在宅看取り・緩和ケア

在宅での ACP(人生会議)の進め方:話す時期と記録の共有

公開|内容の確認:

対象:訪問診療医・訪問看護師・ケアマネジャーの方、ご家族

前川 裕貴(脳神経内科専門医・頭痛専門医)

この記事の監修

前川 裕貴

脳神経内科専門医・頭痛専門医

荏原ホームケアクリニック 頭痛センター長

地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者

日本内科学会 内科専門医日本神経学会 神経内科専門医日本頭痛学会 頭痛専門医難病指定医

Med-Tasuki(メドタスキ)は、監修者が開発した、在宅医療・介護の施設どうしが患者さんの受け入れをチャットで相談できる無料のサービスです。近くの施設へまとめて相談できる一括依頼も使えます。

ひとことで言うと

ACP(アドバンス・ケア・プランニング、人生会議)は「もしものときにどう過ごしたいか」を本人・家族・医療介護チームで前もって話し合い、繰り返し確かめる取り組みです。在宅では、状態が落ち着いているときに少しずつ話し、決まったことをチーム全員が同じ内容で持っていることが要です。

「救急車を呼ぶかどうか」「病院に運ぶか、家で診るか」「人工呼吸器や胃ろうをどうするか」。こうした問いは、その場になってから決めるには重すぎます。前もって本人の考えを聞き、家族と医療介護チームで共有し、気持ちが変わったら確かめ直す。この取り組みが ACP(人生会議)です。在宅での進め方を実務の順にまとめます。

01ACP とは何で、何ではないか

ACP についてのよくある誤解
誤解実際
「延命治療をするかどうかを決める書類」書類は結果の一部。本人の価値観(何を大切にしたいか)を聞き、共有し続けることが本体
「一度決めたら変えられない」気持ちは変わってよい。変わるたびに確かめ直す
「末期になってから話すもの」状態が落ち着いているときのほうが、本人が考えられる。早い時期に少しずつ
「医師が話すもの」訪問看護師・ケアマネジャーが日常の会話で聞き取ることが多い。誰が聞いてもよい
「本人が話したくなければ無理」無理に進めない。ただ「いつでも話せる」と伝えておく

落ち着いているとき

話す時期

悪くなってからでは考えられない

繰り返す

一度で終わらない

節目ごとに確かめ直す

同じ内容

チーム全員が持つ

記録して共有する

前川 裕貴
医師のひとこと前川 裕貴(脳神経内科専門医・頭痛専門医)
ACP を「延命治療の希望を聞く面談」だと構えると、患者さんもご家族も身構えてしまいます。私は最初の訪問で「これからどう過ごしたいですか」「困ったときは病院に行きたいですか、家にいたいですか」と、暮らしの話として聞くようにしています。答えが出なくても、その問いを一度置いておくことに意味があります。

02いつ、誰が切り出すか

在宅で ACP を話す機会
機会誰が話すこと
訪問診療の初回医師どう過ごしたいか。急なときに病院へ運びたいか。看取りの場所の希望(決まっていなければ「まだ」でよい)
訪問看護の日常の会話看護師本人の気がかり、大切にしていること、家族に伝えたいこと
ケアプランの更新・モニタリングケアマネジャー暮らしの希望、家族の考え、サービスへの希望
病状の節目(入院・悪化・新しい診断)医師と看護師見通しの説明と、それを聞いた上での希望の確かめ直し
本人が話題にしたときその場にいた人遮らずに聞く。内容をチームに伝える

ACP は医師だけの仕事ではありません。むしろ、訪問看護師やケアマネジャー、ヘルパーが日常の会話の中で聞き取った本人の言葉(「病院はもう嫌だ」「孫の結婚式までは」)が、ACP の中心になります。聞いた人がチームに伝える、という習慣が大切です。

03聞くこと

ACP で本人・家族と話すこと

  • 今、大切にしていること。楽しみにしていること
  • 病気と見通しについて、どこまで知りたいか。誰に知らせてよいか
  • 急に具合が悪くなったとき、病院に運んでほしいか、できるだけ家で診てほしいか
  • 心臓や呼吸が止まったとき、蘇生処置(心臓マッサージ・人工呼吸)を望むか
  • 食べられなくなったとき、胃ろうや点滴を望むか
  • 最期の時期をどこで過ごしたいか(自宅・病院・施設)
  • 本人が決められなくなったとき、代わりに決める人は誰か
  • 宗教・信条・葬儀などについての希望

一度に全部聞かない

上の項目を一度の面談で全部聞くと、尋問のようになります。訪問のたびに1つか2つ、本人が話しやすい話題から。「まだ考えられない」も1つの答えとして記録し、時期を置いて戻ります。

前川 裕貴
医師のひとこと前川 裕貴(脳神経内科専門医・頭痛専門医)
在宅で長く診ていると、患者さんの気持ちが変わる場面に何度も出会います。「絶対に病院には行かない」と言っていた方が、苦しくなって入院を望むこともあれば、その逆もあります。変わることは当たり前で、それを「前と違う」と責めないことが、本人が本音を話し続けてくれる条件だと思っています。

04記録と共有

ACP で話したことは、記録して在宅チーム全員が同じ内容を持っている状態にします。夜間に訪問看護が駆けつけたとき、当番の医師が往診したとき、救急隊が来たときに、本人の希望がその場でわかることが目的です。

  • 記録する内容:話した日、誰と、何を話したか、本人の言葉(できるだけそのまま)、決まったこと、決まっていないこと、次に確かめる時期
  • 置く場所:診療所・訪問看護・ケアマネジャーのそれぞれの記録に加え、自宅の目に付く場所(冷蔵庫・ベッドサイド)に要点を1枚で。救急隊が見られるように
  • 共有の手段:サービス担当者会議、連絡ノート、チャット。変更があったら全員に伝える
  • 書式:市区町村や医師会が「もしもの時のノート」「事前指示書」の書式を用意していることがあります。書式は道具で、本体は話し合い
  • 施設に移るとき・入院するとき:記録を渡し、そこでも同じ希望が守られるようにする
急変時に ACP の記録がどう働くか
  1. Q1.本人が「できるだけ家で」「蘇生は望まない」と記録し、家族も共有している
    はい
    訪問看護・医師に連絡。救急車は呼ばず、在宅で対応する
    いいえ
  2. Q2.本人は「病院で治療してほしい」と記録している
    はい
    救急車を呼ぶ。搬送先の病院に記録を渡す
    いいえ
  3. Q3.記録がない、または本人の気持ちが定まっていない
    はい
    救急車を呼ぶことが多くなる。落ち着いたら改めて話し合う
    いいえ
その場の判断になり、本人の希望と違う結果になることがある。だから前もって話し、記録する

05代わりに決める人

本人が意思を伝えられなくなったとき、本人の代わりに医療やケアの方針を相談する人を決めておきます。法律上の代理人ではなく、「本人ならどう考えるか」を一番よく知る人です。配偶者・子ども・きょうだいのほか、本人が信頼する友人でも構いません。その人が「本人の希望」を知っているように、ACP の話し合いに加わってもらいます。

  • 家族の間で意見が分かれる:本人の言葉を記録しておくと、「本人はこう言っていた」を軸に話し合えます。医師・看護師が間に入ります。
  • 家族がいない:地域包括支援センター・成年後見制度・本人が信頼する人に相談します。本人が元気なうちに書面で希望を残しておくことが特に大切です。
  • 認知症の方:早い段階なら本人の意思を聞けます。進んでからも、本人の表情や反応を手がかりに「本人なら」を家族とチームで考えます。

06よくある質問

  • ACP を始めると、本人が「見放された」と感じない?:切り出し方によります。「もしもの話」ではなく「これからどう過ごしたいか」の話として、本人の希望を叶えるための話し合いだと伝えます。
  • 書面(事前指示書)は法的な効力がある?:日本では法律上の効力はありませんが、本人の意思を示す大切な資料として、医療者は尊重します。
  • 救急隊は記録を見て蘇生をやめてくれる?:地域の消防の運用によります。かかりつけ医と連絡が取れ、本人の意思が確認できれば、蘇生を行わないことがある地域が増えています。地域の運用を確かめます。
  • 訪問看護師やケアマネが ACP の話をしてよい?:構いません。むしろ日常の会話で聞き取れるのは訪問看護師やケアマネジャーです。聞いたことを医師と共有します。

07受け入れ先の探し方

ACP を活かすには、看取りに対応する訪問診療と24時間対応の訪問看護が要ります。Med-Tasuki(メドタスキ)では、看取り対応・24時間対応で絞り込んで探せます。医療機関・介護事業所の方は、一括依頼で近くの施設にまとめて相談できます。

参考にした情報

監修者のプロフィール

前川 裕貴(脳神経内科専門医・頭痛専門医)
前川 裕貴

Maekawa Hirotaka

脳神経内科専門医・頭痛専門医

地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者

日本内科学会 内科専門医日本神経学会 神経内科専門医日本頭痛学会 頭痛専門医難病指定医

脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。

2012〜2018年順天堂大学 医学部 医学科
2018〜2020年東京逓信病院 初期臨床研修
2020〜2023年東京大学医学部附属病院 脳神経内科 特任臨床医
2023年〜埼玉精神神経センター 頭痛専門外来
荏原ホームケアクリニック 頭痛センター長
昭和医科大学 脳神経内科 客員講師
2025年〜株式会社Iris Wellness設立

在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。

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監修:前川 裕貴(脳神経内科専門医・頭痛専門医)/この記事は情報提供を目的としたもので、診断・治療を行うものではありません。受け入れの状況や費用は各施設に、治療の判断は主治医にご相談ください。