神経難病|医療処置とケア

神経難病の嚥下障害:在宅での気づき方と相談先・チームの分担

公開|内容の確認:

対象:ケアマネジャー・訪問看護師・訪問介護の事業所・訪問歯科・訪問診療医の方、神経難病の方のご家族

前川 裕貴(脳神経内科専門医・頭痛専門医)

この記事の監修

前川 裕貴

脳神経内科専門医・頭痛専門医

荏原ホームケアクリニック 頭痛センター長

地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者

日本内科学会 内科専門医日本神経学会 神経内科専門医日本頭痛学会 頭痛専門医難病指定医

Med-Tasuki(メドタスキ)は、監修者が開発した、在宅医療・介護の施設どうしが患者さんの受け入れをチャットで相談できる無料のサービスです。近くの施設へまとめて相談できる一括依頼も使えます。

ひとことで言うと

パーキンソン病などでは、むせのない誤嚥が少なくなく、ご本人も気づきにくいのが特徴です。食事の時間や体重、熱などの変化から早く気づき、主治医や言語聴覚士、歯科につなぎます。

神経難病の多くで、病気が進むと飲み込み(嚥下)が難しくなります。飲み込みの障害は、栄養不足や脱水、誤嚥性肺炎につながり、療養の経過を大きく左右します。一方で、少しずつ進むため、ご本人もご家族も気づきにくいことがあります。この記事では、在宅で気づくためのサインと、気づいたあとの相談先、チームの分担をまとめます。

01神経難病の嚥下障害の特徴

  • パーキンソン病:摂食嚥下障害は 50〜90% にみられるとの報告があります。病気の重さ(ヤール分類など)と必ずしも一致せず、ご本人の自覚に乏しく、むせのない誤嚥(不顕性誤嚥)が少なくないとされています。薬の効き目が切れている時間(オフ)の症状も、飲み込みに影響します。
  • ALS:のどや舌の筋肉が弱くなり、話しにくさ(構音障害)とともに飲み込みも難しくなります。唾液やたんが増えることがあります。体重が減ると病状が悪くなることが知られています。
  • 進行性核上性麻痺(PSP):飲み込みにくさやむせが少しずつ出てきて、中期以降には誤嚥性肺炎をしばしば合併します。
  • 多系統萎縮症(MSA):飲み込みの障害が強くなると、胃ろうが必要になることも多いとされています。
  • 筋ジストロフィー:心不全や呼吸不全などとともに、嚥下障害が起こることがあります。

02在宅で気づくサイン

むせは大切なサインですが、むせない誤嚥もあるため、むせがないから安心とは言えません。次のような変化に、ご家族やヘルパー、訪問看護が気づいたら、チームで共有しましょう。

飲み込みの悪化に気づくサイン

  • 食事に時間がかかる、途中で疲れてしまう、食べる量が減った
  • 食事中や食後のむせ・せき、食後にたんが増える、声の感じが変わる
  • 体重が減ってきた、水分をとりたがらない、便秘が続く
  • はっきりした原因のない熱をくり返す(誤嚥性肺炎のおそれ)
  • 口の中に食べ物や薬が残っている、よだれが増えた
  • 薬を飲みにくそうにしている、飲み残しがある

ALS では、手や腕の力が落ちて食べ物を口に運びにくくなることや、トイレの回数を減らそうとして水分を控えがちになることも、栄養や水分の不足につながるとされています。飲み込みだけでなく、食事と排せつの場面全体を見ることが大切です。

前川 裕貴
医師のひとこと前川 裕貴脳神経内科専門医・頭痛専門医
「最近むせる」だけよりも、「食事に前より時間がかかる」「熱をくり返す」といった具体的な変化のほうが、医師には判断の手がかりになります。いつから、何を食べたり飲んだりしたときか、を添えて伝えてもらえると助かります。

03気づいたあとの相談の流れ

  1. 1

    主治医・訪問看護に伝える

    いつから、どんな食べ物や飲み物で、どんな様子か(むせ、時間、量、熱など)を具体的に伝えます。

  2. 2

    飲み込みの評価

    主治医の判断で、言語聴覚士(ST)の評価や、嚥下造影検査(X 線で飲み込みを見る検査)・嚥下内視鏡検査(鼻から細いカメラを入れて見る検査)を行います。自宅で検査ができるかは医療機関によって違います。

  3. 3

    薬と飲み方を見直す

    パーキンソン病では、オフの時間ではなく、薬が効いている時間(オン)に食事ができるよう、服薬の時間を調整することが大切とされています。飲み込みやすい薬の形については、医師・薬剤師と相談します。

  4. 4

    食事の形と姿勢を整える

    言語聴覚士や管理栄養士と、食事の形、とろみの濃さ、一口の量、食べるときの姿勢を決めます。

  5. 5

    口のケア

    訪問歯科や歯科衛生士に、口の中の清掃や入れ歯の調整を相談します。

  6. 6

    この先の栄養の方法を話し合う

    工夫を続けても栄養や水分が足りないときは、経管栄養(胃ろうなど)や点滴を含めて、ご本人の意向を中心に話し合います。

パーキンソン病の摂食嚥下についての総説では、薬と飲み込みについて次の点が挙げられています。

  • オフの時間は飲み込みが悪くなり、誤嚥や窒息の危険が高くなります。
  • 口やのどに薬が残っていることがあります。薬の効き目を判断するときは、薬が残っていないかも確かめます。
  • 飲みやすい大きさや形への変更、錠剤をお湯で崩す簡易懸濁にとろみをつける工夫などがあります。ただし、口の中で溶ける錠剤や水薬が、必ずしも安全に飲めるとは限りません。
  • 食べるときの姿勢は、関わる職種で方法がばらばらにならないよう、図にするなどして共有します。
  • 「やせてきた」「食べる量が減った」の陰に、気づかれていない飲み込みの障害があることがあります。

04食事の形は共通の言葉で伝える

病院・施設・在宅の間で食事の形を伝えるときは、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の「嚥下調整食分類2021」(学会分類2021)を使うと、受け取る側と同じ基準で話せます。

コード0〜4

食事の形

ゼリーやとろみのコード0から、やわらかい食事のコード4までの段階

3段階

飲み物のとろみ

「薄いとろみ」「中間のとろみ」「濃いとろみ」

書面で

一口の量・姿勢・介助の方法も

退院や施設の移動のときは、コードととろみの段階に加えて引き継ぐ

難病情報センターの ALS の解説では、やわらかくて水気があり、つぶつぶが入っていない滑らかな食べ物が飲み込みやすいこと、食事中はできるだけ体を起こし、食後も1時間くらいはその姿勢でいること、一口の量を少なくすること、あごを引いて飲み込むこと、テレビを見たり話したりしながら飲み込むとむせやすいこと、1回の量を減らして回数を増やすことなどが紹介されています。

前川 裕貴
医師のひとこと前川 裕貴脳神経内科専門医・頭痛専門医
食事の形は、病院・施設・在宅で呼び方が違うと、同じ言葉でも中身がずれてしまいます。学会分類のコードととろみの段階で書いてもらえると、受け取った医師も情報をそのまま次の判断に生かせます。

05誰が何をするか

在宅での飲み込みの支援の分担
担い手すること
主治医・在宅医評価の依頼、薬の調整、肺炎が疑われるときの診療、栄養の方法についての話し合い
訪問看護体重・熱・呼吸の観察、食事の場面の確認、たんの吸引、ご家族やヘルパーへの手ほどき
言語聴覚士(訪問リハビリ・訪問看護の ST)飲み込みの評価と訓練、食べ方と姿勢の助言
訪問歯科・歯科衛生士口の中の清掃、入れ歯の調整、口と飲み込みの機能の評価
管理栄養士必要な栄養量の見積もり、食事の形の工夫、栄養補助食品の相談
薬剤師飲み込みやすい薬の形、服薬の時間の確認、飲み残しの確認
ケアマネジャー訪問リハビリ・訪問歯科・栄養の支援をケアプランに組み込む
ヘルパー・ご家族決めた方法での食事の介助と、いつもと違うことの報告

06使える保険のサービス

  • 介護保険の訪問リハビリテーション:理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が自宅を訪問します。訪問看護ステーションのリハビリ職が訪問する形もあります。
  • 介護保険の居宅療養管理指導:医師・歯科医師・薬剤師・管理栄養士・歯科衛生士などが、通院の難しい方(管理栄養士と歯科衛生士は通院または通所の難しい方)の自宅を訪問し、療養上の管理と指導を行います。
  • 医療保険:訪問診療・訪問歯科診療。ALS・多系統萎縮症など多くの神経難病は、訪問看護を医療保険で行う「別表7」に入っています(パーキンソン病は病状の条件つき)。
  • 40〜64歳の方も、ALS、パーキンソン病関連疾患(進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症・パーキンソン病)、脊髄小脳変性症、多系統萎縮症など介護保険の特定疾病にあたる病気なら、要介護認定を申請できます。

急な変化があったら

熱が出た、呼吸が速い、たんが増えた、ぐったりしているときは、誤嚥性肺炎のおそれがあります。様子を見ずに主治医や訪問看護に連絡しましょう。食べ物をのどに詰まらせたときの対応(119番通報を含む)も、ご家族とヘルパーで確認しておきます。

食べることはご本人の大切な楽しみ

食事の形を変えることや、口から食べるのを控えることは、暮らしの質に大きく関わります。安全だけで決めず、ご本人の意向を聞きながら、チームで話し合って決めていきましょう。

07受け入れ先を探すときに伝えること

最初の打診で伝えること

  • 住所(町名・丁目まで)
  • 食事の形(学会分類2021のコード)と、とろみの段階
  • 介助の方法、姿勢、一口の量、食事にかかる時間
  • むせや誤嚥性肺炎をこれまでに起こしたか
  • たんの吸引が要るか、胃ろうなどの経管栄養があるか
  • 薬の形と服薬の時間(パーキンソン病では時間を守ることが大切)
  • お願いしたいこと(言語聴覚士の訓練、訪問歯科、栄養の相談など)

Med-Tasuki(メドタスキ)の一括依頼では、住所(町名まで)と「嚥下の評価を希望」などの条件を入れると、近くの施設へまとめて相談できます。医療機関・介護事業所の方は無料で登録できます。

参考にした情報

監修者のプロフィール

前川 裕貴(脳神経内科専門医・頭痛専門医)
前川 裕貴

Maekawa Hirotaka

脳神経内科専門医・頭痛専門医

地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者

日本内科学会 内科専門医日本神経学会 神経内科専門医日本頭痛学会 頭痛専門医難病指定医

脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。

2012〜2018年順天堂大学 医学部 医学科
2018〜2020年東京逓信病院 初期臨床研修
2020〜2023年東京大学医学部附属病院 脳神経内科 特任臨床医
2023年〜埼玉精神神経センター 頭痛専門外来
荏原ホームケアクリニック 頭痛センター長
昭和医科大学 脳神経内科 客員講師
2025年〜株式会社Iris Wellness設立

在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。

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