ひとことで言うと
PSPは早い時期からの転倒と、飲み込みにくさによる肺炎が在宅療養の二大テーマです。訪問看護は年齢を問わず医療保険になり、40歳以上は介護保険も使えます。
進行性核上性麻痺(PSP)は、40歳以降に発症し、50〜70歳代に多い神経難病です(指定難病5)。転びやすくなったことで気づかれることが多く、進むと話しにくさや飲み込みにくさが加わります。在宅チームにとって大切なのは、「転倒」と「誤嚥(食べ物や唾液が気管に入ること)」への備えを、早い時期から始めることです。この記事では、PSPの在宅療養で起きやすいこと、訪問看護の保険、使える制度、職種ごとに押さえることをまとめます。
PSPの在宅療養で起きやすいこと
- 早い時期からの転倒:半数以上の人が、発症から1年以内に転倒を繰り返します。姿勢を立て直す力が落ち、後ろ向きに倒れやすいのが特徴です。倒れるときに手で身を守る反応が出にくく、顔や頭のけがが多くなります。
- 危険に気づきにくい:注意していても、その場になると急に立ち上がって転ぶことがあります。本人の不注意ではなく、病気の症状として理解することが大切です。
- 下が見えにくい:目を上下、特に下へ動かしにくくなり、足元など下の方が見えにくくなります。この症状は発症から2〜3年たって出てくることも少なくありません。
- 話しにくさ・飲み込みにくさ:中期以降は誤嚥性肺炎をしばしば合併し、食べ物や唾液の誤嚥による肺炎が死因として多いとされています。飲み込まないまま次々と口に詰め込んでしまうことがあり、食事中の声かけが要ります。
- 考えや返事に時間がかかる:質問にすぐ言葉が出ず、答え始めるまでに時間がかかることがあります。病気の深刻さを感じていないように見えることもあります。
- 進み方:発症から寝たきりになるまでは平均で4〜5年程度とされますが、経過は人によって違います。パーキンソン病に似た経過をたどり、ゆっくり進む型もあります。
PSP診療ガイドライン2020によると、転倒につながった行動で最も多いのは排泄、次いで物を取ろうとしたときで、転倒は昼夜を問わず起きています。車いすやベッドからの転落は進んだ時期にも起き、長く介護の課題になります。
訪問看護は医療保険?介護保険?
PSPは、訪問看護で「厚生労働大臣が定める疾病等」(特掲診療料の施設基準等の別表第七。以下、別表7)の「パーキンソン病関連疾患」に入っています。同じ区分のパーキンソン病には「ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ3以上で、生活機能障害度がⅡ度またはⅢ度」という条件がありますが、PSPにはこの条件がありません。あわせて、介護保険の特定疾病にも入っています。
- 訪問看護は、年齢にかかわらず医療保険で行います。要介護認定を受けている方でも、介護保険ではなく医療保険の訪問看護になります。
- 医療保険の訪問看護は原則として週3日までですが、別表7の方はこの制限がなく、週4日以上の訪問ができます。
- 必要に応じて1日に2回、3回以上の訪問もできます(難病等複数回訪問加算)。
- 訪問看護ステーションは2か所まで、毎日(週7日)の訪問を計画する場合は3か所まで利用できます。
- 介護保険は、40〜64歳の方も特定疾病(「進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病」)として対象です。65歳以上の方は原因を問わず対象です。
- 訪問介護・福祉用具・通所・短期入所などは介護保険で使います。訪問看護は介護保険の支給限度額の外になるため、限度額を介護サービスに充てられます。
2026年9月時点の決まりです
週の日数・1日の回数・ステーションの数は、2026年6月の診療報酬改定後の告示によるものです(2026年9月時点)。算定の細かな条件は、厚生労働省の告示・通知や地方厚生局の資料で確認してください。
使える制度
- 難病の医療費助成(特定医療費):重症度分類で一定以上の方、または医療費の高い月が続く方(軽症高額)が対象です。指定医療機関(病院・診療所・薬局・訪問看護ステーションなど)での自己負担が、所得に応じた月ごとの上限額までになります。介護保険の訪問リハビリテーションや居宅療養管理指導も対象に含まれます。
- 介護保険:上のとおり40歳以上で使えます。進みが比較的速い病気なので、状態に要介護度が追いつかないときは区分変更の申請を検討します。
- 障害福祉サービス:PSPは障害者総合支援法の対象の病気で、障害者手帳がなくても、区市町村が必要と認めればサービスを使えます。介護保険の対象の方は介護保険が優先ですが、介護保険の支給限度額では足りない分を居宅介護や重度訪問介護で補う運用例が、国から示されています(区市町村が個別に判断します)。
- 身体障害者手帳:障害の程度によって、肢体不自由などで手帳を取れることがあります。
- お金の支え:働く世代で発症した方には、傷病手当金や障害年金も相談の対象になります。判断力が落ちてきた方の財産管理には、成年後見制度や日常生活自立支援事業があります。
在宅チームで押さえること(職種ごと)
- 訪問診療医:飲み込みの状態と肺炎への備え(熱が出たときの対応、入院を考える目安)を、脳神経内科の主治医と分担して決めます。口から十分に食べられなくなったときの栄養の方法(経鼻経管栄養・胃ろう)は、生活の質と命を支えることの両方を考え、本人・ご家族と早めに話し合います。
- 訪問看護:転倒が起きやすい場面(排泄・入浴・物を取るとき)を把握し、ご家族と対策を組み立てます。むせ、体重の減り、発熱に早く気づき、口の中を清潔に保つケアを続けます。
- リハビリ職(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士):住まいの環境(手すり・動線・物の置き場所)の見直しと、飲み込みの評価、食事の形やとろみ、食べ方の工夫を担います。
- ケアマネジャー:ご家族が目を離せない時間が長く、介護の負担が大きい病気です。福祉用具(ベッド・車いす・手すり)を先回りして整え、ショートステイなどご家族が休む時間を最初から計画に入れます。
- 訪問介護:排泄と入浴の介助は、転倒が最も起きやすい場面です。付き添う手順をチームで共有します。
- 訪問歯科・薬局:口のケアと飲み込みの相談、飲み込みにくくなったときの薬の形の相談に乗ってもらいます。
転倒を減らす家の工夫
PSPの転倒を確実に減らす方法の根拠はまだ十分ではありませんが、PSP診療ガイドライン2020と難病情報センターは、次のような工夫を勧めています。ご家族と訪問に入る職種で同じやり方をそろえると効果が出やすくなります。
- 排泄・入浴のときは目を離さない(トイレでは、用を足した後に下着を上げて立ち上がろうとして崩れることがあります)
- トイレは時間を決めて早めに誘導する。排泄の記録をつけて、その人のパターンをつかむ
- トイレに行くときは必ず呼ぶように、毎回声をかける
- よく使う物は体の近くにまとめ、手を伸ばして取りに行きそうな物は片付ける。リモコンはひもで結んで落ちないようにする
- 不安定な物につかまって体を支えようとして転ぶことがあるため、つかまる場所を確かめておく
- 家具の角にクッションテープを貼る、衝撃を吸収するマットを敷く、ベッドを低くする、保護帽をかぶる
受け入れ先を探すときに伝えること
訪問看護・訪問診療・ケアマネジャーに相談するときは、住所・医療処置・退院日などの基本の情報に加えて、PSPでは次のことを伝えると、受け入れの判断が早くなります。
- 転倒の頻度と、けがの有無(頭を打ったことがあるか)
- 日中・夜間に一人になる時間があるか、見守りの体制
- 飲み込みの状態(食事の形、むせ、誤嚥性肺炎を起こしたことがあるか、体重の変化)と、胃ろう・経管栄養の有無
- 話す力と理解の状態、意思を伝える手段
- 別表7に当たるため訪問看護は医療保険になること、希望する訪問の頻度(毎日か、1日に複数回か)
- 要介護認定、難病の受給者証、障害福祉サービスの状況
- 胃ろうや入院などについての、本人の意向の話し合いの状況
毎日の訪問や1日に複数回の訪問が必要な場合、1か所の訪問看護ステーションだけでは担いきれないことがあります。Med-Tasuki(メドタスキ)の一括依頼を使うと、条件を一度入力するだけで、近くの複数の施設へまとめて受け入れを相談できます。
参考にした情報
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。