ひとことで言うと
がんの方の在宅移行は「時間との勝負」です。退院の話が出たら、その日のうちに訪問診療・訪問看護・薬局(麻薬対応)を同時に探し、介護保険は暫定で動かします。末期のがんは別表7で医療保険の訪問看護が頻回に使え、40歳以上なら特定疾病で介護保険も使えます。
がんの治療が一区切りつき、「残りの時間を自宅で」と決まったとき、病院から在宅への移行はしばしば数日で進めなければなりません。受け入れ先探しと制度の手続きを同時に走らせる段取りと、在宅緩和ケアのチームの組み方をまとめます。
01在宅移行の流れ:同時に動かす
- 1
退院の話が出た日に受け入れ先を探し始める
訪問診療(緩和ケアに対応)、訪問看護(24時間対応)、薬局(麻薬対応・できれば無菌調剤)を同時に探します。1つずつ順番に探すと間に合いません。
- 2
介護保険を申請する(40歳以上)
末期のがんは特定疾病に当たるので、40〜64歳でも申請できます。認定を待たず、暫定のケアプランでベッドや訪問介護を入れられます。
- 3
退院前カンファレンス
病院の主治医・看護師・MSW と、在宅の訪問診療医・訪問看護・ケアマネジャー・薬局が、病状と見通し、症状の対応、麻薬の処方、急変時の方針を共有します。
- 4
退院当日〜翌日に訪問看護と訪問診療が入る
退院直後は不安と症状の変化が最も大きい時期です。空白を作りません。
- 5
在宅での看取りまで
症状の変化に合わせて、訪問の回数と薬を調整します。急変時の方針を折に触れて確かめます。
同時に
訪問診療・訪問看護・薬局
順番に探すと間に合わない
別表7
末期のがん
医療保険の訪問看護。週4日以上可
特定疾病
40〜64歳のがん末期
介護保険を申請できる

がんの在宅移行で一番つらいのは、受け入れ先が決まらないまま日にちだけが過ぎることです。私は病院から相談を受けたら、その日のうちに「受けられるか」だけは返事をするようにしています。MSW の方も、複数の在宅医に同時に声をかけることをためらわないでください。
02使える制度
| 制度 | 内容 | 注意 |
|---|---|---|
| 医療保険の訪問看護(別表7) | 末期のがんは医療保険。週4日以上・1日複数回・ステーション2〜3か所が可能 | 「末期」と主治医が判断していることが前提 |
| 介護保険(特定疾病) | 40〜64歳でも「がん(末期)」で申請できる。ベッド・訪問介護・訪問入浴など | 認定前でも暫定利用が可能。区分変更も早めに |
| 高額療養費 | 医療費の自己負担に月ごとの上限 | 限度額適用認定証を先に取っておく |
| 傷病手当金・障害年金 | 働いていた方の収入の補い | 病院の MSW に相談 |
| 在宅療養支援診療所 | 24時間の連絡・往診の体制がある診療所 | 看取りの実績があるところを選ぶ |
介護保険の認定を待たない
がんの方は状態の変化が速く、認定結果(通常1か月ほど)を待っていると、必要なときにサービスが使えません。申請と同時にケアマネジャーを決め、暫定のケアプランで介護ベッドや訪問介護を入れます。認定が出たら区分に合わせて見直します。
03在宅緩和ケアのチーム
| 職種・事業所 | 担うこと |
|---|---|
| 訪問診療医 | 痛み・息苦しさ・吐き気などの症状の治療(医療用麻薬を含む)、見通しの説明、急変時の方針の確認、看取り |
| 訪問看護 | 症状の観察と記録、麻薬の管理、処置、ご家族への介護と看取りの説明、夜間の相談の窓口 |
| 薬局 | 麻薬を含む薬の配達・管理、注射薬の無菌調剤、残薬の回収 |
| ケアマネジャー | 暫定ケアプラン、ベッドや訪問介護・訪問入浴の手配、家族の希望の調整 |
| 病院 | 退院前カンファレンス、緊急時の受け入れ(在宅が難しくなったとき)、緩和ケア病棟の相談 |
| 訪問介護・訪問入浴 | 身の回りの支援、家族の休息 |
在宅緩和ケアは「病院と同じ医療を自宅でする」のではなく、「本人が望む暮らしを保ちながら、苦痛を和らげる」ことが目標です。そのために、症状が出てから慌てるのではなく、出そうな症状を先回りして薬を用意しておきます(痛みのレスキュー、吐き気止め、不安や不眠への薬など)。
04症状のサインと連絡の決め方
退院前に決めておく「連絡の決まり」
- 痛みが強くなったとき:レスキューを使ってよい回数と、それでも治まらないときの連絡先
- 息苦しさ・むくみ・食べられない:どの程度で連絡するか
- 発熱:がんの方は感染が急に悪化することがある。何度で連絡するか
- 意識が遠のく・呼びかけへの反応が鈍い:看取りが近いサインの場合と、薬の影響の場合がある。まず訪問看護に連絡
- 夜間・休日の連絡先(訪問看護→医師の順など)
- 救急車を呼ぶかどうか:本人・家族の希望を確かめて記録し、チームで共有
「救急車を呼ぶかどうか」は、事前に話し合っておかないと、亡くなる間際にご家族が動転して119番し、望まない搬送や処置につながることがあります。本人・家族の希望は変わってよいものなので、折に触れて確かめ直します。

在宅で看取りを迎えるご家族に、私は「呼吸が止まっても慌てて救急車を呼ばなくてよい。まず訪問看護か私に電話してください」と繰り返し伝えます。それが「見捨てる」ことではなく、本人の望んだ最期を守ることだと理解してもらえると、ご家族は最後の時間を落ち着いて過ごせます。
05在宅が難しくなったとき
症状が家では抑えられない、介護者が限界、本人が入院を望む、といったときは、在宅にこだわらず病院や緩和ケア病棟に移る選択があります。退院前に「戻れる病院」を決めておくと、ご家族は安心して在宅を選べます。緩和ケア病棟は申し込みから入院まで時間がかかることがあるので、早めに相談しておきます。
- Q1.本人が入院を望んでいるはい本人の希望を優先して病院・緩和ケア病棟に相談いいえ
- Q2.症状が在宅の治療で抑えられないはい病院・緩和ケア病棟に相談。落ち着けば再び在宅も可能いいえ
- Q3.介護者が限界で、訪問の回数を増やしても支えきれないはいショートステイや一時的な入院で介護者を休ませることを検討いいえ
06退院当日〜1週間の動き方
| 時期 | 在宅チームの動き |
|---|---|
| 退院前日 | 介護ベッド・酸素などの搬入。薬局が麻薬を含む薬を準備 |
| 退院当日 | 訪問看護が夕方に訪問(状態と薬の確認、家族の不安を聞く) |
| 退院翌日 | 訪問診療の初回訪問。症状と薬の調整、急変時の方針の再確認 |
| 2〜3日目 | 訪問看護。痛み・排便・食事の記録の確認。レスキューの使い方の再説明 |
| 1週間後 | ケアマネジャーの訪問。暫定ケアプランの見直し、家族の休息の相談 |
状態によっては毎日の訪問看護が要ります。末期のがんは別表7なので医療保険で週4日以上の訪問ができます。
07受け入れ先を探すときに伝えること
がんの方の依頼では、病名と病期、病状の見通し(主治医の説明)、痛みなどの症状と使っている薬(麻薬の有無・注射薬の有無)、医療処置、退院予定日、本人・家族の希望(在宅で最期まで・入院も考える)、介護保険の状況を最初に伝えます。時間がないことも正直に伝えると、受け入れ側も急いで返事します。
参考にした情報
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。