神経難病|医療処置とケア

在宅でのたんの吸引:誰ができるか(喀痰吸引等研修の1号・2号・3号)と吸引器の用意

公開|内容の確認:

対象:ケアマネジャー・訪問看護師・訪問介護や重度訪問介護の事業所・病院の MSW の方

前川 裕貴(脳神経内科専門医・頭痛専門医)

この記事の監修

前川 裕貴

脳神経内科専門医・頭痛専門医

荏原ホームケアクリニック 頭痛センター長

地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者

日本内科学会 内科専門医日本神経学会 神経内科専門医日本頭痛学会 頭痛専門医難病指定医

Med-Tasuki(メドタスキ)は、監修者が開発した、在宅医療・介護の施設どうしが患者さんの受け入れをチャットで相談できる無料のサービスです。近くの施設へまとめて相談できる一括依頼も使えます。

ひとことで言うと

たんの吸引は医療行為ですが、研修を修了して認定を受けた介護職も、登録した事業所のもとで行えます。ALSなど特定の方には3号研修が使われます。吸引器は市区町村の給付などで用意します。

神経難病では、飲み込む力やせきをする力が弱くなり、唾液やたんを自分で出しにくくなることがあります。気管切開をした方では、定期的な吸引が欠かせません。吸引は昼も夜も必要になるため、ご家族と訪問看護だけで担い続けるのは簡単ではありません。この記事では、在宅で「誰が吸引できるか」の決まり(喀痰吸引等研修)と、始めるまでの段取り、吸引器の用意の仕方をまとめます。手技の手順ではなく、チームの組み立て方の話です。

01神経難病で吸引が必要になる場面

  • 飲み込む力が落ちて、唾液やたんがのどにたまる(ALS・進行性核上性麻痺・多系統萎縮症など)。
  • せきの力が弱くなり、たんを出しきれない(ALS・筋ジストロフィーなど、呼吸の筋肉が弱くなる病気)。
  • 気管切開をして、気管カニューレ(気管に入れる管)が入っている。人工呼吸器を使っている方も含みます。
  • 胃ろうなどの経管栄養と一緒に、ケアの時間割を組み立てる必要がある。

難病情報センターの ALS の解説でも、気管切開が必要な時期になると定期的なたんの吸引が必要になり、そのやり方などを医療従事者と相談する必要があるとされています。吸引が必要になりそうな段階で、担い手の相談を始めておくと慌てずに済みます。

02誰が吸引できるか

たんの吸引と経管栄養は医行為(医師や看護師が行う行為)です。社会福祉士及び介護福祉士法の改正により、2012年4月から一定の研修を受けた介護職員等が、2015年度からは介護福祉士も、医師の指示のもと一定の条件で行えるようになりました。ご家族は、医師や訪問看護師から手ほどきを受けて、日々の吸引を担っています。

  • 介護職が行える吸引:口の中(口腔内)、鼻の中(鼻腔内)、気管カニューレの内部。
  • 介護職が行える経管栄養:胃ろう・腸ろう、経鼻経管栄養(鼻から胃に入れた管)。
  • 口と鼻の吸引は、のどの奥(咽頭)の手前までです。気管切開の方の吸引は、カニューレの中に入ってきたたんを吸うもので、カニューレの内部までです。
  • 経鼻経管栄養で、管の先が正しく胃の中に入っているかの確認は、医師・看護師などが行うこととされ、介護職には求められていません。在宅では、訪問看護師などの医療者か、ご家族が確認する事項と位置づけられています。
  • 介護職が行えるのは、認定証に書かれた行為だけです(3号研修では、書かれた利用者さんに対してだけ)。

03喀痰吸引等研修の1号・2号・3号の違い

介護福祉士以外の介護職が吸引などを行うには、都道府県に登録した研修機関で「喀痰吸引等研修」を修了し、都道府県から「認定特定行為業務従事者認定証」の交付を受けます。研修は、講義と演習の「基本研修」と、実際の利用者さんのもとで行う「実地研修」に分かれ、対象と行為によって3つの課程があります。

喀痰吸引等研修の3つの課程
1号研修2号研修3号研修
対象不特定多数の方不特定多数の方重い障害がある特定の方
基本研修講義50時間と、行為ごとのシミュレーター演習1号と同じ講義と演習で9時間(重度訪問介護従事者養成研修と合わせて受けると20.5時間)
実地研修で行う行為5つの行為すべて口腔内・鼻腔内の吸引と、胃ろう・腸ろうの経管栄養(気管カニューレ内部の吸引と経鼻経管栄養は含まない)その方に必要な行為だけ。その方のもとで、指導する医師・看護師などが修得できたと認めるまで行う

5つの行為:口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部の吸引、胃ろう・腸ろうの経管栄養、経鼻経管栄養。

厚生労働省の Q&A では、3号研修を選ぶ例として、ALS やこれに似た神経・筋の病気、筋ジストロフィー、高位頸髄損傷、遷延性意識障害、重症心身障害が挙げられています。利用者さんとのコミュニケーションなど、決まった介護職との関係が大切になる場合のための課程です。

3号研修で認定を受けた人が別の利用者さんを担当するときは、1号・2号を受け直す必要はなく、基本研修も受け直さずに、新しい方についての実地研修を修了して、新たに認定を受けます。同じ方に対してできる行為を増やすときは、認定証の書き換えで対応します。

人工呼吸器を使っている方の吸引

研修の課程では、人工呼吸器を使っている方への吸引は別に扱われています。担当する介護職が、その方に必要な行為の研修を終えて認定を受けているかを、認定証で確かめましょう。

04介護職の吸引を始めるまでの流れ

  1. 1

    必要な量と担い手を整理する

    主治医・訪問看護・ケアマネジャー(障害福祉サービスを使う場合は相談支援専門員も)とご家族で、吸引の部位と回数(日中・夜間)、誰がどの時間帯を担うかを整理します。

  2. 2

    登録している事業所を探す

    介護職が業務として吸引を行うには、事業所ごとに都道府県へ登録が必要です(登録特定行為事業者。介護福祉士が行う場合は登録喀痰吸引等事業者)。東京都では、令和7年4月の申請分から申請先が東京都福祉保健財団に統一されています。

  3. 3

    研修を受けて認定を受ける

    認定を受けた人がいなければ、3号研修などを受けてもらいます。3号研修の実地研修は、その方の家に入っている訪問看護師が指導するのが望ましいとされています(研修機関から訪問看護ステーションに委託する方法と、訪問看護師が研修機関の講師になる方法があります)。

  4. 4

    医師の指示書と計画書をそろえる

    主治医が事業所に「介護職員等喀痰吸引等指示書」を出します。事業所は医師の指示をふまえて実施の計画書を作り、ご本人・ご家族に説明して同意を得ます。実施した内容は報告書にまとめて医師に出します。

  5. 5

    始めてからの連携

    連絡ノートなどで日々の様子をやりとりし、定期的にカンファレンスを開いて、ヒヤリ・ハット(事故になりかけた出来事)も共有します。状態が急に変わったときの連絡先と順番を決めておきます。

前川 裕貴
医師のひとこと前川 裕貴脳神経内科専門医・頭痛専門医
吸引の担い手探しは、必要になってからでは間に合わないことがあります。「そろそろ吸引が要りそう」と感じた段階で主治医に声をかけてもらえると、研修や指示書の準備を並行して進められ、医師も見通しを持って判断できます。

05誰が何をするか

在宅での吸引の分担
担い手すること
主治医(病院・訪問診療)吸引が必要かの判断、訪問看護指示書と介護職員等喀痰吸引等指示書の交付、急変時の方針
訪問看護状態の観察と吸引、ご家族への手ほどき、3号研修の実地研修の指導、介護職との役割分担の取り決め
介護職(訪問介護・重度訪問介護)認定を受けた範囲での吸引・経管栄養と記録。いつもと違うこと(たんの色や量、息苦しさ)はすぐに看護師・医師・ご家族へ報告
ご家族日々の吸引と観察、介護職がいない時間帯の対応
ケアマネジャー・相談支援専門員介護保険と障害福祉サービスを合わせた1週間の予定づくり、事業所探し
前川 裕貴
医師のひとこと前川 裕貴脳神経内科専門医・頭痛専門医
介護職の方からの「たんの色がいつもと違う」「量が増えた」という報告は、医師にとって大切な判断材料です。迷ったら小さなことでも連絡してください。報告の先と順番をチームで決めておくと、夜間も慌てずに済みます。

06使える制度とお金

  • 指示書の費用:主治医の医療機関が介護職員等喀痰吸引等指示書を出したときは診療報酬(介護職員等喀痰吸引等指示料 240点)が算定され、患者さんには医療保険の自己負担があります。患者1人につき3か月に1回までで、指示書の有効期限は6か月以内です(2026年9月時点)。
  • 研修の受講料は研修機関によって違います。区市町村によっては、3号研修の受講料を助成しているところもあります(東京都港区など)。
  • 吸引カテーテルなどの消耗品:在宅人工呼吸や在宅気管切開などの在宅療養指導管理料を算定している医療機関は、療養に必要かつ十分な量の衛生材料・保険医療材料を患者さんに支給することとされています。何をどこから受け取るかを退院前に確かめましょう。

07吸引器を用意する方法

吸引器は、在宅で吸引を始める前に用意しておく必要があります。主な方法は次の3つです。

吸引器を用意する方法
方法対象費用・窓口
日常生活用具(障害者総合支援法。市区町村の事業)。「電気式たん吸引器」は在宅療養等支援用具の一つ障害者・障害児と難病患者等(政令で定める病気)。障害者総合支援法の対象の病気の方は、障害者手帳がなくても必要と認められれば対象対象の条件と自己負担は市区町村ごとに決まっている
東京都の在宅難病患者医療機器貸与・整備事業(吸引器・吸入器の貸し出し)難病医療費等助成の対象の病気が主な原因で在宅療養が必要で、主治医の同意がある方。日常生活用具で吸引器を受け取れる方は原則として対象外自己負担なし。特別区にお住まいの方の窓口は保健所・保健センター等
自費での購入やレンタル給付を待つ間や、予備が必要なとき自費

停電への備え

吸引器は電気で動きます。バッテリーで動くか、停電したときにどう吸引するかを、業者・訪問看護・ご家族で決めておきましょう。人工呼吸器を使う方は、呼吸器の備えと合わせて考えます。

08受け入れ先を探すときに伝えること

吸引を担える介護職や訪問看護を探すときは、最初の打診で次の点を伝えると、受けられるかの返事が早くなります。

最初の打診で伝えること

  • 住所(町名・丁目まで)
  • 吸引の部位(口・鼻・気管カニューレ)と回数(日中・夜間)、人工呼吸器の有無
  • 経管栄養(胃ろう・経鼻)の有無
  • 担ってほしい時間帯と、ご家族が担える時間帯
  • すでに認定を受けた介護職がいるか、3号研修から始める必要があるか
  • 入っている訪問看護ステーションと、実地研修の指導をお願いできるか
  • 介護保険の認定・障害福祉サービスの支給決定の状況

研修から始める場合は、認定を受けて吸引を始められるまでに時間がかかります。退院の日が決まってからでは間に合わないこともあるため、吸引が必要になりそうな段階で事業所に打診しておくと安心です。

Med-Tasuki(メドタスキ)の一括依頼では、住所(町名まで)と「吸引が必要」などの条件を入れると、近くの施設へまとめて受け入れを相談できます。医療機関・介護事業所の方は無料で登録できます。

参考にした情報

監修者のプロフィール

前川 裕貴(脳神経内科専門医・頭痛専門医)
前川 裕貴

Maekawa Hirotaka

脳神経内科専門医・頭痛専門医

地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者

日本内科学会 内科専門医日本神経学会 神経内科専門医日本頭痛学会 頭痛専門医難病指定医

脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。

2012〜2018年順天堂大学 医学部 医学科
2018〜2020年東京逓信病院 初期臨床研修
2020〜2023年東京大学医学部附属病院 脳神経内科 特任臨床医
2023年〜埼玉精神神経センター 頭痛専門外来
荏原ホームケアクリニック 頭痛センター長
昭和医科大学 脳神経内科 客員講師
2025年〜株式会社Iris Wellness設立

在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。

Med-Tasukiを開発した理由を読む

医療機関・介護事業所の方へ

受け入れの相談を、電話とFAXからチャットへ

Med-Tasuki(メドタスキ)は、在宅医療・介護の施設どうしが患者さんの受け入れをチャットで相談できる無料のサービスです。近くの施設へまとめて相談できる一括依頼も使えます。

監修:前川 裕貴脳神経内科専門医・頭痛専門医)/この記事は情報提供を目的としたもので、診断・治療を行うものではありません。受け入れの状況や費用は各施設に、治療の判断は主治医にご相談ください。