ひとことで言うと
医療用麻薬は「麻薬小売業者」の免許を持つ薬局しか扱えず、在宅で注射薬(持続皮下注など)を使うにはさらに無菌調剤と機器の準備が要ります。薬局・訪問看護・医師の分担と、余った麻薬の扱いを退院前に決めておきます。
がんの痛みや息苦しさに医療用麻薬(モルヒネ・オキシコドン・フェンタニルなど)を使う方が自宅に帰るとき、最初に確かめるのは「近くに麻薬を扱える薬局があるか」です。飲み薬か貼り薬か注射薬かで、必要な薬局の設備と訪問看護の関わり方が変わります。在宅チームの分担をまとめます。
01麻薬を扱える薬局の条件
医療用麻薬を調剤して渡せるのは、都道府県から「麻薬小売業者」の免許を受けた薬局だけです。すべての薬局が免許を持っているわけではありません。さらに、在宅で注射薬を使う場合は、無菌の環境で薬を混ぜる設備(クリーンベンチなど)が要ります。
麻薬小売業者
薬局の免許
免許のない薬局は扱えない
無菌調剤
注射薬を使うとき
できる薬局はさらに限られる
返却
余った麻薬
家庭で捨てない。薬局か医療機関へ
| 形 | 主な使い方 | 薬局に必要なもの | 訪問看護の関わり |
|---|---|---|---|
| 飲み薬(徐放剤・速放剤) | 定時の痛み止めと、痛いときの追加(レスキュー) | 麻薬小売業者の免許 | 服薬の確認、痛みと副作用(便秘・眠気・吐き気)の観察 |
| 貼り薬(フェンタニル) | 飲めない方の定時の痛み止め | 麻薬小売業者の免許 | 貼り替えの管理、皮膚の観察、発熱や暖房で吸収が増えることの注意 |
| 坐薬 | 飲めない方のレスキュー | 麻薬小売業者の免許 | 使い方の指導 |
| 注射薬(持続皮下注・持続静注) | 飲めない・量が多い・急いで調整したいとき | 免許+無菌調剤の設備。携帯型のポンプの手配 | ポンプの管理、針の交換、流量の変更(医師の指示)、レスキューの操作の指導 |

在宅で麻薬を使うとき、私が薬局に一番お願いしたいのは「切れない」ことです。痛み止めが週末に切れてしまうと、患者さんは夜通し苦しみます。処方の日数、薬局の在庫、配達の曜日を、医師・薬局・訪問看護の三者で合わせておくと安心です。
02在宅チームの役割分担
| 職種・事業所 | 担うこと |
|---|---|
| 訪問診療医 | 麻薬の処方(麻薬施用者の免許が要る)、量の調整、レスキューの指示、副作用の対応、注射薬なら持続皮下注の指示と機器の手配 |
| 薬局(麻薬小売業者) | 調剤・配達、在庫の確保、麻薬の帳簿管理、飲み方・貼り方の説明、残薬の回収、注射薬の無菌調剤とポンプへの充填 |
| 訪問看護 | 痛みの評価と記録、服薬・貼付の確認、副作用(便秘・眠気・吐き気・せん妄)の観察、注射薬のポンプ管理と針の交換、家族へのレスキューの説明 |
| ケアマネジャー | 薬の保管場所の確認、訪問の予定の調整、家族の不安への対応、介護職への説明 |
| 訪問介護 | 服薬の声かけ(介助の範囲内)、様子の変化の報告 |
麻薬は「医師が処方し、薬局が渡し、看護師が使い方を確かめる」という三者の流れが途切れないことが大切です。特に、レスキュー(痛いときの追加の薬)は、いつ・どれだけ使ってよいかをご家族が理解していないと、痛みを我慢するか、使いすぎるかのどちらかになります。
03退院前に決めておくこと
医療用麻薬を使う方の退院前の確認
- 麻薬小売業者の免許がある薬局(注射薬なら無菌調剤ができる薬局)が決まっているか
- 退院時の処方は何日分か。次の処方までに薬局の在庫が確保できるか
- 在宅の主治医は麻薬施用者の免許を持っているか(在宅医の多くは持っている)
- レスキューの使い方(何を・どれだけ・何時間あけて・1日何回まで)が家族に伝わっているか
- 注射薬の場合、ポンプの種類、流量、針の交換の担当、電池や充電
- 便秘への対策(下剤の処方)と、吐き気止めの有無
- 麻薬の保管場所(子どもや認知症の方の手の届かない場所)
- 余った麻薬の返却先(薬局か医療機関)
余った麻薬は家庭で捨てない
使わなくなった麻薬、貼り終えた貼り薬、亡くなった後に残った麻薬は、家庭のごみとして捨てず、薬局か処方した医療機関に返します。貼り薬は使用後も薬が残っているので、粘着面を内側に折って返却します。訪問看護・ケアマネジャーは、ご家族に返却先を伝えておきます。

麻薬への不安から「できるだけ使わないでおこう」とするご家族は少なくありません。私は「痛みを取ることは治療の一部で、正しく使えば依存にはなりません」と最初に伝え、レスキューを使った回数を毎日記録してもらいます。その回数が、定時の量を調整する一番の材料になります。
04注射薬(持続皮下注)を在宅で使うとき
飲み込みが難しくなった方や、痛みが強くて早く調整したい方には、小さなポンプで皮下に少しずつ麻薬を入れる「持続皮下注」を在宅でも行います。薬局が無菌の環境でポンプに薬を充填し、訪問看護が数日ごとに針を交換します。医師が流量を指示し、痛いときはご家族がポンプのボタンで追加(レスキュー)します。
- Q1.無菌調剤ができ、麻薬を扱える薬局が対応エリアにあるはい薬局が充填。訪問看護がポンプと針を管理する形で可能いいえ
- Q2.薬局は無理だが、医療機関が院内で充填して届けられるはい医療機関が充填する形で可能(医療機関の体制による)いいえ
- Q3.どちらも難しいはい貼り薬・坐薬など注射以外の形を医師と相談するいいえ
05よくある質問
- 麻薬を使うと寿命が縮む?:痛みを取るために適切に使う麻薬が寿命を縮めることはないとされています。むしろ痛みや息苦しさが和らぐことで、食事や睡眠が取れるようになります。
- 依存になる?:痛みの治療として医師の管理のもとで使う場合、依存は起きにくいとされています。痛みが軽くなれば量を減らせます。
- 眠気がある。量が多い?:飲み始めや増やした直後の眠気は数日で慣れることが多いです。呼びかけに反応が鈍い、呼吸が浅いといったときは医師に連絡します。
- 便秘がひどい:麻薬の便秘はほぼ必ず起こり、慣れません。下剤を最初から一緒に使います。訪問看護が排便の記録をつけます。
- 薬局の配達は毎回頼める?:在宅患者訪問薬剤管理指導(介護保険の方は居宅療養管理指導)の仕組みで、薬剤師が自宅に届けて説明できます。麻薬の場合は加算があります。
06訪問看護の観察と記録
| 項目 | 見方 | 医師に伝えること |
|---|---|---|
| 痛み | 0〜10の数字で本人に聞く。どんなときに痛むか | 数字の推移、レスキューの回数 |
| 眠気・意識 | 呼びかけへの反応、日中の眠り方 | 反応が鈍い、呼吸が浅い(減量や中止の判断) |
| 便秘 | 排便の回数と性状 | 3日以上出ていない、腹部の張り |
| 吐き気 | 食事との関係、時間帯 | 続く吐き気(制吐薬の調整) |
| 貼り薬 | 貼った日時・場所、皮膚の状態、発熱の有無 | 貼り替え忘れ、はがれ、発熱(吸収が増える) |
07受け入れ先を探すときに伝えること
医療用麻薬を使う方の依頼では、薬の名前と形(飲み薬・貼り薬・注射薬)、1日の量、レスキューの内容、持続皮下注の有無、処方の残り日数を最初に伝えます。薬局を探すときは「麻薬の取り扱い」「無菌調剤」の可否を明記します。末期のがんは別表7に当てはまるので、医療保険の訪問看護で頻回の訪問ができます。
参考にした情報
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。