ひとことで言うと
意思伝達装置は障害者総合支援法の補装具です。市区町村に申請し、更生相談所の判定を経て支給されます。難病の方は手帳がなくても対象になりえます。進行を見越して早めに動きます。
ALS などの神経難病では、話すことや書くことが少しずつ難しくなります。意思を伝える手段を保つことは、日々の暮らしだけでなく、治療やケアをご本人が選ぶための土台です。重度障害者用意思伝達装置(以下、意思伝達装置)は、わずかに動く体の部分や目の動きなどでスイッチを操作し、文字を選んで伝える装置です。公費で用意するときは、障害者総合支援法の「補装具費支給制度」を使います。この記事では、申請から支給までの流れと、チームの分担をまとめます。
01意思伝達装置が必要になる場面
- ALS:話しにくさや手の力の低下が進むと、家族やほかの人とのやりとりが大変になります。体や目の動きが一部でも残っていれば、適した意思伝達装置と入力スイッチを選ぶことで、コミュニケーションができるとされています。
- 気管切開や人工呼吸器で、声を出しにくくなるとき。
- そのほか、重い手足の障害と、話すことの障害が重なる神経・筋の病気。
難病情報センターの ALS の解説では、早めに新しいコミュニケーション手段を身につけることが大切とされています。文字盤(文字を書いた透明な板を使い、目の動きで文字を示す方法)も、使いこなすには練習が要ります。機器の申請と並行して、道具を使わない伝え方もチームで練習しておくと、機器のトラブル時にも困りません。
02対象になる人
- 国の指針では、重度の両上下肢と音声・言語の機能に障害があり、意思伝達装置によらなければ意思を伝えるのが難しい方が対象です。平成25年度からは、音声・言語機能の障害があり神経・筋の病気である方として、難病の方も対象に含まれています。
- 進行する病気では、声を完全に失う前でも、進み方を考えて支給の対象にできるとされています。
- 障害者総合支援法の対象の病気の方は、身体障害者手帳がなくても補装具費の対象になりえます。
- 身体障害者手帳の等級は国の指針では決められておらず、自治体によって運用が違います。まずは市区町村の障害福祉の窓口に相談しましょう。
- 介護保険の福祉用具貸与(13品目)に意思伝達装置はないため、介護保険を使っている方も補装具として申請します。
| 機器 | 使う制度 |
|---|---|
| 意思伝達装置の本体 | 補装具(購入が原則。障害の進行で短い期間の利用が見込まれる場合などは借受け(レンタル)も) |
| 入力スイッチ | 補装具(購入) |
| 呼び鈴(ひとりの時間に人を呼ぶ) | 意思伝達装置の修理の基準に含まれる(本体がない場合は通常は対象外) |
| 装置を固定する台など | 介護保険の用具で代わりになるものは、介護保険が優先されることがある |
| 携帯用会話補助装置(キーボードで打った文字を音声や画面で伝える。話す力が落ちてきた早い時期の選択肢) | 補装具ではなく、市区町村の日常生活用具。対象かどうかは市区町村に確認 |
03申請から支給までの流れ
- 1
相談と事前の評価
主治医、作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)、訪問看護、ケアマネジャー・相談支援専門員、保健師で、今どこを動かせるか(指、足、まぶた、目の動きなど)と進み方を共有し、装置と入力スイッチの候補を考えます。業者のデモ機や、有料の試用レンタルで試すこともあります。
- 2
市区町村に申請
お住まいの市区町村の障害福祉の窓口に、補装具費の支給を申請します。
- 3
医師の意見書
医師が補装具費支給意見書を書きます。意思伝達装置が必要と認めること、医学的な所見、どの装置とスイッチが必要かを具体的に書くことが求められています。東京都では、身体障害者福祉法第15条の指定医か、更生医療を主に担当する医師が書き、難病の方は保健所の医師や難病法の指定医でもよいとされています。
- 4
身体障害者更生相談所の判定
意思伝達装置は、身体障害者更生相談所の判定を受けます。判定には、相談所へ行く、相談所の職員が自宅などを訪ねる、書類で判定する、などの方法があります。東京都(東京都心身障害者福祉センター)では、申請した方の状況を確かめたうえで判定の方法を決めます。
- 5
支給の決定と購入
市区町村が支給を決めます(東京都の区市町村では「補装具費支給券」が交付されます)。その後、業者と契約して購入します。支払いには、いったん全額を払ってあとで補装具費を受け取る方法(償還払い)と、自己負担分だけを業者に払う方法(代理受領)があります。
- 6
納品と適合の確認
業者が納品・設置・初期設定をします。必要に応じて、体に合っているか(適合)の確認を受けてから引き渡されます。

意見書を書くとき、医師が一番知りたいのは「今どこが動かせて、この先どう変わりそうか」です。リハビリ職や訪問看護が見ている日々の様子を前もって共有してもらえると、必要な装置とスイッチを具体的に書きやすくなります。
04支給後の見直し
日本リハビリテーション工学協会の導入ガイドラインでは、支給から1〜2か月後に、決めた構成の装置が納品されているか、操作に不具合がないかを確かめ、その後も年1回程度、体の状態の変化に合わせてスイッチが合っているかを見直すことが示されています。
- 病気が進んで今のスイッチが使いにくくなったら、状態の変化に応じてその都度、交換を申請できます(修理の扱い)。視線で操作する入力装置への交換も、修理として扱えるとされています。
- 同じ種類のスイッチの範囲での交換なら、意見書が要らない扱いが示されています。
- 業者は再調整のときにも関わりますが、操作の指導は有料になる場合があります。

病気が進むと、合っていたスイッチが少しずつ使いにくくなります。「押すのに時間がかかる」「押し損じが増えた」といった小さな変化を、早めに医師にも教えてください。交換の申請を考える大事な手がかりになります。
05自己負担と借受け(レンタル)
原則1割
自己負担
世帯の所得に応じて月の上限がある(2026年9月時点)
0円
月の上限(生活保護・市町村民税非課税の世帯)
2026年9月時点
37,200円
月の上限(市町村民税課税の世帯)
2026年9月時点
- ご本人または配偶者のうち、市町村民税所得割の納税額が最も多い方の納税額が46万円以上の場合は、補装具費の支給対象外です(2026年9月時点)。
- 意思伝達装置の本体を借受けで支給する場合は、原則1年までの期間で決まり、終わる前に延長か購入への切り替えを判断します(入力スイッチは購入)。
- 耐用年数(次の支給を考える目安の年数)は5年とされています。
市区町村によって運用が違います
手帳の要否、判定の方法、支給までの期間は、自治体によって違います。話しにくさが出てきた段階で、早めに窓口に相談しておくと、必要な時期に間に合いやすくなります。
06誰が何をするか
| 担い手 | すること |
|---|---|
| 主治医 | 意見書の作成、進み方の見通しの共有 |
| 作業療法士・言語聴覚士 | 体の動きの評価、スイッチの選定と取り付け位置の調整、使い方の練習。文字盤など道具を使わない伝え方の練習 |
| 訪問看護 | ふだんの使い方と姿勢・固定の確認、スイッチが使いにくくなってきた変化への気づき |
| ケアマネジャー・相談支援専門員 | 申請の段取り、市区町村の窓口や更生相談所との連絡、チームの日程調整 |
| 保健所・保健センターの保健師 | 難病の方の療養相談と、関係者のつなぎ役 |
| 業者 | デモ機の手配、納品・設置・初期設定、再調整 |
| ご家族・ヘルパー | 毎日のセッティング(スイッチの位置合わせ)と、文字盤でのやりとり |
07受け入れ先・支援者を探すときに伝えること
最初の打診で伝えること
- 住所(町名・丁目まで)
- 今の伝え方(会話・筆談・文字盤・意思伝達装置)と、使っている機器・スイッチ
- 動かせる部位(指・足・まぶた・目の動きなど)
- 申請の状況(申請前・判定待ち・支給済み)
- 気管切開や人工呼吸器の有無
- 作業療法士・言語聴覚士が関わっているか
- ひとりになる時間があるか(呼び鈴の必要)
Med-Tasuki(メドタスキ)の一括依頼では、住所(町名まで)と「意思伝達装置を使用」などの条件を入れると、近くの施設へまとめて受け入れを相談できます。医療機関・介護事業所の方は無料で登録できます。
参考にした情報
- 厚生労働省「補装具費支給制度の概要」
- 厚生労働省「補装具の利用者負担」
- 厚生労働省 資料「補装具費支給制度の概要」(支給の仕組み・借受け)
- 東京都心身障害者福祉センター「補装具費支給制度」
- 東京都心身障害者福祉センター「補装具費の支給を受けるまで」
- 日本リハビリテーション工学協会「重度障害者用意思伝達装置」導入ガイドライン 1.2 制度の解説と解釈のポイント
- 同 1.3 借受けの対応
- 同 2.1 判定方法の種類と比較
- 同 2.3 フォローアップ
- 同 3.1 意見書・処方箋に必要な内容
- 同 A.3 購入基準・修理基準等
- 同 A.4 関連機器と制度
- 難病情報センター「筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2)」
- 厚生労働省 介護サービス情報公表システム「福祉用具貸与」
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。