ひとことで言うと
脊髄小脳変性症は別表7に入り、訪問看護は重症度や年齢にかかわらず医療保険です。とてもゆっくり進むため、転倒・飲み込み・介護の負担に長く付き合う体制づくりが中心になります。
脊髄小脳変性症は、歩くときのふらつき、手が思うように使えない、ろれつが回らない、といった症状(運動失調)が、とてもゆっくり進む病気の総称です。動かす力はあるのに、上手に動かせないのが特徴です。一つの病気ではなく、遺伝性のものと遺伝性でないものを含む多くの病型があり、全国の患者さんは多系統萎縮症を含めて3万人を超えています。この記事では、長く続く在宅療養を支えるチームの実務をまとめます。
01脊髄小脳変性症の在宅療養で起きやすいこと
症状はとてもゆっくり進み、病気そのものが急に悪くなることはないとされています(一部の病型では、症状が一時的に強くなってまた落ち着くことがあります)。進み方は同じ病型でも一人ひとり違います。病気が進んでも会話で意思を通わせることは十分にでき、極端な認知症は伴わないとされています。一方で、療養は年単位、ときに数十年単位になり、ご本人とご家族が抱える負担は少しずつ積み重なっていきます。
- 転倒:立ち上がりや歩行でふらつき、特に歩き出すときや向きを変えるときにバランスを崩しやすくなります。
- 手の使いにくさ:食事・着替え・字を書くなど細かい動作が難しくなり、生活の工夫や介助が必要になります。
- 話しにくさ:口や舌がもつれて、言葉が聞き取りにくくなります。
- 飲み込み:病型によっては進むと飲み込みが悪くなり、誤嚥性肺炎の危険が増します。
- 病型ごとの症状:足の突っ張り、しびれ、血圧や呼吸の調節の障害(自律神経の症状)などを伴うことがあります。どの症状が出やすいかは病型によって違います。
約3分の1は遺伝性で、若い年代で発症する病型もあります。遺伝子の検査は、ご本人の結果がまだ発症していない血縁の方にも関わるため、十分な説明と同意のもとで行われます。遺伝についてのご家族の不安や相談は、チームで抱え込まず、主治医や専門の外来につなぎましょう。

話しにくさがあっても、考える力は保たれている方が多い病気です。聞き取りにくいからといって、ご本人に聞けば分かることをご家族だけに確かめて済ませないでください。私は、時間をかけてでもご本人の言葉で希望を聞くことを、長い療養の土台にしてほしいと考えています。
02訪問看護は医療保険か介護保険か
脊髄小脳変性症は、訪問看護を医療保険で行う病気の一覧「別表7」(厚生労働大臣が定める疾病等)に入っています。パーキンソン病のような重症度の条件はありません。また、40〜64歳でも介護保険を使える「特定疾病」にも入っています。整理すると次のとおりです。
医療保険
訪問看護
症状の軽い・重い、年齢、介護保険の認定の有無にかかわらず。週4日以上・1日に複数回・複数のステーションの利用ができる
40歳から
介護保険(特定疾病)
40〜64歳の方も要介護認定を申請できる。ヘルパー・福祉用具・住宅改修・通所サービスなどに使う
障害福祉
39歳以下の方の生活の支え
介護保険の対象外のため、居宅介護などの障害福祉サービスが中心
要介護認定を受けていても、訪問看護は介護保険ではありません(2026年9月時点)。また、似た病気との境目で、制度ごとに扱いが違うことがあります。
| 病名 | 難病医療費助成 | 別表7・介護保険の特定疾病 |
|---|---|---|
| 多系統萎縮症 | 脊髄小脳変性症とは別の病気(指定難病17) | 別の項目として並んでいる |
| 遺伝性の痙性対麻痺(足の突っ張りと歩きにくさが中心) | 脊髄小脳変性症に含まれる | 同じ扱いになるかは、主治医・訪問看護ステーション・市区町村に確かめる |
03使える制度
- 難病医療費助成(特定医療費):脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)は指定難病18です。重症度分類(日常生活の自立の度合い・食事と栄養・呼吸のいずれかが一定以上)に当たる方か、軽症でも医療費が高額な月が続く方(軽症高額)が対象です。
- 助成は、都道府県が指定した病院・診療所・薬局・訪問看護ステーションなどで受けた医療が対象です。介護保険の訪問リハビリや居宅療養管理指導なども対象ですが、訪問介護(ヘルパー)は対象外です。
- 指定難病登録者証:医療費助成の対象にならない軽症の方にも交付され、福祉や就労の支援を受けるときに使えます。
- 障害福祉サービス:障害者総合支援法の対象の病気で、障害者手帳がなくても市区町村に申請できます。若い方や、介護保険だけでは必要な量が足りない方の支えになります。
- 就労の相談:働きながら療養する方は、東京都難病相談・支援センターの就労相談や、ハローワークの難病患者就職サポーター(都内ではハローワーク飯田橋・立川)に相談できます。
04在宅チームで押さえること(職種ごと)
| 職種 | 担うこと |
|---|---|
| 訪問診療 | 専門の脳神経内科との役割分担を決め、転倒によるけがや誤嚥性肺炎など、急な変化のときの対応を共有する |
| 訪問看護 | 転倒やけがの確認、むせや体重の変化、便通や排尿、血圧の変動など、病型に応じた症状の観察。ゆっくりした変化は、記録を積み重ねて比べる |
| リハビリ(PT・OT・ST) | バランスや歩行など、生活に合わせたメニューを組む。入院などでの集中的なリハビリと自宅でのリハビリをつなぐ。STは話し方と飲み込み |
| ケアマネジャー | 廊下・お風呂・トイレなどよく動く場所に手すりを付け、つかまれる場所をつくる。ご家族が休める時間(ショートステイなど)も計画に入れる |
| 薬局 | 薬をシートから取り出しにくい方に、1回分ずつ包むなど飲みやすい形の工夫。自宅への配達 |
| ヘルパー | 移動や入浴の見守り、食べやすい形の食事の用意と、食後の口の中のケア |
| 訪問歯科・歯科衛生士 | 口の中を清潔に保ち、誤嚥性肺炎を防ぐ |
| 保健所・保健センターの保健師 | 難病の方の療養相談や家庭訪問 |
失調の症状にも集中的なリハビリの効果があることが示唆されており、効果は終わった後もしばらく続くとされています。

ゆっくり進む病気なので、昨日と今日の違いはほとんど分かりません。転んだ回数、食事にかかる時間、外出の様子などを記録して、以前と比べた変化を主治医に伝えてください。そうした記録があると、私たち医師も、道具やサービスを見直す時期を判断しやすくなります。
移動の手段は、杖から歩行器、車いすへと段階的に変わっていきます。介護保険の認定を受けている方は福祉用具の貸与で、39歳以下の方は市区町村の障害福祉の窓口で相談します。転倒が増えた、外出が減った、トイレに間に合わなくなった、といった小さな変化を、道具やサービスを見直すきっかけにしましょう。変化がゆっくりなぶん、見直しの時期を逃しやすいことに注意が必要です。
むせに気づいたら
食事のときのむせこみに気づいたら、早めに主治医に伝え、飲み込みの検査(嚥下造影・嚥下内視鏡など)を受けることが勧められています。細かく刻む、とろみを付けるなど、食べやすい形にする工夫もチームで共有しましょう。
05受け入れ先を探すときに伝えること
受け入れ先に最初に伝えること
- 住所(町名・丁目まで)
- 正確な病名(病型がわかっていれば)と、多系統萎縮症や痙性対麻痺として扱われていないか
- 年齢と、介護保険の認定・障害福祉サービスの支給決定・難病医療費助成の受給者証の有無
- 歩行の状態(杖・歩行器・車いす)と転倒の回数
- 飲み込みの状態と、むせや肺炎の経験
- リハビリへの希望(訪問看護のリハビリか、訪問リハビリか、通所か)
- ご家族の介護の体制と、ご家族の心配ごと
訪問看護は医療保険なので、介護保険の支給限度額を気にせず、リハビリを含めた訪問の回数を組み立てられます。一方で、長く通う事業所になるため、訪問エリアと担当者の続けやすさも最初に確かめておくと安心です。
06Med-Tasukiで受け入れ先に相談する
Med-Tasuki(メドタスキ)の一括依頼では、住所(町名まで)と必要な条件を入れると、近くの施設へまとめて受け入れを相談できます。医療機関・介護事業所の方は無料で登録できます。
参考にした情報
- 難病情報センター「脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)(指定難病18)」(病気の解説)
- 難病情報センター「脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)(指定難病18)」(診断・治療指針、重症度分類)
- 難病情報センター「指定難病患者への医療費助成制度のご案内」
- 厚生労働省「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(令和8年3月5日 保発0305第19号)
- 厚生労働省 中央社会保険医療協議会 資料「在宅(その3)」(医療保険と介護保険の訪問看護対象者のイメージ)
- 厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」
- 厚生労働省「障害者総合支援法の対象疾病(難病等)」
- 東京都保健医療局「難病医療費助成の助成内容」
- 東京都保健医療局「難病患者さんが利用できる就労支援サービス」
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。