ひとことで言うと
パーキンソン病などでは、むせのない誤嚥が少なくなく、ご本人も気づきにくいのが特徴です。食事の時間や体重、熱などの変化から早く気づき、主治医や言語聴覚士、歯科につなぎます。
神経難病の多くで、病気が進むと飲み込み(嚥下)が難しくなります。飲み込みの障害は、栄養不足や脱水、誤嚥性肺炎につながり、療養の経過を大きく左右します。一方で、少しずつ進むため、ご本人もご家族も気づきにくいことがあります。この記事では、在宅で気づくためのサインと、気づいたあとの相談先、チームの分担をまとめます。
01神経難病の嚥下障害の特徴
- パーキンソン病:摂食嚥下障害は 50〜90% にみられるとの報告があります。病気の重さ(ヤール分類など)と必ずしも一致せず、ご本人の自覚に乏しく、むせのない誤嚥(不顕性誤嚥)が少なくないとされています。薬の効き目が切れている時間(オフ)の症状も、飲み込みに影響します。
- ALS:のどや舌の筋肉が弱くなり、話しにくさ(構音障害)とともに飲み込みも難しくなります。唾液やたんが増えることがあります。体重が減ると病状が悪くなることが知られています。
- 進行性核上性麻痺(PSP):飲み込みにくさやむせが少しずつ出てきて、中期以降には誤嚥性肺炎をしばしば合併します。
- 多系統萎縮症(MSA):飲み込みの障害が強くなると、胃ろうが必要になることも多いとされています。
- 筋ジストロフィー:心不全や呼吸不全などとともに、嚥下障害が起こることがあります。
02在宅で気づくサイン
むせは大切なサインですが、むせない誤嚥もあるため、むせがないから安心とは言えません。次のような変化に、ご家族やヘルパー、訪問看護が気づいたら、チームで共有しましょう。
飲み込みの悪化に気づくサイン
- 食事に時間がかかる、途中で疲れてしまう、食べる量が減った
- 食事中や食後のむせ・せき、食後にたんが増える、声の感じが変わる
- 体重が減ってきた、水分をとりたがらない、便秘が続く
- はっきりした原因のない熱をくり返す(誤嚥性肺炎のおそれ)
- 口の中に食べ物や薬が残っている、よだれが増えた
- 薬を飲みにくそうにしている、飲み残しがある
ALS では、手や腕の力が落ちて食べ物を口に運びにくくなることや、トイレの回数を減らそうとして水分を控えがちになることも、栄養や水分の不足につながるとされています。飲み込みだけでなく、食事と排せつの場面全体を見ることが大切です。

「最近むせる」だけよりも、「食事に前より時間がかかる」「熱をくり返す」といった具体的な変化のほうが、医師には判断の手がかりになります。いつから、何を食べたり飲んだりしたときか、を添えて伝えてもらえると助かります。
03気づいたあとの相談の流れ
- 1
主治医・訪問看護に伝える
いつから、どんな食べ物や飲み物で、どんな様子か(むせ、時間、量、熱など)を具体的に伝えます。
- 2
飲み込みの評価
主治医の判断で、言語聴覚士(ST)の評価や、嚥下造影検査(X 線で飲み込みを見る検査)・嚥下内視鏡検査(鼻から細いカメラを入れて見る検査)を行います。自宅で検査ができるかは医療機関によって違います。
- 3
薬と飲み方を見直す
パーキンソン病では、オフの時間ではなく、薬が効いている時間(オン)に食事ができるよう、服薬の時間を調整することが大切とされています。飲み込みやすい薬の形については、医師・薬剤師と相談します。
- 4
食事の形と姿勢を整える
言語聴覚士や管理栄養士と、食事の形、とろみの濃さ、一口の量、食べるときの姿勢を決めます。
- 5
口のケア
訪問歯科や歯科衛生士に、口の中の清掃や入れ歯の調整を相談します。
- 6
この先の栄養の方法を話し合う
工夫を続けても栄養や水分が足りないときは、経管栄養(胃ろうなど)や点滴を含めて、ご本人の意向を中心に話し合います。
パーキンソン病の摂食嚥下についての総説では、薬と飲み込みについて次の点が挙げられています。
- オフの時間は飲み込みが悪くなり、誤嚥や窒息の危険が高くなります。
- 口やのどに薬が残っていることがあります。薬の効き目を判断するときは、薬が残っていないかも確かめます。
- 飲みやすい大きさや形への変更、錠剤をお湯で崩す簡易懸濁にとろみをつける工夫などがあります。ただし、口の中で溶ける錠剤や水薬が、必ずしも安全に飲めるとは限りません。
- 食べるときの姿勢は、関わる職種で方法がばらばらにならないよう、図にするなどして共有します。
- 「やせてきた」「食べる量が減った」の陰に、気づかれていない飲み込みの障害があることがあります。
04食事の形は共通の言葉で伝える
病院・施設・在宅の間で食事の形を伝えるときは、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の「嚥下調整食分類2021」(学会分類2021)を使うと、受け取る側と同じ基準で話せます。
コード0〜4
食事の形
ゼリーやとろみのコード0から、やわらかい食事のコード4までの段階
3段階
飲み物のとろみ
「薄いとろみ」「中間のとろみ」「濃いとろみ」
書面で
一口の量・姿勢・介助の方法も
退院や施設の移動のときは、コードととろみの段階に加えて引き継ぐ
難病情報センターの ALS の解説では、やわらかくて水気があり、つぶつぶが入っていない滑らかな食べ物が飲み込みやすいこと、食事中はできるだけ体を起こし、食後も1時間くらいはその姿勢でいること、一口の量を少なくすること、あごを引いて飲み込むこと、テレビを見たり話したりしながら飲み込むとむせやすいこと、1回の量を減らして回数を増やすことなどが紹介されています。

食事の形は、病院・施設・在宅で呼び方が違うと、同じ言葉でも中身がずれてしまいます。学会分類のコードととろみの段階で書いてもらえると、受け取った医師も情報をそのまま次の判断に生かせます。
05誰が何をするか
| 担い手 | すること |
|---|---|
| 主治医・在宅医 | 評価の依頼、薬の調整、肺炎が疑われるときの診療、栄養の方法についての話し合い |
| 訪問看護 | 体重・熱・呼吸の観察、食事の場面の確認、たんの吸引、ご家族やヘルパーへの手ほどき |
| 言語聴覚士(訪問リハビリ・訪問看護の ST) | 飲み込みの評価と訓練、食べ方と姿勢の助言 |
| 訪問歯科・歯科衛生士 | 口の中の清掃、入れ歯の調整、口と飲み込みの機能の評価 |
| 管理栄養士 | 必要な栄養量の見積もり、食事の形の工夫、栄養補助食品の相談 |
| 薬剤師 | 飲み込みやすい薬の形、服薬の時間の確認、飲み残しの確認 |
| ケアマネジャー | 訪問リハビリ・訪問歯科・栄養の支援をケアプランに組み込む |
| ヘルパー・ご家族 | 決めた方法での食事の介助と、いつもと違うことの報告 |
06使える保険のサービス
- 介護保険の訪問リハビリテーション:理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が自宅を訪問します。訪問看護ステーションのリハビリ職が訪問する形もあります。
- 介護保険の居宅療養管理指導:医師・歯科医師・薬剤師・管理栄養士・歯科衛生士などが、通院の難しい方(管理栄養士と歯科衛生士は通院または通所の難しい方)の自宅を訪問し、療養上の管理と指導を行います。
- 医療保険:訪問診療・訪問歯科診療。ALS・多系統萎縮症など多くの神経難病は、訪問看護を医療保険で行う「別表7」に入っています(パーキンソン病は病状の条件つき)。
- 40〜64歳の方も、ALS、パーキンソン病関連疾患(進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症・パーキンソン病)、脊髄小脳変性症、多系統萎縮症など介護保険の特定疾病にあたる病気なら、要介護認定を申請できます。
急な変化があったら
熱が出た、呼吸が速い、たんが増えた、ぐったりしているときは、誤嚥性肺炎のおそれがあります。様子を見ずに主治医や訪問看護に連絡しましょう。食べ物をのどに詰まらせたときの対応(119番通報を含む)も、ご家族とヘルパーで確認しておきます。
食べることはご本人の大切な楽しみ
食事の形を変えることや、口から食べるのを控えることは、暮らしの質に大きく関わります。安全だけで決めず、ご本人の意向を聞きながら、チームで話し合って決めていきましょう。
07受け入れ先を探すときに伝えること
最初の打診で伝えること
- 住所(町名・丁目まで)
- 食事の形(学会分類2021のコード)と、とろみの段階
- 介助の方法、姿勢、一口の量、食事にかかる時間
- むせや誤嚥性肺炎をこれまでに起こしたか
- たんの吸引が要るか、胃ろうなどの経管栄養があるか
- 薬の形と服薬の時間(パーキンソン病では時間を守ることが大切)
- お願いしたいこと(言語聴覚士の訓練、訪問歯科、栄養の相談など)
Med-Tasuki(メドタスキ)の一括依頼では、住所(町名まで)と「嚥下の評価を希望」などの条件を入れると、近くの施設へまとめて相談できます。医療機関・介護事業所の方は無料で登録できます。
参考にした情報
- 難病情報センター「パーキンソン病(指定難病6)」
- 難病情報センター「筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2)」
- 難病情報センター「進行性核上性麻痺(指定難病5)」
- 難病情報センター「多系統萎縮症(1)線条体黒質変性症(指定難病17)」
- 難病情報センター「筋ジストロフィー(指定難病113)」
- 野﨑園子「パーキンソン病の摂食嚥下 病初期から進行期までいかにささえるか」日本神経筋疾患摂食嚥下・栄養学会誌 第2巻第1号(2022)
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類」
- 日本栄養士会「【日本摂食嚥下リハビリテーション学会】嚥下調整食分類2021の公表」
- 厚生労働省 介護サービス情報公表システム「訪問リハビリテーション」
- 厚生労働省 社会保障審議会介護給付費分科会 資料「居宅療養管理指導」(居宅療養管理指導の概要)
- 厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。