在宅の医療処置とケア

在宅中心静脈栄養(HPN)と輸液:訪問看護・薬局との分担

公開|内容の確認:

対象:病院の MSW・退院支援看護師、ケアマネジャー、訪問看護師、薬局の方

前川 裕貴(脳神経内科専門医・頭痛専門医)

この記事の監修

前川 裕貴

脳神経内科専門医・頭痛専門医

荏原ホームケアクリニック 頭痛センター長

地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者

日本内科学会 内科専門医日本神経学会 神経内科専門医日本頭痛学会 頭痛専門医難病指定医

Med-Tasuki(メドタスキ)は、監修者が開発した、在宅医療・介護の施設どうしが患者さんの受け入れをチャットで相談できる無料のサービスです。近くの施設へまとめて相談できる一括依頼も使えます。

ひとことで言うと

在宅中心静脈栄養は、医師の処方、薬局の無菌調剤と配達、訪問看護のルート管理と観察で成り立ちます。無菌調剤ができる薬局と、CV ポートや PICC に対応できる訪問看護は限られるので、退院前に受け入れ先を確かめます。

口から食べられず、胃や腸も使えない方に、静脈から栄養を入れる治療が中心静脈栄養です。これを自宅で続けるのが在宅中心静脈栄養(HPN)です。無菌の輸液を用意する薬局、カテーテルを扱える訪問看護、処方と管理をする医師の3者がそろわないと始められません。受け入れの流れと分担をまとめます。

01在宅中心静脈栄養とは

鎖骨の下や腕の静脈から心臓の近くまで細い管(中心静脈カテーテル)を入れ、高カロリーの輸液を1日数時間〜24時間かけて入れます。カテーテルには、皮膚の下に埋め込む「CV ポート」、腕から入れる「PICC」、皮膚から直接出ている「体外式カテーテル」があります。がんの方、腸の手術後で腸が使えない方、神経の病気で飲み込みが難しく胃ろうも使えない方などが対象です。

中心静脈カテーテルの種類
種類特徴在宅での扱い
CV ポート皮膚の下に埋め込む。使うときに専用の針を刺す針の交換は看護師。入浴しやすい
PICC腕の静脈から入れる。皮膚から管が出ている刺入部の消毒と固定。腕の動きに注意
体外式(鎖骨下など)皮膚から管が出ている刺入部の消毒。抜けやすいので固定が重要

無菌調剤

薬局の設備

できる薬局は限られる

別表8

中心静脈栄養

医療保険の訪問看護で週4日以上可

発熱

最も注意するサイン

カテーテル感染の疑い

02在宅チームの役割分担

在宅中心静脈栄養の分担
職種・事業所担うこと
訪問診療医輸液の処方(内容・量・速度)、在宅中心静脈栄養法指導管理料の算定、感染や閉塞のときの判断、輸液ポンプや物品の手配
薬局(無菌調剤対応)輸液の無菌調剤(クリーンベンチで混ぜる)、自宅への配達、保管方法の説明、消毒物品の供給
訪問看護輸液の接続・交換、ポートの針の交換、刺入部の観察と消毒、ポンプの操作、体重・むくみ・血糖・発熱の観察、家族への手技の指導
ケアマネジャー輸液の保管場所(冷蔵庫)、点滴スタンドや動線の確保、通所・入浴のときの扱い
病院退院前の手技指導、カテーテルのトラブル時の受け入れ

輸液は、薬局が処方せんに基づいて無菌の環境で混ぜ、冷蔵で自宅に届けます。無菌調剤の設備を持つ薬局は多くないため、退院前に受けられる薬局を確かめることが最初の仕事になります。訪問看護も、ポートの針の交換や PICC の管理に慣れたステーションが必要です。

前川 裕貴
医師のひとこと前川 裕貴脳神経内科専門医・頭痛専門医
在宅中心静脈栄養で私が一番気にしているのは、薬局と訪問看護の間で「誰が何をいつ届け、誰がいつ交換するか」が細かく決まっているかです。輸液が切れる、消毒物品が足りない、といった小さな行き違いが、患者さんの不安につながります。退院前に一度、3者で時間割を合わせてもらえると助かります。

03退院から在宅での開始まで

  1. 1

    受け入れ先の確保

    無菌調剤ができる薬局、CV ポート・PICC に対応できる訪問看護、在宅中心静脈栄養の管理ができる訪問診療医を探します。1つでも欠けると始められません。

  2. 2

    病院での手技指導

    入院中に、ご家族(または本人)が輸液の接続・取り外し、ポンプの操作、緊急時の対応を練習します。

  3. 3

    退院前カンファレンス

    輸液の処方内容、交換の時間割、物品の供給ルート、感染や閉塞のときの連絡先を確認します。

  4. 4

    初回の在宅訪問

    退院当日または翌日に訪問看護が入り、自宅の環境で手技を確かめます。

  5. 5

    定期の見直し

    体重・血液検査で栄養の状態を見て、医師が輸液の内容を調整します。

04在宅で注意するサイン

訪問看護・家族が観察すること

  • 発熱・悪寒(カテーテル感染の疑い。すぐ医師に連絡)
  • 刺入部の赤み・腫れ・痛み・膿
  • 輸液が落ちない・ポンプのアラーム(カテーテルの閉塞や折れ)
  • 腕や首のむくみ・痛み(血栓の疑い)
  • カテーテルの抜け・破損
  • 血糖の乱れ(だるさ・口の渇き・冷や汗)
  • 輸液の保管(冷蔵・使用期限)と物品の残量

発熱したとき

在宅中心静脈栄養の方の発熱は、カテーテルからの感染(カテーテル関連血流感染)の可能性があり、放置すると重症になります。夜間・休日でも医師に連絡する取り決めを、退院前に確かめておきます。

前川 裕貴
医師のひとこと前川 裕貴脳神経内科専門医・頭痛専門医
カテーテル感染は早く気づけば抗菌薬やカテーテルの入れ替えで対応できますが、遅れると命に関わります。私は「37.5度を超えたら時間を問わず連絡してください」と、ご家族と訪問看護師さんに具体的な数字で伝えるようにしています。

05在宅での点滴(末梢からの輸液)との違い

中心静脈栄養と混同されやすいのが、腕の静脈から行う普通の点滴(末梢静脈からの輸液)です。脱水の補正や、終末期に少量の水分を入れるときに在宅でも行われます。こちらは訪問看護師が針を刺して行い、週3日以上行う場合は医師の「在宅患者訪問点滴注射指示書」(7日間)が要ります。高カロリーの輸液は末梢の静脈では血管を傷めるため行えず、中心静脈カテーテルが必要になります。

末梢からの点滴と中心静脈栄養の違い
末梢からの点滴中心静脈栄養
入れる場所腕などの浅い静脈心臓の近くの太い静脈(カテーテル)
入れられるもの水分・電解質・低い濃度の糖高カロリーの栄養・脂肪・ビタミン
期間数日〜数週間数か月〜長期
指示書訪問看護指示書+点滴注射指示書(週3日以上)訪問看護指示書(処方は医師)
薬局通常の調剤無菌調剤が必要

06よくある質問

  • 家族が輸液の交換をしないといけない?:訪問看護が毎日入れない場合、ご家族が接続・取り外しを担うことが多いです。入院中の練習と、退院後の訪問看護の見守りで身につけます。ご家族が難しい場合は、訪問の回数を増やす計画にします。
  • 入浴はできる?:CV ポートは針を抜いていれば入浴できます。PICC や体外式は刺入部を防水して短時間のシャワーにするなど、病院の指導に従います。
  • 通所は使える?:輸液を止めている時間帯であれば使えることがあります。事業所にカテーテルのことを伝え、緊急時の対応を決めます。
  • 費用は?:在宅中心静脈栄養法指導管理料や輸液のポンプの加算が医療保険で算定され、自己負担は1〜3割です。高額療養費の対象です。薬局の輸液も医療保険です。

07物品と時間割の決め方

在宅中心静脈栄養は物品が多く、供給の担当が曖昧だと現場が止まります。退院前に、次の一覧を薬局・訪問看護・医療機関で埋めておきます。

在宅中心静脈栄養の物品と供給元の例
物品供給元交換・補充
輸液(無菌調剤済み)薬局週ごとに配達。冷蔵保管
輸液ルート・フィルター医療機関または薬局医師の指示の間隔で訪問看護が交換
ポート用の針(ヒューバー針)医療機関週1回程度、訪問看護が交換
消毒剤・ドレッシング材医療機関または薬局交換のたび
輸液ポンプ医療機関(業者からのレンタル)故障時は業者へ

供給元は医療機関の運用で変わります。「誰が」「いつ」「どこへ」を1枚の表にして自宅に置きます。

08受け入れ先を探すときに伝えること

在宅中心静脈栄養の依頼では、対応できる事業所が限られるため、最初の連絡で「中心静脈栄養」「カテーテルの種類」「輸液の内容と時間」「無菌調剤の必要」を明記します。中心静脈栄養は別表8に当てはまるので、医療保険の訪問看護で週4日以上・複数のステーションの訪問ができます。

参考にした情報

監修者のプロフィール

前川 裕貴(脳神経内科専門医・頭痛専門医)
前川 裕貴

Maekawa Hirotaka

脳神経内科専門医・頭痛専門医

地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者

日本内科学会 内科専門医日本神経学会 神経内科専門医日本頭痛学会 頭痛専門医難病指定医

脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。

2012〜2018年順天堂大学 医学部 医学科
2018〜2020年東京逓信病院 初期臨床研修
2020〜2023年東京大学医学部附属病院 脳神経内科 特任臨床医
2023年〜埼玉精神神経センター 頭痛専門外来
荏原ホームケアクリニック 頭痛センター長
昭和医科大学 脳神経内科 客員講師
2025年〜株式会社Iris Wellness設立

在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。

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監修:前川 裕貴脳神経内科専門医・頭痛専門医)/この記事は情報提供を目的としたもので、診断・治療を行うものではありません。受け入れの状況や費用は各施設に、治療の判断は主治医にご相談ください。