ひとことで言うと
神経難病の看取りは、長い療養の先にあり、時期を見通しにくいことがあります。本人の意思を早めに繰り返し確かめ、急なときの連絡先と亡くなった後の流れをご家族と共有しておきましょう。
神経難病の方を自宅で看取ることは、在宅チームにとって、何年も続いた療養の締めくくりを支えることでもあります。肺炎や急な変化をきっかけに最期の時期に入ることがあり、その時期を見通しにくいこともあります。本人が思いを言葉で伝えにくくなっていることも少なくありません。この記事では、神経難病の在宅看取りで在宅チームが前もって準備しておくこと、急に具合が悪くなったときの流れ、亡くなった後の手続き、ご家族の支え方をまとめます。
01神経難病の看取りで、ほかと違うところ
- 長い療養の先にある:何年もの在宅療養の延長線上に看取りがあり、ご家族の介護もすでに長く続いています。
- きっかけが病気によって違う:進行性核上性麻痺では食べ物や唾液の誤嚥による肺炎が死因として多く、多系統萎縮症では誤嚥性肺炎のほか、睡眠中の突然死が起こりうるとされています(気管切開をしていても起こりえます)。筋ジストロフィーでは、感染をきっかけに心不全が急に悪化することがあります。
- 思いを伝えにくくなる:話すこと・書くことが難しくなる病気が多く、本人の意思を確かめられる時期に限りがあります。
- 医療機器を使っている方も多い:人工呼吸器、胃ろう、たんの吸引などを使いながら最期の時期を過ごす方もいます。
- 訪問看護を厚くしやすい:ALS、パーキンソン病関連疾患、多系統萎縮症など多くの神経難病は「厚生労働大臣が定める疾病等」(別表7)に当たり、訪問看護は医療保険で、毎日の訪問や1日に複数回の訪問を組めます(2026年9月時点)。
02前もって話し合っておくこと(人生会議)
厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」は、医師などから適切な情報と説明を受けたうえで、本人が医療・介護の多職種のチームと十分に話し合い、本人が決めることを最も大切な原則としています。本人の気持ちは変わりうるため、話し合いは繰り返し行い、本人が思いを伝えられなくなるときに備えて、ご家族など信頼できる人も加わること、本人の意思を推し量る人を前もって決めておくこと、話し合った内容をそのつど記録に残すことも求めています。この取り組みは、アドバンス・ケア・プランニング(ACP、愛称「人生会議」)と呼ばれています。
人生会議で、前もって話し合っておくこと
- 最期の時期をどこで過ごしたいか(自宅か、病院か)
- 肺炎などで具合が悪くなったとき、入院して治療を受けたいか、自宅で過ごしたいか
- まだ使っていない方は、人工呼吸器・気管切開・胃ろうを使うかどうか
- 心臓や呼吸が止まったときに、心肺蘇生を望むか
- 本人の代わりに思いを伝える人は誰か
- 本人が大切にしていること、してほしくないこと
決めたことに縛られなくてよい
一度決めたことでも、気持ちや状態が変われば見直してかまいません。ご家族の中で意見がまとまらないとき、チームとの間で合意できないときは、ガイドラインは複数の専門家による話し合いの場を設けることを勧めています。話し合いの記録は、在宅医・訪問看護・ケアマネジャーなどチーム全員で共有します。

人生会議は、一度で答えを出す場ではありません。迷ったり、気持ちが揺れたりするのは自然なことです。ご本人が大切にしてきたことを、ご家族や在宅チームと少しずつ言葉にしておくと、いざというときに、皆で同じ方向を向いて支えやすくなります。
03急に具合が悪くなったとき:救急車と「心肺蘇生を望まない」意思
自宅での看取りを決めていても、慌てたご家族が119番に電話することはあります。救急隊は救命を主な目的とするため、通報があれば通常どおり心肺蘇生を始めます。東京消防庁は、ACPが行われている成人の心肺停止で、本人に「心肺蘇生を望まない」意思がある場合の対応を定めています。救急隊が、かかりつけ医などに直接、または訪問看護師などを通して連絡し、「人生の最終段階にあること」「本人が心肺蘇生を望んでいないこと」「話し合いのときに想定していた症状と今の症状が合っていること」を確かめられた場合に、心肺蘇生を中止し、かかりつけ医やご家族に引き継ぎます。食べ物などをのどに詰まらせた窒息や、不慮の事故が疑われる場合は対象になりません。
急なときに備えて、ご家族と決めておくこと
- 具合が変わったら、まず訪問看護(または在宅医)に電話することを、ご家族と決めておく
- 24時間つながる電話番号を、紙に書いて電話のそばなど見える場所に貼る
- 救急車を呼んだ場合に備え、救急隊がかかりつけ医や訪問看護に連絡できるよう、連絡先をすぐ見せられるようにしておく
- 本人の意思と話し合いの内容を記録し、夜間・休日に対応する医師や看護師にも伝わるようにする
東京都以外の地域では
ここで紹介したのは東京消防庁の運用です。ほかの地域では対応が違うことがあるため、東京都以外にお住まいの方は、地域の消防本部の案内を確かめてください。
04最期の時期の、在宅チームの役割
| 職種 | 担うこと |
|---|---|
| 訪問診療医 | 苦痛をやわらげる治療、状態が変わったときの往診、亡くなったときの死亡診断。今後起こりうることを、本人とご家族に説明する |
| 訪問看護 | 状態の変化を見守り、ご家族が不安なときに24時間相談を受ける。医療機器の管理、ご家族へのケアの手ほどき、最期の時期に起こりうる変化の説明 |
| ケアマネジャー・相談支援専門員 | ベッドや床ずれを防ぐマットなどの調整、訪問介護の回数の見直し、ご家族が休む時間の確保 |
| 薬局 | 苦痛をやわらげる薬を自宅へ届ける。飲み込めなくなったときの薬の形を医師と相談する |
| 訪問介護 | 身の回りのお世話を続け、ふだんと違う様子に気づいたら訪問看護に伝える |
医療保険の訪問看護には、在宅で亡くなった方のターミナルケアを評価する「訪問看護ターミナルケア療養費」があります。主治医の指示のもとで、亡くなった日と、その前の14日以内に2回以上訪問看護を行い、ターミナルケアの支援体制をご本人・ご家族に説明していることなどが要件です(2026年9月時点)。
05亡くなったとき:死亡診断と、その後の手続き
24時間以内
最後の診察から
診療中の病気に関連して亡くなった場合、医師が改めて診察しなくても死亡診断書を書けます(医師法第20条ただし書)
24時間を過ぎても
死亡診断書は書ける
亡くなった後に医師が改めて診察し、生前に診療していた病気に関連する死亡と判断できれば書けます(厚生労働省の2012年の通知)
厚生労働省の2012年の通知は、医師が立ち会っていなかった場合も同じだとしています。「24時間を過ぎたら死亡診断書を書けない」「警察に届けなければならない」というのは誤った解釈です。一方、診療していた病気に関連する死亡と判断できない場合は検案となり、異状があれば医師は警察に届け出ます。
- 1
決めておいた連絡先へ電話する
呼吸が止まっていることに気づいたら、看取りの方針を話し合っている場合は、決めておいた訪問看護や在宅医に連絡します。
- 2
医師が訪問して死亡を確かめる
医師が診察して死亡を確かめ、死亡診断書を書きます。訪問看護師がご家族と一緒に、お体を整えることもあります。
- 3
死亡届を出す
死亡の事実を知った日から7日以内に、亡くなった場所・本籍地・届け出る人の住所のいずれかの市区町村に届け出ます。届出の用紙は死亡診断書と一体になっています。届け出る人は、親族や同居の方などです。
- 4
機器とサービスの手続きをする
レンタルしている医療機器や福祉用具の返却、介護保険・障害福祉サービス・難病の医療費助成などの手続きがあります。窓口と必要な手続きは自治体や制度によって違うため、在宅チームが一覧にしてご家族に渡すと、慌ただしい時期の負担が軽くなります。
06ご家族を支える
- 長い介護の疲れを受け止める:看取りの時期は、それまでの疲れが重なります。ショートステイや一時入院、東京都の難病患者在宅レスパイト事業(人工呼吸器を使う方が対象)など、休む手段を早めに案内します。
- 迷いを受け止める:自宅で看取ると決めていても、途中で入院を選んでよいことを伝えます。どちらを選んでも、ご家族の選択を支えます。
- 説明をくり返す:これから起こりうる変化と、そのときの連絡先を、訪問のたびに確かめます。
- 看取りの後も:亡くなった後に訪問や連絡の機会を持ち、ご家族の思いを聞くことも、在宅チームの大切な役割です。

看取りの時期は、長い介護の疲れが重なる時期でもあります。ご家族が休むことは、ご本人を支え続けるために必要なことだと思っています。つらいときは一人で抱え込まず、訪問看護や在宅医、ケアマネジャーに声をかけてください。
07看取りまで支える在宅チームを探すとき
看取りまでを見据えて訪問診療や訪問看護を依頼するときは、住所・病名・医療処置に加えて、次のことを伝えると、受け入れの判断が早くなります。
- 今の状態(呼吸・飲み込み・意識・思いを伝える手段)と、使っている医療機器
- 本人とご家族の意向(自宅での看取りを望んでいるか、心肺蘇生についての考え)と、話し合いの記録があるか
- 24時間の対応と、希望する訪問の頻度(毎日か、1日に複数回か)
- 介護するご家族の人数と、主に介護する方の状況
- 難病の受給者証・要介護認定・障害福祉サービスの状況
Med-Tasuki(メドタスキ)の一括依頼を使うと、条件を一度入力するだけで、近くの複数の訪問診療・訪問看護へまとめて受け入れを相談できます。
参考にした情報
- 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(2018年3月改訂)
- 厚生労働省 通知「医師法第20条ただし書の適切な運用について」(2012年8月31日)
- 法務省「死亡届」
- 東京消防庁「心肺蘇生を望まない傷病者への対応について」
- 東京消防庁「心肺蘇生を望まない傷病者への対応について」(案内資料)
- 厚生労働省「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法」
- 厚生労働省「特掲診療料の施設基準等」別表第七
- 難病情報センター「進行性核上性麻痺(指定難病5)」
- 日本神経学会「脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018」
- 難病情報センター「筋ジストロフィー(指定難病113)」
- 東京都難病ポータルサイト「難病患者在宅レスパイト事業」
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。