ひとことで言うと
精神科訪問看護は、統合失調症・うつ病・双極性障害などの方の自宅に、精神科の研修を受けた看護師などが訪問し、服薬・生活・再発のサインを支える訪問看護です。精神科の医師の「精神科訪問看護指示書」が要り、介護保険の認定があっても医療保険で行います(認知症は除く)。
統合失調症やうつ病、双極性障害などの方が地域で暮らし続けるために、自宅に看護師が訪問して服薬や生活を支える仕組みが精神科訪問看護です。通常の訪問看護と指示書や保険の扱いが違い、担える看護師にも条件があります。実務の順にまとめます。
01精神科訪問看護とは
精神科訪問看護指示書
精神科の医師が書く
通常の指示書とは別の様式
医療保険
介護保険の認定があっても
認知症が主な病気の方は除く
研修
担う看護師の条件
精神科の経験か指定の研修
| 精神科訪問看護 | 通常の訪問看護 | |
|---|---|---|
| 対象 | 精神の病気(統合失調症・うつ病・双極性障害・不安障害・依存症・発達障害など)で通院や生活に支援が要る方 | 病気やけがで在宅療養する方 |
| 指示書 | 精神科訪問看護指示書(精神科・心療内科の医師) | 訪問看護指示書(主治医) |
| 保険 | 医療保険(介護保険の認定があっても医療保険) | 介護保険の認定があれば介護保険 |
| 担う人 | 精神科の経験か指定の研修を修めた看護師・准看護師・作業療法士・精神保健福祉士 | 看護師など |
| 回数 | 原則週3日まで(急性増悪などで特別指示があれば増やせる) | 原則週3日まで(別表7・8などで例外) |
| 認知症 | 認知症が主な病気の方は対象外(介護保険の訪問看護) | 認知症の方も対象 |

私は脳神経内科医ですが、在宅で診ている患者さんの中に、うつや不安で生活が立ち行かなくなっている方は少なくありません。精神科の主治医と連携して精神科訪問看護が入ると、服薬が安定し、体の病気の治療も進みやすくなります。「精神科の訪問看護」と身構えず、生活を支える看護として頼んでほしい仕組みです。
02頼めること
- 服薬の支援:薬を続けられるように、飲み忘れの確認、副作用の観察、薬への不安の相談。処方の見直しを医師に提案します。
- 再発のサインの早期発見:眠れない、部屋が荒れる、外に出なくなる、会話が変わる、といった本人ごとのサインを把握し、悪化の前に医師につなぎます。
- 生活の支援:生活のリズム、食事、清潔、金銭、通院の同行の調整。作業療法士が入ると、日中の過ごし方や就労に向けた活動の相談もできます。
- 対人関係・社会参加:デイケア・就労支援・地域活動支援センターなどにつなぐ相談。
- 家族への支援:病気の理解、本人への接し方、家族自身の負担の相談。
- 身体の病気の観察:精神の病気のある方は体の不調を訴えにくいことがあります。血圧・体重・生活習慣病の管理も行います。
精神科訪問看護は「症状を看る」だけでなく「暮らしを支える」看護です。本人の望む暮らし(一人で暮らし続けたい、働きたい、家族と穏やかに過ごしたい)を軸に、そのために何が要るかを一緒に考えます。
03依頼の流れ
- 1
必要性を見立てる
精神科の主治医、病院の精神保健福祉士、相談支援専門員、ケアマネジャー、家族が「自宅での支援が要る」と考えたときに検討します。退院時に始まることも多いです。
- 2
精神科訪問看護に対応するステーションを探す
すべての訪問看護ステーションが対応しているわけではありません。精神科訪問看護の届出をしているステーションを探します。
- 3
精神科の主治医に指示書を頼む
精神科・心療内科の医師が「精神科訪問看護指示書」を書きます。内科の医師は書けません。有効期間は最長6か月です。
- 4
初回訪問と計画
本人の希望、生活の状況、再発のサイン、家族の状況を確かめ、訪問の回数と内容を決めます。
- 5
報告と連携
訪問看護ステーションは月ごとに主治医に報告し、相談支援専門員・ケアマネジャーと情報を共有します。
精神科訪問看護を依頼するときに伝えること
- 病名と通院先(精神科・心療内科の主治医)
- 困っていること(服薬が続かない・再入院を繰り返す・生活が乱れる・家族の負担)
- 入院の経験と、悪化したときのサイン
- 本人が訪問を受け入れているか(拒否がある場合はその理由)
- 使っている福祉サービス(障害福祉サービス・自立支援医療・障害年金・手帳)
- 介護保険の認定の有無(高齢の方)
- 家族の状況と、家族が望むこと
04費用と制度
| 制度 | 内容 |
|---|---|
| 医療保険 | 精神科訪問看護は医療保険。自己負担は1〜3割 |
| 自立支援医療(精神通院医療) | 精神の病気の通院医療の自己負担を原則1割に。精神科訪問看護も対象になる(申請が要る) |
| 精神障害者保健福祉手帳 | 税の控除、公共料金の割引などの支援。訪問看護の利用には必須ではない |
| 障害福祉サービス | 居宅介護(ヘルパー)・就労支援・グループホームなど。相談支援専門員が計画を作る |
| 介護保険(65歳以上・特定疾病) | 高齢の方は介護保険のサービスも併用。ただし精神科訪問看護は医療保険のまま |
自立支援医療の対象に精神科訪問看護を含めるには、申請のときに訪問看護ステーションを指定する必要があります。
高齢の方の精神疾患と認知症
高齢の方で、認知症が主な病気の場合は、精神科訪問看護ではなく介護保険の訪問看護になります。認知症と精神の病気(うつ・統合失調症)の両方がある方は、どちらを主として訪問看護を行うかを主治医が判断します。ケアマネジャーは、主治医とステーションに保険の区分を確かめます。

高齢の患者さんで「認知症だと思っていたらうつだった」「うつだと思っていたら認知症の初期だった」ということは珍しくありません。どちらを主に診るかで訪問看護の仕組みが変わるので、迷うときは精神科と私たち内科系の医師で相談して決めます。ケアマネジャーから「保険の区分がわからない」と言ってもらえるのは、むしろありがたいことです。
05よくある質問
- 本人が訪問を嫌がる:無理に始めず、まず主治医や相談支援専門員から本人に「生活を手伝う看護師」として紹介してもらいます。初回は短時間で、話を聞くだけにすることもあります。
- 家族が本人に内緒で頼める?:本人の同意が要ります。本人が同意できない状態のときは、主治医と相談します。
- 週に何回来てくれる?:原則週3日までで、状態に合わせて決めます。急に悪くなったときは、主治医の特別な指示で回数を増やせることがあります。
- 作業療法士や精神保健福祉士も来る?:ステーションによっては、看護師と分担して訪問します。日中の活動や就労、制度の相談に強い職種です。
- 通常の訪問看護と両方使える?:体の病気で通常の訪問看護も必要な場合、同じステーションが両方を担うことも、別のステーションが担うこともあります。指示書と保険の扱いをステーションに確かめます。
06再発のサインを本人と決める
精神科訪問看護で大切なのは、悪化のサインを「本人の言葉で」決めておくことです。眠れなくなる、音が気になる、片付けができなくなる、人に会いたくなくなる。本人ごとに違うサインを、調子のよいときに一緒に書き出し、サインが出たらどうするか(薬の調整・受診・訪問の増加)を決めておきます。
本人と決めておくこと
- 調子がよいときの自分の様子(睡眠・食事・活動)
- 悪くなり始めのサイン(本人が気づけるもの、周りが気づけるもの)
- サインが出たときに自分でできること(休む・薬を確かめる・誰かに話す)
- サインが出たときに訪問看護・主治医に連絡する目安
- 入院が必要になったとき、どうしてほしいか(連絡してほしい人、家のこと、ペット)
- 調子が悪いときに周りにしてほしいこと・してほしくないこと
07受け入れ先の探し方
Med-Tasuki(メドタスキ)では、訪問看護ステーションを地域や対応内容で探せます。医療機関・介護事業所の方は、一括依頼で近くのステーションにまとめて相談し、精神科訪問看護の対応を確かめられます。
参考にした情報
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。