ひとことで言うと
在宅酸素は、医師が処方し、業者が機器を設置し、訪問看護が使い方と体調を見守る形で進みます。火気の禁止・停電への備え・外出用ボンベの管理を、退院前に家族と確かめておくことが大切です。
在宅酸素療法(HOT)は、COPD や間質性肺炎、心不全などで体の酸素が足りない方が、自宅で酸素を吸いながら暮らすための治療です。退院時に始まることが多く、機器・火気・停電・外出と、在宅チームで確かめることが多い処置でもあります。受け入れの流れと役割分担をまとめます。
01在宅酸素療法とは
在宅酸素療法は、病院で検査をして酸素が必要と判断された方に、医師が酸素の量(1分あたり何リットル)と使う時間(安静時・労作時・睡眠時)を処方し、自宅に酸素の機器を置いて行います。機器は「酸素濃縮器」(電気で空気から酸素を取り出す)が中心で、外出用に「携帯用酸素ボンベ」や「携帯型濃縮器」を組み合わせます。
医療保険
在宅酸素療法指導管理料
機器の費用も含めて医療機関が算定
火気厳禁
酸素の周りの2m
たばこ・ガスコンロ・ろうそく
停電
濃縮器は止まる
予備のボンベが命綱
| 機器 | 使う場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| 酸素濃縮器 | 自宅で日常的に | 電気が要る。停電で止まる |
| 携帯用酸素ボンベ | 外出・停電時 | 残量の確認。使い切ると空になる |
| 携帯型酸素濃縮器 | 外出が多い方 | 電池の持ち時間 |
| 液体酸素 | 高流量が必要な方など | 取り扱いの説明が要る |
機器は医療機関が契約する業者が設置し、定期的に点検します。故障や停電のときの連絡先は業者です。
02在宅チームの役割分担
| 職種・事業所 | 担うこと |
|---|---|
| 処方する医師(病院・訪問診療) | 酸素の量・時間の処方、月ごとの管理料の算定、業者への機器の手配 |
| 機器業者 | 設置・使い方の説明・定期点検・故障や停電時の対応 |
| 訪問看護 | 酸素飽和度(SpO2)と呼吸の観察、機器の使い方の確認、火気・カニューレの管理、悪化のサインの早期発見 |
| ケアマネジャー | 住環境(延長チューブの取り回し・転倒防止)、通所や外出時のボンベの扱い、家族の理解の確認 |
| 薬局 | 吸入薬の使い方の指導、飲み薬との管理 |
| 訪問リハビリ | 息切れが少ない動き方、呼吸法、体力の維持 |
退院で在宅酸素が始まるときは、病院の主治医が処方して業者を手配し、退院後は訪問診療医またはかかりつけ医が管理を引き継ぎます。引き継ぎのときに「誰が処方して管理料を算定するか」を病院と診療所の間で決めておかないと、業者への指示が宙に浮きます。

在宅酸素を引き継ぐとき、私が最初に確かめるのは処方された量と時間だけではなく、「その方が実際に何リットルで、いつ使っているか」です。息が苦しいと自分で量を上げてしまう方がいて、それが病状を悪くすることもあります。訪問看護師さんの観察がここでは欠かせません。
03導入までの流れ
- 1
病院で酸素の必要性を判断
血液の酸素の検査や、歩いたときの酸素飽和度の検査で、処方の量と時間を決めます。
- 2
業者が自宅に機器を設置
退院の前日〜当日に設置し、ご本人・ご家族に使い方を説明します。退院前に自宅の電源とチューブの取り回しを確かめます。
- 3
退院前カンファレンス
訪問看護・ケアマネジャー・訪問診療医に、酸素の処方、悪化のサイン、緊急時の連絡先を共有します。
- 4
在宅での見守り
訪問看護が酸素飽和度と息切れの様子を記録し、変化があれば医師に連絡します。
- 5
定期の見直し
状態に合わせて医師が酸素の量を見直します。ご本人の判断で量を変えないよう、繰り返し伝えます。
04在宅で必ず確かめること
在宅酸素療法の安全チェック
- 酸素の周り2m以内に火気がない(たばこ・ガスコンロ・仏壇のろうそく・ストーブ)。本人と家族の喫煙
- 調理は電磁調理器(IH)にするか、調理中は酸素を外して離れる
- 停電時の手順:携帯用ボンベに切り替える方法を家族が知っているか。ボンベの残量
- 業者の緊急連絡先が電話の近くに貼ってあるか
- 延長チューブでの転倒の危険がないか(家具の配置・夜間の動線)
- 鼻のカニューレによる皮膚のただれ、乾燥
- 外出(通所・受診)のときのボンベの持ち運びと残量の計算
- 悪化のサインと連絡先:息切れの増え方、唇や爪の色、発熱、むくみ
酸素の量を勝手に変えない
COPD の方では、酸素を吸いすぎると呼吸の働きがかえって落ちることがあります(CO2 ナルコーシス)。苦しいからといって自分で量を増やさず、医師の処方どおりに使うことを、ご本人・ご家族・介護職に繰り返し伝えます。

火気の注意は「わかっています」と言われることが多いのですが、訪問すると仏壇のろうそくや石油ストーブが酸素のすぐそばにあることがあります。訪問看護師さんやケアマネジャーが家の中を見て気づいたことは、遠慮なく主治医にも伝えてください。
05外出・通所・受診のときの段取り
在宅酸素の方でも、通所リハビリや受診、買い物などの外出はできます。携帯用のボンベか携帯型濃縮器を使いますが、「何時間もつか」を計算しておかないと、外出先で酸素が切れます。
- ボンベの持ち時間:ボンベの大きさと処方の流量で決まります。業者に「この流量で何時間か」を確かめ、往復の時間と滞在の時間に余裕を足します。
- 同調器:吸うときだけ酸素を流す器具を使うと、ボンベが長くもちます。処方に合うかは医師と業者に確かめます。
- 通所の事業所への連絡:酸素を使っていること、流量、緊急時の連絡先を事前に伝えます。送迎の車内でのボンベの固定も確かめます。
- 受診:病院の外来では酸素を借りられることもあります。事前に病院に聞いておきます。
- 旅行・帰省:業者に相談すると、旅行先での機器の貸し出しを手配できることがあります。
06よくある質問
- 電気代はどれくらい?:酸素濃縮器は電気を使い続けます。電気代は自己負担です。自治体によっては助成があるので、市区町村の障害福祉の窓口に確かめます。
- 停電が長引いたら?:ボンベの残量で持ちこたえる間に、業者・訪問看護・医師に連絡します。長引くなら、病院への一時的な入院や避難所の電源の利用を相談します。台風や計画停電の予報が出たら、前もってボンベを多めに用意してもらいます。
- 在宅酸素があると介護保険の認定は上がる?:認定は日常生活の介助の量で決まるので、酸素だけで決まるものではありません。ただ、息切れで動作に時間がかかることは調査で伝えます。
- 身体障害者手帳は取れる?:呼吸機能障害で手帳の対象になることがあります。手帳を取ると、電気代の助成や交通費の割引などが使える自治体もあります。主治医に相談します。
07訪問看護の観察の要点
| 項目 | 見方 | 連絡の目安 |
|---|---|---|
| 酸素飽和度(SpO2) | 安静時と、動いた後に測る。普段の値を記録 | 医師と決めた値を下回る、普段より明らかに低い |
| 息切れ | 会話が続くか。日常の動作で休む回数 | 普段より増えている |
| 機器 | 流量の設定が処方どおりか。チューブの折れ・水漏れ。フィルターの汚れ | 設定が変えられている、異音 |
| 皮膚 | 鼻の下・耳の後ろのカニューレの跡、ただれ | 皮膚が破れている |
| 生活 | 火気の状況、停電への備え、ボンベの残量 | 火気が近い、ボンベが空に近い |
08受け入れ先に伝えること
在宅酸素の方の訪問看護や訪問診療を依頼するときは、酸素の処方(量・時間)、機器の種類、業者名、元の病気(COPD・間質性肺炎・心不全など)、外出の頻度を伝えると、受けられるかの判断が早くなります。在宅酸素は別表8に当てはまるので、医療保険の訪問看護では週4日以上の訪問ができます。
参考にした情報
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。