ひとことで言うと
訪問診療は「計画的に定期的に」、往診は「頼まれて臨時に」行く診療です。通院が難しい方の日常の管理は訪問診療が土台で、往診はその上で急な変化に対応する仕組みです。
「往診をお願いしたい」という相談を受けたとき、実際に必要なのは「訪問診療」であることがよくあります。似た言葉ですが、保険の上では別の仕組みで、頼み方も変わります。この記事では、2つの違いと、通院が難しくなった患者さんに訪問診療を頼むときの流れをまとめます。
01訪問診療と往診は何が違うか
訪問診療は、通院が困難な患者さんの自宅や施設へ、医師があらかじめ立てた計画に沿って定期的に(例えば2週間に1回)出向く診療です。往診は、患者さんやご家族、訪問看護師などの求めに応じて、医師がそのつど臨時に出向く診療です。
| 訪問診療 | 往診 | |
|---|---|---|
| 行くきっかけ | 医師が立てた診療計画(定期) | 患者さん側からの求め(臨時) |
| 頻度 | 月1〜2回など決まった間隔 | 必要なときだけ |
| 対象 | 通院が困難で、継続した診療が必要な方 | 急な発熱・痛み・状態の変化など |
| 多いのは | 在宅医療を専門にする診療所 | かかりつけの診療所、訪問診療をしている診療所 |
| 夜間・休日 | 計画の中では原則なし | 24時間対応の診療所なら可能 |
訪問診療を受けている患者さんが急に悪くなったとき、その診療所が臨時に出向くのも「往診」です。2つは対立するものではなく、訪問診療の上に往診が乗る形です。
言い換えると、訪問診療は「かかりつけ医が自宅に来る」仕組み、往診は「具合が悪いときに来てもらう」仕組みです。通院できなくなった方の血圧や糖尿病、認知症などの日常の管理は訪問診療で行い、急な変化には往診で対応します。

「往診できますか」と聞かれたとき、私はまず「定期的に伺う訪問診療をご希望ですか、今日だけ来てほしいのですか」と聞き返します。初めての患者さんの往診だけを受けることは難しい場合が多く、訪問診療として継続して診る前提であれば、急なときにも往診で対応しやすくなります。
02費用の仕組み(金額は診療所で確認を)
どちらも医療保険の対象で、自己負担は年齢と所得に応じた割合(1〜3割)です。訪問診療では、診療そのものの費用のほかに、月ごとの「在宅時医学総合管理料」(施設に入っている方は「施設入居時等医学総合管理料」)という管理料がかかります。これは、計画を立てて継続的に診る仕組みへの費用で、24時間対応の体制がある診療所かどうかなどで額が変わります。
医療保険
訪問診療・往診とも
自己負担は1〜3割。高額療養費の対象
月ごと
在宅時医学総合管理料
訪問診療を継続して受ける月にかかる
別料金
交通費・夜間休日
診療所の決まりによる。事前に確認
金額は書きません
自己負担の額は、診療所の体制・訪問の回数・病状・住まいの種類で変わります。この記事では金額を示さず、依頼の前に診療所に「月におよそいくらか」を確認することをおすすめします。高額療養費や、難病・障害の医療費助成が使える方は、上限が決まります。
03訪問診療を頼めるのはどんな人か
訪問診療の対象は「通院が困難な方」です。年齢や病名で決まるのではなく、寝たきりかどうかだけでもありません。歩けても、認知症で一人では通院できない、通院のたびに強い疲れや痛みが出る、家族が付き添えない、といった事情も含めて判断します。詳しくは「訪問診療の対象になる人と始め方」の記事にまとめています。
- Q1.今後も通院は難しく、定期的に医師に診てほしいはい訪問診療を依頼する(急なときの往診もその診療所に)いいえ
- Q2.普段は通院できるが、今回だけ動けないはいかかりつけ医に往診を相談。難しければ地域の在宅医にいいえ
- Q3.今すぐ命に関わる症状(意識がない・息ができない など)はい救急車(119番)いいえ
04訪問診療を頼むときの流れ
- 1
診療所を探す
訪問先の住所が診療所の対応エリアに入るかがまず決まります。専門(緩和ケア・認知症・小児など)や、24時間対応の体制も見ます。
- 2
最初の連絡で状況を伝える
住所(町名まで)、病名と経過、医療処置の有無、介護保険の状況、いまの主治医、いつから来てほしいかを伝えると、受けられるかの返事が早くなります。
- 3
診療情報提供書を用意する
いまの主治医(病院・かかりつけ医)に、診療情報提供書(紹介状)とお薬の情報を頼みます。退院の場合は病院の MSW や退院支援看護師が手配します。
- 4
初回訪問と計画づくり
医師が訪問して診察し、訪問の間隔、急なときの連絡先、訪問看護や薬局との分担を決めます。ご本人・ご家族の希望もここで確かめます。
- 5
訪問看護・薬局と役割を分ける
医療処置がある方は訪問看護指示書を、お薬の配達や管理が必要な方は薬局への指示を、医師が出します。
診療所への最初の連絡で伝えること
- 住所(町名・丁目まで)と住まいの種類(自宅・有料老人ホーム・サ高住など)
- 病名・経過と、いまの主治医
- 医療処置(在宅酸素・胃ろう・カテーテル・褥瘡・医療用麻薬 など)
- 通院が難しい理由
- 介護保険の認定と担当のケアマネジャー
- ご本人・ご家族の希望(最期まで自宅で、など決まっていれば)
- いつから訪問してほしいか

受ける側として助かるのは、「なぜ通院が難しくなったか」と「ご本人が何を望んでいるか」が最初にわかることです。病名の一覧だけよりも、その2つがあると、訪問の間隔や急なときの備えをすぐに考えられます。
05よくある質問
- 施設に入っていても頼める?:有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、グループホームなどにも訪問診療は入ります。施設が提携している診療所が決まっていることもあるので、施設に確認します。
- かかりつけ医は変えないといけない?:訪問診療を始めると、日常の診療はその診療所が担うことが多くなります。専門の病院への通院(がんの治療など)は並行して続けられます。
- 訪問看護だけでは足りない?:訪問看護には医師の指示書が要り、薬の処方や診断は医師にしかできません。訪問看護と訪問診療は組み合わせて使うものです。
06往診だけを頼みたいときの現実
「普段は通院しているが、今日は熱があって動けない」というときに、かかりつけ医が往診してくれるかは診療所によります。外来の合間に出向く体制がない診療所も多く、その場合は地域の在宅医に相談することになります。ただし、初めての患者さんの往診だけを引き受ける在宅医は限られます。診察の情報がない状態で臨時に伺うのは、医師にとっても患者さんにとっても危険が大きいからです。
- かかりつけ医がいる場合:まずかかりつけ医に電話で相談します。往診が難しくても、電話で指示をもらえたり、在宅医を紹介してもらえたりします。
- 訪問看護が入っている場合:訪問看護師に状態を見てもらい、主治医に連絡してもらうのが早い道です。指示書の主治医が往診や処方で対応します。
- 在宅医がいない場合:休日・夜間の診療所(休日診療所・夜間急病センター)や、自治体の救急相談(東京都は #7119)に相談します。
- 状態が悪ければ救急車:意識がおかしい、息が苦しい、胸が痛い、けいれん、大量の出血などは、往診を待たず119番です。
通院が難しくなってきたと感じた時点で、往診の相談ではなく訪問診療の相談に切り替えるのが、結局はご本人の安心につながります。訪問診療が始まっていれば、急なときも「いつもの先生」が来てくれます。
07受け入れ先の探し方
Med-Tasuki(メドタスキ)では、訪問診療クリニックを地域ごとに探せます。対応エリア・24時間対応・看取りの対応などで絞り込め、登録している診療所にはチャットで直接相談できます。医療機関・介護事業所の方は一括依頼で、近くの診療所にまとめて受け入れを相談できます。
参考にした情報
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。