報

監修者のプロフィール

前川 裕貴(脳神経内科専門医・頭痛専門医)
前川 裕貴

Maekawa Hirotaka

脳神経内科専門医・頭痛専門医

地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者

日本内科学会 内科専門医日本神経学会 神経内科専門医日本頭痛学会 頭痛専門医難病指定医

脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。

2012〜2018年順天堂大学 医学部 医学科
2018〜2020年東京逓信病院 初期臨床研修
2020〜2023年東京大学医学部附属病院 脳神経内科 特任臨床医
2023年〜埼玉精神神経センター 頭痛専門外来
荏原ホームケアクリニック 頭痛センター長
昭和医科大学 脳神経内科 客員講師
2025年〜株式会社Iris Wellness設立

在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。

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監修:前川 裕貴脳神経内科専門医・頭痛専門医)/この記事は情報提供を目的としたもので、診断・治療を行うものではありません。受け入れの状況や費用は各施設に、治療の判断は主治医にご相談ください。