ひとことで言うと
ACP(アドバンス・ケア・プランニング、人生会議)は「もしものときにどう過ごしたいか」を本人・家族・医療介護チームで前もって話し合い、繰り返し確かめる取り組みです。在宅では、状態が落ち着いているときに少しずつ話し、決まったことをチーム全員が同じ内容で持っていることが要です。
「救急車を呼ぶかどうか」「病院に運ぶか、家で診るか」「人工呼吸器や胃ろうをどうするか」。こうした問いは、その場になってから決めるには重すぎます。前もって本人の考えを聞き、家族と医療介護チームで共有し、気持ちが変わったら確かめ直す。この取り組みが ACP(人生会議)です。在宅での進め方を実務の順にまとめます。
01ACP とは何で、何ではないか
| 誤解 | 実際 |
|---|---|
| 「延命治療をするかどうかを決める書類」 | 書類は結果の一部。本人の価値観(何を大切にしたいか)を聞き、共有し続けることが本体 |
| 「一度決めたら変えられない」 | 気持ちは変わってよい。変わるたびに確かめ直す |
| 「末期になってから話すもの」 | 状態が落ち着いているときのほうが、本人が考えられる。早い時期に少しずつ |
| 「医師が話すもの」 | 訪問看護師・ケアマネジャーが日常の会話で聞き取ることが多い。誰が聞いてもよい |
| 「本人が話したくなければ無理」 | 無理に進めない。ただ「いつでも話せる」と伝えておく |
落ち着いているとき
話す時期
悪くなってからでは考えられない
繰り返す
一度で終わらない
節目ごとに確かめ直す
同じ内容
チーム全員が持つ
記録して共有する

ACP を「延命治療の希望を聞く面談」だと構えると、患者さんもご家族も身構えてしまいます。私は最初の訪問で「これからどう過ごしたいですか」「困ったときは病院に行きたいですか、家にいたいですか」と、暮らしの話として聞くようにしています。答えが出なくても、その問いを一度置いておくことに意味があります。
02いつ、誰が切り出すか
| 機会 | 誰が | 話すこと |
|---|---|---|
| 訪問診療の初回 | 医師 | どう過ごしたいか。急なときに病院へ運びたいか。看取りの場所の希望(決まっていなければ「まだ」でよい) |
| 訪問看護の日常の会話 | 看護師 | 本人の気がかり、大切にしていること、家族に伝えたいこと |
| ケアプランの更新・モニタリング | ケアマネジャー | 暮らしの希望、家族の考え、サービスへの希望 |
| 病状の節目(入院・悪化・新しい診断) | 医師と看護師 | 見通しの説明と、それを聞いた上での希望の確かめ直し |
| 本人が話題にしたとき | その場にいた人 | 遮らずに聞く。内容をチームに伝える |
ACP は医師だけの仕事ではありません。むしろ、訪問看護師やケアマネジャー、ヘルパーが日常の会話の中で聞き取った本人の言葉(「病院はもう嫌だ」「孫の結婚式までは」)が、ACP の中心になります。聞いた人がチームに伝える、という習慣が大切です。
03聞くこと
ACP で本人・家族と話すこと
- 今、大切にしていること。楽しみにしていること
- 病気と見通しについて、どこまで知りたいか。誰に知らせてよいか
- 急に具合が悪くなったとき、病院に運んでほしいか、できるだけ家で診てほしいか
- 心臓や呼吸が止まったとき、蘇生処置(心臓マッサージ・人工呼吸)を望むか
- 食べられなくなったとき、胃ろうや点滴を望むか
- 最期の時期をどこで過ごしたいか(自宅・病院・施設)
- 本人が決められなくなったとき、代わりに決める人は誰か
- 宗教・信条・葬儀などについての希望
一度に全部聞かない
上の項目を一度の面談で全部聞くと、尋問のようになります。訪問のたびに1つか2つ、本人が話しやすい話題から。「まだ考えられない」も1つの答えとして記録し、時期を置いて戻ります。

在宅で長く診ていると、患者さんの気持ちが変わる場面に何度も出会います。「絶対に病院には行かない」と言っていた方が、苦しくなって入院を望むこともあれば、その逆もあります。変わることは当たり前で、それを「前と違う」と責めないことが、本人が本音を話し続けてくれる条件だと思っています。
04記録と共有
ACP で話したことは、記録して在宅チーム全員が同じ内容を持っている状態にします。夜間に訪問看護が駆けつけたとき、当番の医師が往診したとき、救急隊が来たときに、本人の希望がその場でわかることが目的です。
- 記録する内容:話した日、誰と、何を話したか、本人の言葉(できるだけそのまま)、決まったこと、決まっていないこと、次に確かめる時期
- 置く場所:診療所・訪問看護・ケアマネジャーのそれぞれの記録に加え、自宅の目に付く場所(冷蔵庫・ベッドサイド)に要点を1枚で。救急隊が見られるように
- 共有の手段:サービス担当者会議、連絡ノート、チャット。変更があったら全員に伝える
- 書式:市区町村や医師会が「もしもの時のノート」「事前指示書」の書式を用意していることがあります。書式は道具で、本体は話し合い
- 施設に移るとき・入院するとき:記録を渡し、そこでも同じ希望が守られるようにする
- Q1.本人が「できるだけ家で」「蘇生は望まない」と記録し、家族も共有しているはい訪問看護・医師に連絡。救急車は呼ばず、在宅で対応するいいえ
- Q2.本人は「病院で治療してほしい」と記録しているはい救急車を呼ぶ。搬送先の病院に記録を渡すいいえ
- Q3.記録がない、または本人の気持ちが定まっていないはい救急車を呼ぶことが多くなる。落ち着いたら改めて話し合ういいえ
05代わりに決める人
本人が意思を伝えられなくなったとき、本人の代わりに医療やケアの方針を相談する人を決めておきます。法律上の代理人ではなく、「本人ならどう考えるか」を一番よく知る人です。配偶者・子ども・きょうだいのほか、本人が信頼する友人でも構いません。その人が「本人の希望」を知っているように、ACP の話し合いに加わってもらいます。
- 家族の間で意見が分かれる:本人の言葉を記録しておくと、「本人はこう言っていた」を軸に話し合えます。医師・看護師が間に入ります。
- 家族がいない:地域包括支援センター・成年後見制度・本人が信頼する人に相談します。本人が元気なうちに書面で希望を残しておくことが特に大切です。
- 認知症の方:早い段階なら本人の意思を聞けます。進んでからも、本人の表情や反応を手がかりに「本人なら」を家族とチームで考えます。
06よくある質問
- ACP を始めると、本人が「見放された」と感じない?:切り出し方によります。「もしもの話」ではなく「これからどう過ごしたいか」の話として、本人の希望を叶えるための話し合いだと伝えます。
- 書面(事前指示書)は法的な効力がある?:日本では法律上の効力はありませんが、本人の意思を示す大切な資料として、医療者は尊重します。
- 救急隊は記録を見て蘇生をやめてくれる?:地域の消防の運用によります。かかりつけ医と連絡が取れ、本人の意思が確認できれば、蘇生を行わないことがある地域が増えています。地域の運用を確かめます。
- 訪問看護師やケアマネが ACP の話をしてよい?:構いません。むしろ日常の会話で聞き取れるのは訪問看護師やケアマネジャーです。聞いたことを医師と共有します。
07受け入れ先の探し方
ACP を活かすには、看取りに対応する訪問診療と24時間対応の訪問看護が要ります。Med-Tasuki(メドタスキ)では、看取り対応・24時間対応で絞り込んで探せます。医療機関・介護事業所の方は、一括依頼で近くの施設にまとめて相談できます。
参考にした情報
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。