ひとことで言うと
在宅で亡くなったとき、訪問診療医が診察して死亡診断書を書けば、警察は関わりません。そのために「呼吸が止まったら救急車ではなく訪問看護か医師に電話する」ことを、ご家族に繰り返し伝えておきます。亡くなる数日前からのサインと、当日の流れをまとめます。
自宅で最期を迎えるとき、ご家族が一番不安に思うのは「そのとき何をすればいいのか」「警察が来るのか」です。訪問診療が入っていて、亡くなる前後の連絡の決まりができていれば、警察は関わらず、ご家族は静かに見送ることができます。数日前から亡くなった後までの流れをまとめます。
01亡くなる数日〜数週間前のサイン
病気によって違いはありますが、がんや老衰では、亡くなる前におおむね次のような変化が現れます。「そろそろ」という見通しを、訪問看護師や医師がご家族に段階的に伝えていきます。
| 時期 | 主な変化 | チームがすること |
|---|---|---|
| 数週間前 | 食事が減る。眠る時間が増える。トイレに行けなくなる | 無理に食べさせない。おむつ・体位の工夫。家族に見通しを伝え始める |
| 数日前 | 水分もほとんど取れない。尿が減る。呼びかけへの反応が薄い。手足が冷たくなる | 口を湿らせる。訪問の回数を増やす。家族に「呼吸が止まったときの連絡」を再確認 |
| 数時間前 | 呼吸のリズムが変わる(止まったり早くなったり)。のどでゴロゴロと音がする。顔色が変わる | 苦しそうに見えても本人は多くの場合つらくないと伝える。家族がそばにいられるように |
変化の速さは人によって違います。「あと何日」と断言はできませんが、目安を伝えることで、ご家族は会わせたい人を呼ぶなどの準備ができます。
救急車を呼ばない
呼吸が止まったとき
まず訪問看護か医師に電話
警察は関わらない
訪問診療医が死亡診断すれば
継続して診ていた病気で亡くなった場合
急がない
亡くなった後の連絡
深夜なら朝まで待ってもよいと決めておく

「のどでゴロゴロ音がして苦しそう」とご家族が心配されることが多いのですが、この時期の本人は意識が遠のいていて、苦しさを感じていないことがほとんどです。私は事前にこの変化を説明し、「吸引をしなくてよい」「そばで手を握ってあげてください」と伝えるようにしています。
02亡くなったときの流れ
- 1
呼吸が止まったことに気づく
慌てて救急車を呼ばず、事前に決めた連絡先(多くは訪問看護ステーション)に電話します。深夜なら朝まで待ってよい、と決めていればそれでも構いません。
- 2
訪問看護師が訪問
状態を確かめ、医師に連絡します。ご家族と一緒に少し時間を過ごします。
- 3
医師が訪問して死亡を確認
診察して死亡を確認し、死亡診断書を書きます。訪問診療で継続して診ていた病気で亡くなった場合、警察の検視は要りません。
- 4
エンゼルケア(死後の処置)
訪問看護師が体を清め、着替えを手伝います。ご家族が一緒に行うこともできます。
- 5
葬儀社への連絡
死亡診断書を受け取ったあと、ご家族が葬儀社に連絡します。搬送の前に、看取りに関わった人がお別れをする時間を取れます。
救急車を呼ぶとどうなるか
呼吸が止まってから救急車を呼ぶと、救急隊は蘇生処置をしながら病院に運びます。病院で亡くなった扱いになり、本人が望まなかった処置や搬送になることがあります。かかりつけ医がいない状態で自宅で亡くなると、警察の検視が入ります。これを避けるために、訪問診療と事前の連絡の決まりが大切です。
03死亡診断書について
- 死亡診断書は、亡くなる前に診療していた医師が、その病気で亡くなったと判断した場合に書けます。訪問診療を続けていた医師なら、亡くなった後に訪問して診察し、書くことができます。
- 医師が最後に診察してから24時間を超えていても、継続して診ていた病気で亡くなったと判断できれば、死亡後の診察で診断書を書けます。「24時間以内に診察していないと警察」というのは誤解です。
- 転倒や事故、診ていた病気と関係のない急死が疑われる場合は、医師が警察に届け出ることがあります。
- 死亡診断書は、死亡届と一緒に7日以内に市区町村に出します。葬儀社が代行することが多いです。
- 診断書の費用は医療機関ごとに決まっています(保険外)。事前に確かめておきます。

「先生が来るまで何時間もかかるのでは」と心配されるご家族がいますが、亡くなった後の診察は急を要するものではありません。私は「深夜なら朝に伺います。それまでご家族だけの時間を過ごしてください」とお伝えしています。焦らなくてよい、ということ自体がご家族の支えになります。
04ご家族に事前に伝えておくこと
看取りの前にご家族と確かめること
- 呼吸が止まったとき、どこに電話するか(訪問看護→医師の順など)。電話番号を目に付く場所に貼る
- 救急車を呼ばない、という本人・家族の意思。それが「見捨てること」ではないこと
- 深夜に亡くなったとき、朝まで待ってよいか
- 会わせたい人は誰か。連絡する時期
- 亡くなった後の着替え(着せたい服)。宗教上の決まり
- 葬儀社を決めているか(決めていなければ、慌てて決めなくてよいこと)
- 介護に関わった訪問看護・介護職がお別れに来てよいか
これらは一度話せば終わりではありません。病状が変わるたびに、訪問看護師や医師が少しずつ確かめ直します。ご家族が「聞かれたくない」と感じているときは無理に進めず、「いつでも話せます」と伝えておきます。
05亡くなった後の在宅チームの仕事
- 訪問看護:エンゼルケア、家族への声かけ、使っていた医療機器(酸素・ポンプ)の業者への連絡、残った麻薬の回収の案内
- 訪問診療医:死亡診断書、残った麻薬の回収、家族への説明(死亡届・保険の手続きの案内は葬儀社や市区町村が担う)
- ケアマネジャー:介護保険サービスの終了の手続き、福祉用具(ベッド・車いす)の引き取りの手配、介護保険被保険者証の返却の案内
- 薬局:残った薬・麻薬の回収
- グリーフケア:亡くなった後にご家族を訪ね、話を聞く(訪問看護や診療所が行うことがある)
医療機器と麻薬
在宅酸素の濃縮器・輸液ポンプ・吸引器は業者が引き取ります。残った医療用麻薬は家庭で捨てず、薬局か処方した医療機関に返します。介護ベッドなどのレンタル品はケアマネジャーが引き取りを手配します。ご家族が困らないよう、誰が何を引き取るかを訪問看護から伝えます。
06よくある質問
- 家族が留守の間に亡くなっていたら?:発見したときに訪問看護か医師に連絡します。訪問診療で継続して診ていた病気なら、医師の診察で診断書を書けます。
- 独居の方の看取りは?:訪問の回数を増やし、ヘルパーや近所の見守りを組めば可能です。発見までに時間が空くことをご本人・ご家族が受け入れているかを確かめます。
- 施設(有料老人ホームなど)でも同じ?:訪問診療が入っていれば同じ流れです。施設の看取りの方針と、夜間の職員の対応を事前に確かめます。
- 亡くなる瞬間に家族がいなかった:珍しくありません。「そばにいなかった」と自分を責めるご家族に、訪問看護師や医師がそっと寄り添います。
07受け入れ先の探し方
在宅での看取りには、看取りに対応する訪問診療と24時間対応の訪問看護が要ります。Med-Tasuki(メドタスキ)では、看取り対応・24時間対応で絞り込んで探せます。医療機関・介護事業所の方は、一括依頼で近くの施設にまとめて相談できます。
参考にした情報
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。