ひとことで言うと
心不全は「よくなったり悪くなったり」を繰り返しながら進む病気です。在宅チームの仕事は、体重の増加・むくみ・息切れといった悪化のサインを早くつかんで、入院になる前に医師につなぐことです。毎日の体重測定が最も簡単で確かな手がかりになります。
心不全は、心臓のポンプの力が弱まり、体に水がたまったり息切れが出たりする状態です。高齢の方に多く、退院しても数か月以内に再び入院することが珍しくありません。在宅チームが悪化のサインを早くつかめば、入院を減らし、自宅での暮らしを長く保てます。
01心不全の在宅療養の特徴
心不全は、がんのように一方向に進むのではなく、悪化(増悪)と回復を繰り返しながら、少しずつ体力が落ちていきます。増悪のたびに入院すると、そのたびに体力と生活の力が落ちます。在宅の目標は「増悪を早く見つけて、入院しないで済む段階で手を打つ」ことです。
毎日
体重を測る
同じ時間・同じ条件で
2kg
数日で増えたら連絡
医師と決めた目安で
塩分
最も効く生活の管理
1日6g未満が目安

心不全の患者さんに私が最初にお願いするのは、毎朝トイレのあとに体重を測ってノートに書くことです。体重の増え方は、むくみや息切れより先に悪化を教えてくれます。訪問看護師さんがそのノートを見て「2kg増えています」と連絡をくれると、利尿薬の調整だけで入院を避けられることがよくあります。
02悪化のサインと連絡の目安
| サイン | 見方 | 目安 |
|---|---|---|
| 体重の増加 | 毎朝同じ条件で測る | 2〜3日で2kg以上増えたら連絡(医師と決めた目安で) |
| むくみ | すね・足の甲を押してへこみが残るか。靴がきつい | 前より強くなったら連絡 |
| 息切れ | 歩くと苦しい。横になると苦しくて座って寝る | 横になれない・夜中に苦しくて起きるは早めに連絡 |
| 尿の量 | 減ってきた | 利尿薬を飲んでいるのに減ったら連絡 |
| 食欲・だるさ | 食べられない・体を動かしたくない | 数日続いたら連絡 |
| 脈・血圧 | 脈が速い・乱れる。血圧が普段より低い | 普段の値と比べて大きく違えば連絡 |
連絡の目安の数字は、主治医が患者さんごとに決めます。訪問看護は、決めた数字をノートやカレンダーに書いて、家族・介護職と共有します。
- Q1.横になれないほど苦しい・唇が紫色・意識がもうろうはい救急車(119番)。同時に訪問看護・医師に連絡いいえ
- Q2.体重が目安を超えて増えた・むくみや息切れが強くなったはいその日のうちに訪問看護か主治医に連絡。利尿薬の調整や早めの診察いいえ
- Q3.食欲がない・だるいが、息切れやむくみは変わらないはい次の訪問で報告。数日続くなら連絡いいえ
03在宅チームの役割分担
| 職種・事業所 | 担うこと |
|---|---|
| 訪問診療医 | 薬の調整(利尿薬・心臓を守る薬)、悪化時の早期の診察、病院の循環器科との連携、急変時の方針の確認 |
| 訪問看護 | 体重・むくみ・呼吸・脈の観察、服薬の確認、塩分・水分の指導、悪化の連絡、心臓に負担の少ない動き方の指導 |
| 薬局 | 薬の配達・一包化、利尿薬の飲み忘れの確認、飲み合わせの確認(痛み止めなど心不全を悪くする薬) |
| ケアマネジャー | 入浴や外出の負担の調整、通所での運動(心臓リハビリ)の検討、家族の介護の負担の把握 |
| 訪問介護 | 食事の塩分への配慮、体重の記録の手伝い、様子の変化の報告 |
| 訪問リハビリ | 息切れが少ない動作、無理のない運動、体力の維持 |
心不全の在宅療養では、訪問看護の「観察して連絡する」役目が特に重要です。医師が2週間に1回訪問する間に、訪問看護が週に1〜2回、体重と症状を見て変化を拾います。
04日々の管理のポイント
心不全の在宅での管理
- 体重:毎朝、排尿後・朝食前に同じ体重計で測り、記録する
- 塩分:1日6g未満が目安。漬物・干物・練り物・汁物を控える。減塩の調味料
- 水分:医師から制限を言われている方は量を守る。言われていなければ極端に控えない
- 服薬:利尿薬は飲み忘れると数日で悪化する。一包化・服薬カレンダー・訪問看護の確認
- 市販の痛み止め(NSAIDs)は心不全を悪くすることがある。医師・薬局に相談してから
- 入浴:長湯・熱い湯を避ける。体調が悪い日は清拭に
- 感染の予防:風邪や肺炎は心不全を悪化させる。インフルエンザ・肺炎球菌の予防接種
- 禁煙・節酒
「元気だから」と薬をやめない
心不全の薬は、症状がないときも心臓を守るために続けるものです。むくみが取れたからと利尿薬をやめたり、血圧が低めだからと自己判断で薬を減らしたりすると、数日で悪化することがあります。薬の変更は必ず医師に相談するよう、本人・家族・介護職に伝えます。

心不全の患者さんは、調子がよいときほど薬を減らしたくなるものです。私は「薬は症状を抑えるためではなく、心臓を守るためのもの」と繰り返し説明します。それでも飲み忘れは起きるので、薬剤師さんの一包化と訪問看護師さんの確認に助けられています。
05病院との連携と急変時の方針
- 病院の循環器科との役割分担:専門的な検査や薬の調整は病院、日常の管理と悪化の早期対応は在宅、という分担を決め、退院時に共有します。
- 再入院の受け入れ:悪化して在宅で対応しきれないときに戻れる病院を決めておくと、ご家族の安心につながります。
- 急変時の方針:心不全は突然の不整脈で急変することがあります。心肺蘇生を望むか、病院への搬送を望むかを、本人・家族と話し合って記録し、チームで共有します。
- 進行した心不全の緩和ケア:治療を尽くしても症状が抑えられない段階では、息苦しさを和らげる緩和ケアが行われます。訪問診療医と病院で方針を相談します。
06よくある質問
- 心不全で訪問看護は医療保険?介護保険?:介護保険の認定があれば介護保険です。急に悪化して頻回の訪問が要るときは、特別訪問看護指示書で14日間は医療保険になります。
- 通所(デイサービス)に行ってもよい?:主治医の許可があれば行けます。心臓リハビリを行う通所リハビリがあれば、体力の維持に役立ちます。入浴の負担には注意します。
- 在宅酸素が必要になる?:心不全が進んで酸素が足りなくなると、在宅酸素療法を使うことがあります。「在宅酸素療法を始める患者さんの在宅チーム」の記事を参照してください。
- 家族が食事の塩分を管理できない:配食サービス(減塩食)や、訪問介護の調理の支援を使います。薬局や栄養士の相談も使えます。
07体重ノートの付け方
心不全の在宅療養で最も役に立つ記録は、体重ノートです。訪問看護が最初の訪問で書き方を決め、家族や介護職が続けられる形にします。
体重ノートに書くこと
- 日付と体重(毎朝、排尿後・朝食前、同じ体重計・同じ服装)
- 連絡の目安の体重(医師と決めた「この数字を超えたら連絡」)をノートの表紙に書く
- むくみの有無(すねを押してへこむか)
- 息切れの程度(普段どおり・少し強い・横になれない)
- 利尿薬を飲んだか
- 塩分の多い食事をした日(外食・惣菜など)
- 気になったことのメモ(夜中に起きた、食欲がない など)
ノートは、訪問看護と訪問診療のたびに見ます。数字の変化だけでなく「塩分の多い食事のあとに体重が増えた」といったつながりが見えると、本人・家族の理解が深まります。
08受け入れ先の探し方
Med-Tasuki(メドタスキ)では、訪問診療・訪問看護を地域や対応内容で探せます。医療機関・介護事業所の方は、一括依頼で近くの施設にまとめて受け入れを相談できます。
参考にした情報
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。