ひとことで言うと
ALSの訪問看護は、年齢や介護保険の認定にかかわらず医療保険です。進み方が速い方も多いため、呼吸・栄養・意思を伝える手段の準備を、チームで先回りして進めることが大切です。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、手足・のど・舌の筋肉や、呼吸に使う筋肉がだんだん弱くなっていく病気です。筋肉そのものではなく、筋肉を動かす神経(運動ニューロン)が障害されます。一方で、体の感覚や視力・聴力は保たれることが普通です。人工呼吸器を使う場合も、基本的には自宅で暮らし続けることになります。この記事では、ALSの方の在宅療養を支えるチームが押さえておきたい保険・制度と、職種ごとの役割をまとめます。
ALSの在宅療養で起きやすいこと
ALSは進行する病気で、どこから症状が始まっても、やがて全身の筋肉と呼吸の筋肉に及びます。ただし進み方には大きな個人差があります。人工呼吸器を使わない場合、発症から亡くなるまでの期間はおおよそ2〜5年とされる一方で、10年以上かけてゆっくり進む方も、1年ほどで呼吸が難しくなる方もいます。今の状態に合わせるだけでなく、数か月先を見越して準備することが在宅チームの要になります。
- 手足と移動:寝返り・移乗・トイレに介助が必要になり、介護の量が短い期間で増えることがあります。
- 話す・飲み込む:言葉が聞き取りにくくなり(構音障害)、飲み込みも難しくなります(嚥下障害)。唾液やたんが増え、吸引が必要になることがあります。
- 呼吸:日常の動作で息切れが出て、やがて自分の力だけで呼吸を続けるのが難しくなります。マスクで呼吸を助ける方法(NPPV。NIV とも)と、気管切開をして人工呼吸器を使う方法(TPPV。TIV とも)があります。
- 栄養:体重が減ると病状が悪くなることが知られています。胃ろうは、呼吸の働きが落ちてから造ると危険が増すため、早めに主治医と相談しておくことが勧められています。
- 意思を伝える:話すことや書くことが難しくなる前に、文字盤や意思伝達装置など、新しい伝え方を練習しておくことが大切です。
- 認知・行動:もの忘れは目立たないことが多いものの、言葉や行動の変化を中心とした認知の症状がみられる方もいます。
胃ろうを造るか、人工呼吸器を使うかは、ご本人が選ぶことです。気持ちは時間とともに変わることもあります。一度決めたら終わりではなく、チームで同じ情報を持ち、節目ごとに話し合いを重ねることが大切です。
訪問看護は医療保険か介護保険か
ALSは、訪問看護を医療保険で行う病気の一覧である「別表7」(厚生労働大臣が定める疾病等)に入っています。あわせて、40〜64歳でも介護保険を使える「特定疾病」(16の病気)にも入っています。この2つを組み合わせると、次のように整理できます(2026年9月時点)。
- 訪問看護:年齢や、介護保険の認定を受けているかにかかわらず、医療保険で行います。要介護認定を受けている方でも、訪問看護は介護保険ではなく医療保険です。
- 別表7に入るため、医療保険の訪問看護で、週4日以上の訪問、1日に2回・3回以上の訪問(難病等複数回訪問加算)、複数の訪問看護ステーションの利用(原則2か所まで、週7日の訪問を計画する場合は3か所まで)ができます。
- 介護保険:65歳以上の方に加えて、40〜64歳の方も特定疾病として要介護認定を申請できます。39歳以下の方は介護保険の対象外のため、障害福祉サービスが生活の支えの中心になります。
- 訪問介護(ヘルパー)・福祉用具・訪問入浴・住宅改修などは、認定を受けていれば介護保険で使います。つまり「訪問看護は医療保険、生活の介助は介護保険」という組み合わせになります。
ケアプランの組み立て
医療保険の訪問看護は介護保険の給付ではないため、介護保険の支給限度額の枠は使いません。ケアマネジャーは、医療保険の訪問看護や障害福祉サービスも含めて、1週間の訪問の予定を組み立てると抜けや重なりを防げます。回数や加算の条件は2026年6月の改定後の内容です。詳しくは厚生労働省の資料で確認してください。
使える制度
- 難病医療費助成(特定医療費):ALSは指定難病です。病状が重症度分類で一定以上か、軽症でも医療費が高額な月が続く場合(軽症高額)に対象になります。都道府県の窓口に申請し、認定されると所得に応じた月ごとの自己負担の上限が決まります。
- 人工呼吸器などを常に着けていて、日常生活の動作が大きく制限されている方は、自己負担の上限が所得にかかわらず月1,000円です(生活保護の方は負担なし。2026年9月時点)。
- 助成が使えるのは、都道府県が指定した医療機関(病院・診療所、薬局、訪問看護ステーションなど)で受けた医療です。関わる訪問看護ステーションと薬局が指定を受けているかを確かめておきましょう。
- 介護保険の訪問リハビリテーションや居宅療養管理指導なども助成の対象です。一方、訪問介護(ヘルパー)の費用は対象外です。
- 障害福祉サービス:ALSは障害者総合支援法の対象の病気です。障害者手帳がなくても、市区町村に申請して必要と認められたサービスを使えます。重度訪問介護は、常に介護が必要な重い障害のある方に、入浴・排せつ・食事の介護や外出時の移動支援などを総合的に行うサービスで、入院中も一定の支援ができます。
- 介護保険との関係:介護保険の対象の方は、同じ内容のサービスは介護保険が基本です。ただし、介護保険の支給限度額の中では必要な量が確保できない場合などは、障害福祉サービスを上乗せできることがあります(市区町村が個別に判断します)。
- ヘルパーによるたんの吸引:たんの吸引と経管栄養は医療行為ですが、喀痰吸引等研修(特定の方を対象にした第3号研修など)を修了して認定を受けた介護職員は、登録を受けた事業所のもとで行えます。
東京都には、人工呼吸器を使う難病の方に向けた都独自の事業があります(2026年9月時点)。訪問看護事業と一時入院の申し込み先は、お住まいの地域の保健所・保健センターです。
- 在宅人工呼吸器使用難病患者訪問看護事業:医師が1日3回以上の訪問看護を必要と認めた方について、医療保険で定められた回数を超える訪問看護(1日の3回目以降)を都の委託で行います。年間260回まで、患者さんの自己負担はありません。
- 在宅難病患者一時入院:ご家族など介護する方の休息や病気、冠婚葬祭などのときに、都が確保した病院のベッドに短期間入院できます。1回最長1か月、年度内90日までです。
- 難病患者在宅レスパイト事業:人工呼吸器を使う方の自宅に看護師などを派遣し、ご家族が一時的に介護を離れられるようにします。
- 非常用電源設備整備事業:人工呼吸療法を行う医療機関が、予備電源(自家発電装置・無停電電源装置・蓄電池)を患者さんに無償で貸し出すための購入費を都が補助します。申請するのは医療機関です。
在宅チームで押さえること(職種ごと)
- 訪問診療:呼吸と栄養をいつ評価し、NPPV・TPPV・胃ろうをいつ話し合うかを先に決めておきます。急に具合が悪くなったときに救急搬送するかなどの方針も、ご本人・ご家族と話し合って記録し、チームで共有します。専門の脳神経内科との役割分担も確認しておきましょう。
- 訪問看護:呼吸の状態の観察、排たん・吸引、呼吸器の管理、ご家族やヘルパーへの吸引の手ほどき。複数のステーションが入る場合は、それぞれとの報告のやりとりと、急変時にどこへ連絡するかを決めておきます。
- リハビリ(PT・OT・ST):筋肉や関節の痛みを防ぐためのリハビリは早くから始めることが大切とされています。姿勢や移乗の工夫、飲み込みの評価、文字盤やスイッチ、意思伝達装置の選び方と練習も担います。
- 薬局:飲み込みにくさや胃ろうからの投与に合わせた調剤の相談、自宅への配達。自己負担上限額管理票への記入も、指定医療機関として確実に行います。
- ケアマネジャー:進み方に合わせてケアプランを早めに見直し、必要なら要介護度の区分変更を申請します。ベッドや車いす、移乗の用具は、次の段階を見越して選びます。障害福祉サービスを使う場合は、相談支援専門員と役割を分けます。
- ヘルパー(訪問介護・重度訪問介護):生活の介助と長時間の見守り。吸引や経管栄養を担う場合は、研修・認定・事業所の登録がそろっているかを確認します。
- 保健所・保健センターの保健師:難病の方の療養相談や家庭訪問を行い、東京都の在宅難病事業の窓口にもなります。
停電への備え
人工呼吸器や吸引器には電源が欠かせません。バッテリーで動く時間、予備の電源、停電したときの連絡先と避難の方法を、呼吸器の業者・訪問看護・保健所と普段のうちに決めておきましょう。
受け入れ先を探すときに伝えること
ALSの方の依頼では、訪問の回数や医療処置の内容で受けられる事業所が変わります。最初の打診で次の点を伝えると、返事が早くなります。
- 住所(町名・丁目まで)
- 呼吸の状態:NPPV(使う時間帯)か、気管切開をしてTPPVか、呼吸器を使っていないか。たんの吸引の回数(日中・夜間)
- 栄養:口から食べているか、胃ろう・経鼻栄養か
- 意思を伝える方法(会話・文字盤・意思伝達装置など)
- お願いしたい訪問の頻度(週何日・1日何回、夜間や早朝の訪問が要るか)と、ほかに入っている訪問看護ステーション
- 介護保険の認定、障害福祉サービスの支給決定、難病医療費助成の受給者証の有無
- 呼吸器や胃ろうについてのご本人の意向と、話し合いの状況
- ご家族の介護の体制(夜間に介護できる人がいるか)
1日に何度も訪問が必要な場合や、夜間の吸引が多い場合は、1か所で担いきれず、複数の訪問看護ステーションで分担することがあります。条件に合いそうな事業所に同時に打診し、分担の組み方も含めて相談すると進めやすくなります。
Med-Tasukiで受け入れ先に相談する
Med-Tasuki(メドタスキ)の一括依頼では、住所(町名まで)と必要な条件を入れると、近くの施設へまとめて受け入れを相談できます。引き受けた施設とはそのままチャットで調整できます。医療機関・介護事業所の方は無料で登録できます。
参考にした情報
- 難病情報センター「筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2)」
- 難病情報センター「指定難病患者への医療費助成制度のご案内」
- 厚生労働省「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(令和8年3月5日 保発0305第19号)
- 厚生労働省 中央社会保険医療協議会 資料「在宅(その3)」(医療保険と介護保険の訪問看護対象者のイメージ)
- 厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」
- 厚生労働省「障害者総合支援法の対象疾病(難病等)」
- 厚生労働省「障害福祉サービスの利用について(2018年4月版)」
- 厚生労働省 社会保障審議会障害者部会 資料「高齢の障害者に対する支援の在り方について」(介護保険と障害福祉の適用関係)
- 東京都保健医療局「難病医療費助成の助成内容」
- 東京都保健医療局「在宅人工呼吸器使用難病患者訪問看護事業」
- 東京都保健医療局「在宅難病患者一時入院」
- 東京都保健医療局「難病患者在宅レスパイト事業」
- 東京都保健医療局「在宅人工呼吸器使用難病患者非常用電源設備整備事業」
- 東京都福祉局「喀痰吸引等(たんの吸引等)の制度について」
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。