ひとことで言うと
MSAは、夜間の呼吸の変化、立ちくらみ(起立性低血圧)、排尿の障害に在宅で気を配る病気です。訪問看護は年齢を問わず医療保険で、40歳以上は介護保険も使えます。
多系統萎縮症(MSA)は、成人期(多くは40歳以降)に発症する神経難病です(指定難病17)。ふらつきなどの小脳の症状、動きが遅くなるパーキンソン症状、立ちくらみや排尿の障害などの自律神経の症状が、経過とともに重なっていきます。日本で最も多いのは、ふらつきで始まる型(オリーブ橋小脳萎縮症、MSA-C)です。在宅では、転倒や飲み込みに加えて、夜間の呼吸と自律神経の症状への備えが欠かせません。
01MSAの在宅療養で起きやすいこと
- 夜間の呼吸:睡眠中の喘鳴(のどが狭くなって出る、ゼーゼー・ヒューヒューという音)や無呼吸が、病気の早い時期から単独で出ることがあります。原因として、息を吸うときに声帯が開きにくくなること(声帯外転障害)が知られています。
- 突然死:睡眠中の突然死が多い可能性が指摘されています。呼吸の中枢の障害によるものもあり、気管切開や呼吸の補助をしていても起こりうるとされています。
- 起立性低血圧:起き上がったり立ったりしたときに血圧が下がり、めまいや失神が起きます。MSAでは最も多く、暮らしを大きく制限する自律神経の症状です。食後30〜60分ごろに血圧が下がる食事性低血圧もあります。
- 排尿と便通:残尿、頻尿、尿失禁、頑固な便秘がみられます。導尿や尿道カテーテルが必要になることがあります。
- ふらつき・転倒:バランスの障害で転倒が多く、起立性低血圧による失神で倒れることもあります。
- 飲み込み:病気の早い時期から飲み込みにくさが出る方もいます。誤嚥性肺炎は主な死因の一つです。
- 介助歩行3年
- 車いす5年
- 寝たきり8年
MSAは進み方が比較的速い病気です。早くから排尿障害や声帯の動きの障害が目立つ方は、進みが速い傾向があります(脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018)。
02訪問看護は医療保険?介護保険?
多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー症候群)は、訪問看護で「厚生労働大臣が定める疾病等」(特掲診療料の施設基準等の別表第七。以下、別表7)に入っています。重症度の条件はありません。また、介護保険の特定疾病(16疾病)にも入っています。
| 項目 | MSAの場合 |
|---|---|
| 訪問看護の保険 | 医療保険(年齢を問わず。要介護認定を受けている方でも同じ) |
| 週の訪問日数 | 週4日以上もできる(医療保険の原則の「週3日まで」の制限がない) |
| 1日の訪問回数 | 2回・3回以上もできる(難病等複数回訪問加算)。夜間の吸引などで訪問が多くなる方に関わる |
| 訪問看護ステーション | 2か所まで(毎日=週7日の訪問を計画する場合は3か所まで) |
| 介護保険 | 40〜64歳も特定疾病として使える。65歳以上は原因を問わず対象 |
| 介護保険で使うもの | 訪問介護・福祉用具・通所・短期入所など。訪問看護は介護保険の支給限度額の外になる |
気管カニューレ、尿道の留置カテーテル、自己導尿、在宅での人工呼吸などは、特別な管理が必要な状態(別表第八)にも当たります。対応できる体制かどうかを、訪問看護ステーションに最初に確かめます。
2026年9月時点の決まりです
週の日数・1日の回数・ステーションの数は、2026年6月の診療報酬改定後の告示によるものです(2026年9月時点)。算定の細かな条件は、厚生労働省の告示・通知や地方厚生局の資料で確認してください。
03使える制度
- 難病の医療費助成(特定医療費):指定医療機関での自己負担が、所得に応じた月ごとの上限額までになります。マスク(NPPV)や気管切開で人工呼吸器を常に使い、日常生活の動作が著しく制限されている方は、所得にかかわらず上限が月1,000円になる区分があります(2026年9月時点。当てはまるかは個別に判断されます)。
- 介護保険:40歳以上で使えます。進みが速いため、状態が変わったら早めに区分変更の申請を検討します。
- 障害福祉サービス:MSAは障害者総合支援法の対象の病気で、障害者手帳がなくても、区市町村が必要と認めれば使えます。介護保険の対象の方は介護保険が優先ですが、足りない分を居宅介護や重度訪問介護で補う運用例が国から示されています(区市町村が個別に判断します)。
- 東京都の事業(東京都にお住まいの方):在宅で人工呼吸器を使い、医師が1日3回以上の訪問看護を必要と認めた方は、在宅人工呼吸器使用難病患者訪問看護事業の対象です。人工呼吸器を使う方のご家族が休むときには、看護師などを自宅に派遣する難病患者在宅レスパイト事業もあります。
04夜間の呼吸と急変への備え
MSAの在宅療養で、ほかの神経難病と最も違うのが夜間の呼吸です。脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018は、睡眠中の喘鳴が出てきたことは声帯の動きの障害が進んできたことを意味し、命にかかわる徴候だとしています。在宅チームでは、次のことを前もって決めておきます。
- 夜の呼吸の音(喘鳴)や、呼吸が止まっている様子に気づいたら、次の受診を待たずに主治医・訪問看護へ伝える。ご家族にも、どんな音や様子が伝えるべき変化かを説明しておく
- 呼吸の補助の選び方は専門医と相談する:マスクで空気を送る方法(NPPV、CPAPを含む)は呼吸を改善することがある一方で、のどの奥の組織が倒れ込みやすい方(喉頭蓋軟化症など)では、かえって空気の通り道をふさぐことがあると報告されています
- 気管切開や人工呼吸器を使うかどうかは、本人の意思を中心に、医療・介護のチームとご家族で繰り返し話し合う。気持ちは変わりうるので、話し合いは一度で終わらせない
- 気管切開をしても突然死がありうることを、医師から本人・ご家族へ説明し、チームの全員が同じ理解を持つ
- 夜間・休日に最初に電話する先と、救急搬送についての方針を紙に書いて、見える場所に貼る
ご家族への伝え方
突然死の可能性は、ご家族にとってつらい情報です。誰が、いつ、どのように伝えるかを主治医と相談し、伝えた後もご家族の不安を訪問のたびに受け止めることが大切です。

夜間の喘鳴や呼吸が止まる様子は、日中の診察では確かめにくい変化です。ご家族や訪問看護の方が気づいたときに、いつ・どんな音や様子だったかを伝えてもらえると、医師にとって大切な判断の材料になります。
05在宅チームで押さえること(職種ごと)
| 職種 | 担うこと |
|---|---|
| 訪問診療医 | 脳神経内科の主治医と、夜間の呼吸の評価(睡眠中の呼吸の検査や、耳鼻咽喉科での声帯の評価)をどこで行うかを分担する。起立性低血圧・排尿・飲み込みの治療方針も共有する |
| 訪問看護 | 夜の呼吸の様子をご家族から聞き取る。起きたとき・食後の血圧と症状、残尿や尿路感染の兆し、導尿やカテーテルの管理、便秘、むせと体重の変化を見る |
| リハビリ職 | バランスの練習と、杖・歩行器・手すり・車いすの導入の時期の見きわめ。立ち上がりや移乗の練習では、めまいや顔色の変化に気をつける。飲み込みの評価と食事の形の調整は言語聴覚士 |
| ケアマネジャー | 状態の変化が速いので、福祉用具や住まいの改修を先回りして準備する。夜間の見守りが続くご家族の休息を、計画に最初から入れる |
| 薬局 | 飲み込みにくくなったときの薬の形の相談。新しく薬が加わったときに、立ちくらみが強くなっていないかの確認 |
食事性低血圧には、1回の食事の量を少なくして回数を増やす、食後しばらくは体を休めるといった工夫が診療ガイドラインで挙げられています。どの工夫をとり入れるかは、飲み込みの状態も含めて主治医と相談して決めます。

立ちくらみは、起き上がったときや食後、薬が変わったときなど、暮らしの場面で強くなることがあります。起きたとき・食後の血圧と症状を記録してもらえると、医師は治療を見直すかどうかを判断しやすくなります。
06受け入れ先を探すときに伝えること
MSAの方の受け入れを相談するときに伝えること
- 夜間の呼吸の状態(喘鳴・無呼吸)と、NPPV・気管切開・人工呼吸器の有無、たんの吸引の回数(特に夜間)
- 起立性低血圧・失神の有無と、転倒の頻度
- 排尿の管理の方法(自己導尿、尿道カテーテルなど)
- 飲み込みの状態と、胃ろう・経管栄養の有無
- 別表7に当たるため訪問看護は医療保険になること、希望する訪問の頻度(毎日か、1日に複数回か)
- 要介護認定、難病の受給者証、障害福祉サービスの状況
- 気管切開・人工呼吸器・胃ろうについての、本人の意向の話し合いの状況
人工呼吸器や夜間の吸引に対応できる訪問看護ステーションは限られ、複数の事業所で分担することもあります。Med-Tasuki(メドタスキ)の一括依頼を使うと、条件を一度入力するだけで、近くの複数の施設へまとめて受け入れを相談できます。
参考にした情報
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。