ひとことで言うと
CBDは別表7に重症度の条件なしで入り、訪問看護は医療保険です。診断が難しく病名が後から変わることもあるため、病名が決まった時点で保険と制度を見直すことが大切です。
大脳皮質基底核変性症(CBD)は、パーキンソン病に似た症状(筋肉のこわばり、動作が遅い、歩きにくい)と、大脳の症状(手が思うように使えない、動作がぎこちない)が一緒に現れる病気です。体の左右どちらかに症状が強いのが特徴ですが、典型的な症状がそろわず、診断が難しいことも少なくありません。40歳以降に発病し、60歳代が最も多く、遺伝はしないとされています。この記事では、CBDの方の在宅療養を支えるチームの実務をまとめます。
01CBDの在宅療養で起きやすいこと
典型的には、まず片方の腕が思うように使えなくなり、同じ側の足、やがて反対側の手足へと広がります。進行を止める治療はなく、ゆるやかに進みます。進み方は人によって違いますが、発病から寝たきりになるまでの期間は5〜10年が多いとされています。
- 手が思うように使えない(失行):力はあるのに、思ったように手を動かせません。ボタンをとめる、箸や歯ブラシを使うといった動作が難しくなります。周りからは分かりにくい症状です。
- 自分の意思と関係なく手が動く(他人の手徴候):片方の手が勝手に物をつかむなどの症状がみられることがあります。
- 転倒:CBDでは経過の中でほとんどの方が転倒を経験し、早い時期から転ぶ方も珍しくないと報告されています。
- 言葉と認知:言葉が出にくくなる(失語)、片側の空間を見落とす(半側空間無視)、認知症がみられることも少なくありません。
- 手足の硬さ:腕が肘で曲がったまま硬くなることや、手足に力が入り続ける(ジストニア)、素早いぴくつき(ミオクローヌス)が出ることがあります。
- 飲み込み:少しずつ飲み込みが悪くなり、むせから肺炎を起こすことがあります。
症状の現れ方にはいくつかのタイプがあり、進行性核上性麻痺に似たタイプや、失語や認知症が中心になるタイプも知られています。症状から見た呼び名として「大脳皮質基底核症候群(CBS)」が使われることもあります。
02訪問看護は医療保険か介護保険か
CBDは、訪問看護を医療保険で行う病気の一覧「別表7」(厚生労働大臣が定める疾病等)に「パーキンソン病関連疾患」の一つとして入っています。パーキンソン病にはホーエン・ヤール重症度などの条件がありますが、CBDと進行性核上性麻痺には重症度の条件はありません。また、介護保険の「特定疾病」にも入っています(2026年9月時点)。
医療保険
訪問看護
症状の重さ、年齢、介護保険の認定の有無にかかわらず。要介護認定を受けていても医療保険
週4日以上
医療保険の訪問看護でできること
1日に複数回の訪問、複数の訪問看護ステーションの利用もできる
40歳から
介護保険(特定疾病)
40〜64歳の方も要介護認定を申請できる。ヘルパー・福祉用具・住宅改修・通所やショートステイに使う
訪問看護が医療保険になると、介護保険の支給限度額の枠をほかのサービスに使えます。
病名が決まったら、保険と制度を見直す
CBDは診断が難しく、はじめは別の病名(パーキンソン病、脳血管の病気、認知症など)で介護保険のサービスを使い始めている方もいます。CBDと診断されたら、訪問看護は介護保険から医療保険に切り替わります。反対に、経過の中で病名が変わると扱いが変わることもあります。主治医の診断名を訪問看護ステーションとケアマネジャーが共有し、変わったときはすぐ見直しましょう。

CBDは、経過を見ながら診断が固まっていくことの多い病気です。私たち医師の側も、診断名が変わったときは訪問看護ステーションやケアマネジャーに早めに伝えるよう心がけたいと思います。「いまの病名で保険は合っているか」と気になったら、遠慮なく主治医に確かめてください。
03使える制度
- 難病医療費助成(特定医療費):CBDは指定難病7です。重症度分類で一定以上の方か、軽症でも医療費が高額な月が続く方(軽症高額)が対象です。申請には難病指定医が書く臨床調査個人票(診断書)が要ります。
- 助成は、都道府県が指定した病院・診療所・薬局・訪問看護ステーションなどで受けた医療が対象です。介護保険の訪問リハビリや居宅療養管理指導なども対象ですが、訪問介護(ヘルパー)は対象外です。
- 指定難病登録者証:医療費助成の対象にならない方にも交付され、福祉などの支援を受けるときに使えます。
- 障害福祉サービス:CBDは障害者総合支援法の対象の病気で、障害者手帳がなくても市区町村に申請できます。介護保険の対象の方は、同じ内容のサービスは介護保険が基本です。
- 東京都の在宅難病患者訪問診療事業:通院が難しい難病の方に向けて、東京都医師会に委託して行っている訪問診療の事業があります。患者さん・ご家族の費用負担はなく、かかりつけ医を通じて相談します(2026年9月時点)。
04在宅チームで押さえること(職種ごと)
| 職種 | 担うこと |
|---|---|
| 訪問診療 | 専門の脳神経内科と役割を分け、転倒によるけが・誤嚥性肺炎など急な変化のときの対応を決める。言葉や認知の症状が進む前に、療養の場所や食べられなくなったときのことについて、ご本人の希望を聞いておく |
| 訪問看護 | 転倒やけがの確認、むせや体重の変化の観察。曲がったまま硬くなった手や肘の内側は汗がたまりやすいため、皮膚の状態と清潔を確かめる |
| リハビリ(PT・OT・ST) | 何もしないと体の力は落ちるため、積極的に体を動かす。歩行・移乗の練習、転倒しにくい住まいの調整、手の使い方の工夫、飲み込みと言葉の評価 |
| ケアマネジャー | 転倒が早くから多いため、手すり・段差の解消・福祉用具を早めに検討する。意思が伝わりにくくなる前提で、ご家族と一緒に計画を立てる |
| 薬局 | パーキンソン病の治療薬などが使われることがある。片手が使いにくい・飲み込みにくい状態に合わせ、1回分ずつまとめる、飲みやすい形にするなどの工夫と自宅への配達 |
| ヘルパー | 「できるはずなのにできない」動作を無理に促さず、必要なところを手伝う。見落としやすい側を意識して、声をかける位置や物の置き場所を工夫する |
| 訪問歯科・歯科衛生士 | 口の中を清潔に保ち、誤嚥性肺炎を防ぐ。飲み込みの状態に合わせた食事の形をチームで共有する |
症状を「本人の努力不足」と受け取らない
失行や半側空間無視は、外から見ると分かりにくく、「やる気がない」「わざとしない」と誤解されやすい症状です。ご家族や新しく入るヘルパーにも、病気による症状であることをチームから伝えておきましょう。

言葉や認知の症状が進むと、ご本人の希望を確かめるのが難しくなります。これからどこで過ごしたいか、食べられなくなったらどうしたいかは、話ができるうちに少しずつ聞いておいてほしいと思います。一度で答えを求めず、何度か話題にしながら、チームで同じ内容を共有してください。
05受け入れ先を探すときに伝えること
受け入れ先に最初に伝えること
- 住所(町名・丁目まで)
- 診断名(CBD・CBS・疑いの段階か)と、診断した医療機関
- 介護保険の認定、担当のケアマネジャーの有無、難病医療費助成の受給者証の有無
- 歩行の状態と転倒の回数、けがの有無
- 手の使いにくさや、他人の手徴候の有無
- 言葉・認知の症状(会話で意思が伝わるか)
- 飲み込みの状態と、胃ろうの有無
- ご家族の介護の体制
訪問看護ステーションに依頼するときは、「CBDなので医療保険での訪問になる」ことを最初に伝えると、保険の確認がスムーズです。いまの訪問看護を介護保険で使っている方は、切り替えの時期も相談しましょう。
CBDは、正確な数はわかっていないものの、日本では人口10万人あたり3.5人ほどと考えられているまれな病気です。担当した経験のある事業所は多くないため、病名だけを伝えるより、「どんな動作ができないか」「どの場面で転びやすいか」など、必要なケアを具体的に伝えるほうが、受け入れの判断がしやすくなります。
06Med-Tasukiで受け入れ先に相談する
Med-Tasuki(メドタスキ)の一括依頼では、住所(町名まで)と必要な条件を入れると、近くの施設へまとめて受け入れを相談できます。医療機関・介護事業所の方は無料で登録できます。
参考にした情報
- 難病情報センター「大脳皮質基底核変性症(指定難病7)」
- 厚生労働科学研究費補助金 神経変性疾患領域の基盤的調査研究班「大脳皮質基底核変性症(CBD)診療マニュアル2022」
- 難病情報センター「指定難病患者への医療費助成制度のご案内」
- 厚生労働省「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(令和8年3月5日 保発0305第19号)
- 厚生労働省 中央社会保険医療協議会 資料「在宅(その3)」(医療保険と介護保険の訪問看護対象者のイメージ)
- 厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」
- 厚生労働省「障害者総合支援法の対象疾病(難病等)」
- 東京都保健医療局「難病医療費助成の助成内容」
- 東京都保健医療局「在宅難病患者訪問診療」
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。