神経難病:病気ごとの在宅療養

多系統萎縮症(MSA)の在宅療養|夜間の呼吸・起立性低血圧への備えと、訪問看護は医療保険か

公開|内容の確認:

対象:ケアマネジャー・訪問看護師・病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)・訪問診療医の方

前川 裕貴(脳神経内科専門医・頭痛専門医)

この記事の監修

前川 裕貴

脳神経内科専門医・頭痛専門医

荏原ホームケアクリニック 頭痛センター長

地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者

日本内科学会 内科専門医日本神経学会 神経内科専門医日本頭痛学会 頭痛専門医難病指定医

Med-Tasuki(メドタスキ)は、監修者が開発した、在宅医療・介護の施設どうしが患者さんの受け入れをチャットで相談できる無料のサービスです。近くの施設へまとめて相談できる一括依頼も使えます。

ひとことで言うと

MSAは、夜間の呼吸の変化、立ちくらみ(起立性低血圧)、排尿の障害に在宅で気を配る病気です。訪問看護は年齢を問わず医療保険で、40歳以上は介護保険も使えます。

多系統萎縮症(MSA)は、成人期(多くは40歳以降)に発症する神経難病です(指定難病17)。ふらつきなどの小脳の症状、動きが遅くなるパーキンソン症状、立ちくらみや排尿の障害などの自律神経の症状が、経過とともに重なっていきます。日本で最も多いのは、ふらつきで始まる型(オリーブ橋小脳萎縮症、MSA-C)です。在宅では、転倒や飲み込みに加えて、夜間の呼吸と自律神経の症状への備えが欠かせません。

MSAの在宅療養で起きやすいこと

  • 進み方が比較的速い:日本の研究では、発症から介助歩行・車いす・寝たきり・死亡に至るまでの期間の中央値は、それぞれ3年・5年・8年・9年と報告されています。早くから排尿障害や声帯の動きの障害が目立つ方は、進みが速い傾向があります。
  • 夜間の呼吸:睡眠中の喘鳴(のどが狭くなって出る、ゼーゼー・ヒューヒューという音)や無呼吸が、病気の早い時期から単独で出ることがあります。原因として、息を吸うときに声帯が開きにくくなること(声帯外転障害)が知られています。
  • 突然死:睡眠中の突然死が多い可能性が指摘されています。呼吸の中枢の障害によるものもあり、気管切開や呼吸の補助をしていても起こりうるとされています。
  • 起立性低血圧:起き上がったり立ったりしたときに血圧が下がり、めまいや失神が起きます。MSAでは最も多く、暮らしを大きく制限する自律神経の症状です。食後30〜60分ごろに血圧が下がる食事性低血圧もあります。
  • 排尿と便通:残尿、頻尿、尿失禁、頑固な便秘がみられます。導尿や尿道カテーテルが必要になることがあります。
  • ふらつき・転倒:バランスの障害で転倒が多く、起立性低血圧による失神で倒れることもあります。
  • 飲み込み:病気の早い時期から飲み込みにくさが出る方もいます。誤嚥性肺炎は主な死因の一つです。

訪問看護は医療保険?介護保険?

多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー症候群)は、訪問看護で「厚生労働大臣が定める疾病等」(特掲診療料の施設基準等の別表第七。以下、別表7)に入っています。重症度の条件はありません。また、介護保険の特定疾病(16疾病)にも入っています。

  • 訪問看護は医療保険で行います。要介護認定を受けている方でも同じです。
  • 週3日までという医療保険の原則の制限がなく、週4日以上の訪問ができます。
  • 1日に2回、3回以上の訪問もできます(難病等複数回訪問加算)。夜間の吸引などで訪問が多くなる方に関わります。
  • 訪問看護ステーションは2か所まで、毎日(週7日)の訪問を計画する場合は3か所まで利用できます。
  • 介護保険は、40〜64歳の方も特定疾病として使えます(65歳以上は原因を問わず対象)。訪問介護・福祉用具・通所・短期入所などは介護保険で組み立て、訪問看護は介護保険の支給限度額の外になります。
  • 気管カニューレ、尿道の留置カテーテル、自己導尿、在宅での人工呼吸などは、特別な管理が必要な状態(別表第八)にも当たります。対応できる体制かどうかを、訪問看護ステーションに最初に確かめます。

2026年9月時点の決まりです

週の日数・1日の回数・ステーションの数は、2026年6月の診療報酬改定後の告示によるものです(2026年9月時点)。算定の細かな条件は、厚生労働省の告示・通知や地方厚生局の資料で確認してください。

使える制度

  • 難病の医療費助成(特定医療費):指定医療機関での自己負担が、所得に応じた月ごとの上限額までになります。マスク(NPPV)や気管切開で人工呼吸器を常に使い、日常生活の動作が著しく制限されている方は、所得にかかわらず上限が月1,000円になる区分があります(2026年9月時点。当てはまるかは個別に判断されます)。
  • 介護保険:40歳以上で使えます。進みが速いため、状態が変わったら早めに区分変更の申請を検討します。
  • 障害福祉サービス:MSAは障害者総合支援法の対象の病気で、障害者手帳がなくても、区市町村が必要と認めれば使えます。介護保険の対象の方は介護保険が優先ですが、足りない分を居宅介護や重度訪問介護で補う運用例が国から示されています(区市町村が個別に判断します)。
  • 東京都の事業(東京都にお住まいの方):在宅で人工呼吸器を使い、医師が1日3回以上の訪問看護を必要と認めた方は、在宅人工呼吸器使用難病患者訪問看護事業の対象です。人工呼吸器を使う方のご家族が休むときには、看護師などを自宅に派遣する難病患者在宅レスパイト事業もあります。

夜間の呼吸と急変への備え

MSAの在宅療養で、ほかの神経難病と最も違うのが夜間の呼吸です。脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018は、睡眠中の喘鳴が出てきたことは声帯の動きの障害が進んできたことを意味し、命にかかわる徴候だとしています。在宅チームでは、次のことを前もって決めておきます。

  • 夜の呼吸の音(喘鳴)や、呼吸が止まっている様子に気づいたら、次の受診を待たずに主治医・訪問看護へ伝える。ご家族にも、どんな音や様子が伝えるべき変化かを説明しておく
  • 呼吸の補助の選び方は専門医と相談する:マスクで空気を送る方法(NPPV、CPAPを含む)は呼吸を改善することがある一方で、のどの奥の組織が倒れ込みやすい方(喉頭蓋軟化症など)では、かえって空気の通り道をふさぐことがあると報告されています
  • 気管切開や人工呼吸器を使うかどうかは、本人の意思を中心に、医療・介護のチームとご家族で繰り返し話し合う。気持ちは変わりうるので、話し合いは一度で終わらせない
  • 気管切開をしても突然死がありうることを、医師から本人・ご家族へ説明し、チームの全員が同じ理解を持つ
  • 夜間・休日に最初に電話する先と、救急搬送についての方針を紙に書いて、見える場所に貼る

ご家族への伝え方

突然死の可能性は、ご家族にとってつらい情報です。誰が、いつ、どのように伝えるかを主治医と相談し、伝えた後もご家族の不安を訪問のたびに受け止めることが大切です。

在宅チームで押さえること(職種ごと)

  • 訪問診療医:脳神経内科の主治医と、夜間の呼吸の評価(睡眠中の呼吸の検査や、耳鼻咽喉科での声帯の評価)をどこで行うかを分担します。起立性低血圧、排尿、飲み込みの治療方針も共有します。
  • 訪問看護:夜の呼吸の様子をご家族から聞き取り、起きたとき・食後の血圧と症状を確かめます。残尿や尿路感染の兆し、導尿やカテーテルの管理、便秘、むせと体重の変化を見ていきます。
  • リハビリ職:バランスの練習、杖や歩行器、手すり、車いすの導入の時期を見きわめます。立ち上がりや移乗の練習では、めまいや顔色の変化に気をつけます。飲み込みの評価と食事の形の調整は言語聴覚士が担います。
  • ケアマネジャー:状態の変化が速いので、福祉用具や住まいの改修は先回りして準備します。夜間の見守りが続くご家族の休息を、計画に最初から入れます。
  • 薬局:飲み込みにくくなったときの薬の形の相談と、新しく薬が加わったときに立ちくらみが強くなっていないかの確認を担います。

食事性低血圧には、1回の食事の量を少なくして回数を増やす、食後しばらくは体を休めるといった工夫が診療ガイドラインで挙げられています。どの工夫をとり入れるかは、飲み込みの状態も含めて主治医と相談して決めます。

受け入れ先を探すときに伝えること

  • 夜間の呼吸の状態(喘鳴・無呼吸)と、NPPV・気管切開・人工呼吸器の有無、たんの吸引の回数(特に夜間)
  • 起立性低血圧・失神の有無と、転倒の頻度
  • 排尿の管理の方法(自己導尿、尿道カテーテルなど)
  • 飲み込みの状態と、胃ろう・経管栄養の有無
  • 別表7に当たるため訪問看護は医療保険になること、希望する訪問の頻度(毎日か、1日に複数回か)
  • 要介護認定、難病の受給者証、障害福祉サービスの状況
  • 気管切開・人工呼吸器・胃ろうについての、本人の意向の話し合いの状況

人工呼吸器や夜間の吸引に対応できる訪問看護ステーションは限られ、複数の事業所で分担することもあります。Med-Tasuki(メドタスキ)の一括依頼を使うと、条件を一度入力するだけで、近くの複数の施設へまとめて受け入れを相談できます。

参考にした情報

監修者のプロフィール

前川 裕貴(脳神経内科専門医・頭痛専門医)
前川 裕貴

Maekawa Hirotaka

脳神経内科専門医・頭痛専門医

地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者

日本内科学会 内科専門医日本神経学会 神経内科専門医日本頭痛学会 頭痛専門医難病指定医

脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。

2012〜2018年順天堂大学 医学部 医学科
2018〜2020年東京逓信病院 初期臨床研修
2020〜2023年東京大学医学部附属病院 脳神経内科 特任臨床医
2023年〜埼玉精神神経センター 頭痛専門外来
荏原ホームケアクリニック 頭痛センター長
昭和医科大学 脳神経内科 客員講師
2025年〜株式会社Iris Wellness設立

在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。

Med-Tasukiを開発した理由を読む

医療機関・介護事業所の方へ

受け入れの相談を、電話とFAXからチャットへ

Med-Tasuki(メドタスキ)は、在宅医療・介護の施設どうしが患者さんの受け入れをチャットで相談できる無料のサービスです。近くの施設へまとめて相談できる一括依頼も使えます。

あわせて読みたい記事

神経難病:病気ごとの在宅療養

ALSの在宅療養:訪問看護・保険・チームで押さえること

ALSの訪問看護は、年齢や介護保険の認定にかかわらず医療保険です。進み方が速い方も多いため、呼吸・栄養・意思を伝える手段の準備を、チームで先回りして進めることが大切です。

続きを読む

神経難病:病気ごとの在宅療養

パーキンソン病の在宅療養:ヤール分類と訪問看護の保険

パーキンソン病の訪問看護が医療保険になるのは、ヤール3以上かつ生活機能障害度Ⅱ・Ⅲ度のときです。それ以外は介護保険が基本。一日の中の症状の波に合わせたケアがチームの要です。

続きを読む

神経難病:病気ごとの在宅療養

進行性核上性麻痺(PSP)の在宅療養|転倒・飲み込みへの備えと、訪問看護は医療保険か介護保険か

PSPは早い時期からの転倒と、飲み込みにくさによる肺炎が在宅療養の二大テーマです。訪問看護は年齢を問わず医療保険になり、40歳以上は介護保険も使えます。

続きを読む

神経難病:全体像

神経難病の在宅療養ガイド:訪問看護・保険・支援制度の全体像

神経難病の在宅療養は、医療保険・介護保険・難病医療費助成・障害福祉の4つの制度を組み合わせて支えます。病名で訪問看護の保険が変わる点と、進行を見越した準備が要です。

続きを読む

連携ガイドの記事一覧へ

監修:前川 裕貴脳神経内科専門医・頭痛専門医)/この記事は情報提供を目的としたもので、診断・治療を行うものではありません。受け入れの状況や費用は各施設に、治療の判断は主治医にご相談ください。