ひとことで言うと
パーキンソン病の訪問看護が医療保険になるのは、ヤール3以上かつ生活機能障害度Ⅱ・Ⅲ度のときです。それ以外は介護保険が基本。一日の中の症状の波に合わせたケアがチームの要です。
パーキンソン病は、ふるえ、動作が遅くなる、筋肉がこわばる、転びやすくなる、といった症状が少しずつ進む病気です。治療薬が進歩し、平均寿命は全体の平均とほとんど変わらないと考えられています。そのぶん療養の期間は長く、在宅チームとの付き合いも長くなります。この記事では、訪問看護の保険が「ヤール分類」で変わる仕組みと、在宅で押さえたい点をまとめます。
パーキンソン病の在宅療養で起きやすいこと
在宅で特に気をつけたいのは、薬の効き方の波です。長く治療を続けると、薬が切れて動けなくなる時間が出てくることがあります(ウェアリングオフ)。薬が効いて動ける時間を「オン」、切れて動きにくい時間を「オフ」と呼びます。同じ方でも、訪問する時間帯によって全く違う姿に見えることがあります。
- 転倒:バランスが悪くなり、最初の一歩が出にくくなる「すくみ」も起こります。転倒による骨折は、その後の経過に大きく響きます。
- 立ちくらみ:立ち上がったときに血圧が下がり(起立性低血圧)、ふらついたり気が遠くなったりすることがあります。
- 飲み込み:むせや誤嚥から肺炎を起こすことがあります。
- 便秘・頻尿:便秘は腸閉塞につながることもあります。夜間のトイレの回数が増えることも少なくありません。
- 幻視・妄想・気分の落ち込み・意欲の低下:病気そのもので起こることも、薬で起こることもあります。
- 眠っている間に大きな寝言や体の動きが出ることがあります(レム睡眠行動異常症)。
- 痛み:薬が切れたオフの時間に、痛みを強く感じることがあります。
薬が飲めないときは早めに主治医へ
脱水に薬の中断が重なると、高熱や意識障害を伴う重い状態(悪性症候群)になることがあります。飲み込めない・食べられない・下痢が続くなどで薬が飲めないときは、自己判断で様子を見ず、早めに主治医に連絡してください。
訪問看護は医療保険か介護保険か:ヤール分類で変わる
訪問看護を医療保険で行う病気の一覧「別表7」(厚生労働大臣が定める疾病等)には、パーキンソン病が条件付きで入っています。条件は「ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ3以上で、かつ生活機能障害度がⅡ度またはⅢ度」です。同じ「パーキンソン病関連疾患」でも、進行性核上性麻痺と大脳皮質基底核変性症には、この重症度の条件はありません。
- ヤール重症度分類:1度=体の片側だけの症状、2度=両側の症状、3度=転びやすさ(姿勢保持障害)が出るが日常生活に介助は要らない、4度=重い障害があるが歩行は介助なしでどうにか可能、5度=介助なしではベッドか車いすの生活。
- 生活機能障害度:Ⅰ度=日常生活・通院にほとんど介助が要らない、Ⅱ度=部分的に介助が要る、Ⅲ度=全面的に介助が要り、ひとりで歩いたり立ったりできない。
- ヤール3以上かつ生活機能障害度Ⅱ・Ⅲ度の方:別表7に当たり、介護保険の認定を受けていても訪問看護は医療保険です。週4日以上の訪問、1日に複数回の訪問、複数の訪問看護ステーションの利用ができます。
- 上の条件に当たらず、要介護・要支援の認定を受けている方:訪問看護は介護保険で、ケアプランに沿って支給限度額の中で使います。
- 上の条件に当たらず、介護保険の認定を受けていない方(40歳未満の方など):訪問看護は医療保険で、原則週3日までです。
- 状態が急に悪くなったときは、主治医が特別訪問看護指示書を出すと、その間(原則月1回・14日まで)は医療保険で頻回に訪問できます。
介護保険については、パーキンソン病は特定疾病に入っているため、40〜64歳の方も要介護認定を申請できます。こちらはヤール分類の条件はありません。
進行したら保険が切り替わる
ヤールや生活機能障害度が上がって別表7の条件に当たると、それまで介護保険だった訪問看護が医療保険に切り替わります。訪問看護ステーションは主治医にいまの重症度を確かめ、ケアマネジャーにも伝えましょう。ケアプランの支給限度額の枠が空くため、ほかのサービスの組み直しにもつながります。回数などの条件は2026年9月時点の内容です。
使える制度
- 難病医療費助成(特定医療費):パーキンソン病は指定難病です。対象は重症度分類で「ヤール3度以上かつ生活機能障害度2度以上」の方です。治療を始めた後は、直近6か月で最も悪い状態をもとに医師が判断します。
- 軽症高額:重症度に当たらない方でも、医療費の総額(10割)が33,330円を超える月が年3回以上あれば助成の対象になります(2026年9月時点)。
- 助成は、都道府県が指定した病院・診療所・薬局・訪問看護ステーションなどで受けた医療が対象です。介護保険の訪問看護・訪問リハビリ・居宅療養管理指導なども対象ですが、訪問介護(ヘルパー)は対象外です。
- 指定難病登録者証:医療費助成の対象にならない方にも交付され、福祉や就労の支援を受けるときに使えます。
- 障害福祉サービス:パーキンソン病は障害者総合支援法の対象の病気で、障害者手帳がなくても市区町村に申請できます。介護保険の対象の方は、同じ内容のサービスは介護保険が基本です。
- 身体障害者手帳:肢体不自由として申請できる場合があります。
医療費助成の重症度の目安と、訪問看護が医療保険になる別表7の条件は、どちらも「ヤール3以上」と「生活機能障害度Ⅱ度以上」がそろうことです。受給者証をまだ持っていない方の状態がここまで進んだら、助成の申請と訪問看護の保険の見直しを一緒に進めるとよいでしょう。申請には、難病指定医が書く臨床調査個人票(診断書)が必要です。助成は、重症度を満たすと医師が診断した日までさかのぼって始められますが、さかのぼれる期間は原則として申請日から1か月です。
在宅チームで押さえること(職種ごと)
- 訪問診療:パーキンソン病の専門医との役割分担と、誤嚥性肺炎・骨折・精神症状の悪化など入院が必要になったときの受け皿を決めておきます。入院をきっかけに動きや認知の機能が落ちることがあるため、入院中からのリハビリも意識します。
- 訪問看護:オン・オフの時間帯と薬を飲んだ時刻を記録し、主治医に伝えます。便秘、立ちくらみ、むせ、皮膚の状態、幻視などの変化も観察します。
- リハビリ(PT・OT・ST):歩行・バランス・姿勢の練習、手すりや動線など住まいの調整、飲み込みと発声の練習。散歩やストレッチなど、毎日体を動かす習慣づくりを支えます。
- 薬局:薬の種類が多く、飲む時刻が細かく決まっていることがよくあります。飲み忘れを防ぐ工夫、飲み合わせの確認、飲み込みにくくなったときの相談を担います。ほかの病院で出た薬も含めて確認してもらいましょう。
- ケアマネジャー:オフの時間帯にひとりにならないよう、サービスの時間を組みます。転倒に備えて、倒れても助けを呼べる体制も考えます。重症度が上がったら、訪問看護の保険の切り替えに合わせてケアプランを見直します。
- ヘルパー:服薬の声かけ、立ち上がりや移動の見守り、むせにくい姿勢での食事の介助。いつもより動けない・様子がおかしいときの連絡先を決めておきます。
- 訪問歯科・歯科衛生士:口の中を清潔に保ち、誤嚥性肺炎を防ぎます。
脳の中に電極を入れる手術や、胃ろうから小腸まで入れたチューブにポンプで薬を送り続ける治療、皮下に薬を持続的に注射する治療を受けている方もいます。こうした機器を使っている方は、訪問看護ステーションに扱いの経験があるかを先に確かめると安心です。
受け入れ先を探すときに伝えること
- 住所(町名・丁目まで)
- ヤール重症度と生活機能障害度(別表7に当たるか=訪問看護が医療保険か介護保険か)
- 介護保険の認定と、担当のケアマネジャーの有無、難病医療費助成の受給者証の有無
- 一日の症状の波:オフになりやすい時間帯、転倒の回数
- 薬を飲む回数と時刻、機器を使う治療(手術・持続注射・ポンプなど)を受けているか
- 飲み込み・むせの状態と、胃ろうの有無
- 幻視・妄想・もの忘れなど、精神面の症状があるか
- ご家族の介護の体制
同じ方でも、オンの時間に訪問した事業所とオフの時間に訪問した事業所では、印象が大きく違います。最初の依頼のときに症状の波を伝えておくと、訪問の時間帯と頻度を話し合いやすくなります。
Med-Tasukiで受け入れ先に相談する
Med-Tasuki(メドタスキ)の一括依頼では、住所(町名まで)と必要な条件を入れると、近くの施設へまとめて受け入れを相談できます。医療機関・介護事業所の方は無料で登録できます。
参考にした情報
- 難病情報センター「パーキンソン病(指定難病6)」(病気の解説)
- 難病情報センター「パーキンソン病(指定難病6)」(診断・治療指針、重症度分類)
- 難病情報センター「指定難病患者への医療費助成制度のご案内」
- 厚生労働省「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(令和8年3月5日 保発0305第19号)
- 厚生労働省 中央社会保険医療協議会 資料「在宅(その3)」(医療保険と介護保険の訪問看護対象者のイメージ)
- 厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」
- 厚生労働省「障害者総合支援法の対象疾病(難病等)」
- 東京都保健医療局「難病医療費助成の助成内容」
- 厚生労働科学研究費補助金 神経変性疾患領域の基盤的調査研究班「パーキンソン病の療養の手引き」(平成28年度)
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。