神経難病|医療処置とケア

神経難病と胃ろう:考えるタイミングと在宅での管理・チームの分担

公開|内容の確認:

対象:訪問看護師・ケアマネジャー・訪問診療医・病院の MSW の方、神経難病の方のご家族

前川 裕貴(脳神経内科専門医・頭痛専門医)

この記事の監修

前川 裕貴

脳神経内科専門医・頭痛専門医

荏原ホームケアクリニック 頭痛センター長

地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者

日本内科学会 内科専門医日本神経学会 神経内科専門医日本頭痛学会 頭痛専門医難病指定医

Med-Tasuki(メドタスキ)は、監修者が開発した、在宅医療・介護の施設どうしが患者さんの受け入れをチャットで相談できる無料のサービスです。近くの施設へまとめて相談できる一括依頼も使えます。

ひとことで言うと

胃ろうを造るかはご本人が決めること。ALSでは呼吸の働きが落ちる前の相談が勧められています。造ったあとの交換の予定や、抜けたときの手順をチームで決めておきます。

神経難病では、飲み込む力が少しずつ弱くなり、口からだけでは必要な栄養や水分をとれなくなることがあります。そのときの選択肢の一つが胃ろう(お腹の皮膚から胃に通した管から栄養を入れる方法)です。この記事では、神経難病で胃ろうが話題になる場面と、在宅で使うまでの段取り、チームの分担をまとめます。胃ろうを造るかどうかはご本人が決めることで、この記事はどちらかを勧めるものではありません。

01神経難病で胃ろうが話題になる場面

  • ALS:飲み込みにくさで食事に時間がかかり、体重が減りやすくなります。ALS では体重が減ると病状が悪くなることが知られていて、胃ろうは体重を保つために有効と考えられています。呼吸の働きが悪くなってから造ると危険が増すため、早めに主治医と相談することが勧められています。
  • 進行性核上性麻痺(PSP):飲み込みにくさやむせが少しずつ出てきて、中期以降には誤嚥性肺炎をしばしば合併します。口から食べるのが難しくなると、経管栄養や胃ろうが必要になります。
  • 多系統萎縮症(MSA):飲み込みの障害が強いときは、胃ろうが必要になることも多いとされています。
  • パーキンソン病:誤嚥して肺炎を起こすことがあります。また、治療のために胃ろうを造ることもあります。L-ドパ・カルビドパ配合経腸用液療法では、胃ろうから小腸まで入れたチューブを通して、ポンプで薬を持続的に入れます(栄養のためではない胃ろうです)。

胃ろうを造っても、飲み込む力が保たれていれば、口から食べることはできます。「胃ろうにしたら、もう食べられない」わけではないことを知っておくと、ご本人・ご家族と話し合いやすくなります。

02造るかどうかを考えるときの材料

口からの食事で栄養が足りないときの方法には、鼻から胃に入れた管(経鼻胃管)からの経管栄養、胃ろうからの経管栄養、点滴による栄養補給があります。厚生労働省の研修テキストでは、経鼻胃管と胃ろうの特徴を次のように整理しています。

経鼻胃管と胃ろうの特徴
経鼻胃管胃ろう
入れるとき入れるのは簡単造るときに処置が必要(入院して行う)
ふだんの様子入っている違和感がある。管が細く詰まりやすい顔まわりに管がない
抜けやすさ抜けやすい抜けにくい
交換1〜2週間ごと間隔が長め(下の「カテーテルの種類と交換」を参照)
主な心配抜けると誤嚥などの重い事故につながりやすい皮膚のトラブルや腹膜炎などの合併症のおそれ

厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト 第三号研修」経管栄養の整理による。

どの方法を選ぶか、選ばないかは、ご本人の価値観や暮らし方によって答えが変わります。考えは時間とともに変わることもあるため、節目ごとに話し合い、チームで同じ情報を持つことが大切です。意思決定の支え方は、別の記事「神経難病の意思決定支援」で扱います。

前川 裕貴
医師のひとこと前川 裕貴脳神経内科専門医・頭痛専門医
胃ろうは「造るか、造らないか」だけでなく、いつ話し合うかも大切だと考えています。考えが変わってもかまいません。ご本人がそのとき話したことをチームで共有してもらえると、医師もその気持ちに沿って説明ができます。

03在宅で胃ろうを使うまでの流れ

  1. 1

    相談と評価

    主治医(脳神経内科)、在宅医、訪問看護、言語聴覚士(ST)、ケアマネジャーで、飲み込みの状態、体重、呼吸の状態を共有し、ご本人・ご家族と話し合います。

  2. 2

    造設(入院)

    胃ろうは、胃カメラを使ってお腹の皮膚から胃に小さな孔(ろう孔)を造る処置で、入院して行います。

  3. 3

    退院前に決めること

    栄養剤の種類(液体か、ゼリー状の半固形か)・量・1日の回数と時間、水分の量、薬の入れ方、シリンジや接続チューブなどの物品をどこから受け取るか、カテーテルの種類と次の交換の予定と担当を決めます。ご家族は入院中に注入の練習をします。

  4. 4

    在宅チームへの引き継ぎ

    訪問看護指示書を用意します。介護職に注入をお願いする場合は、喀痰吸引等研修(経管栄養を含む)と認定、事業所の登録、医師の指示書がそろっているかを確かめます。薬局には、胃ろうから入れやすい薬の形を相談します。

  5. 5

    退院後

    定期的なカテーテル交換、ろう孔の周りの皮膚のケア、体重や栄養量の見直しを続けます。口から食べる練習を続けるかは、飲み込みの評価をもとに決めます。

04誰が何をするか

在宅での胃ろうの分担
担い手すること
主治医・在宅医造設の相談、栄養剤の処方と量の決定、カテーテルの交換、トラブル時の対応
訪問看護ろう孔の周りの皮膚、注入のときの様子、体重・脱水・便通の観察。ご家族や介護職への手ほどき。バルーン型のバルーンの水の入れ替え
介護職(訪問介護・重度訪問介護など)研修を修了して認定を受け、登録した事業所に属していれば、胃ろう・腸ろうからの経管栄養。息苦しさや吐き気など、いつもと違う様子があれば看護師・医師・ご家族に連絡
ご家族日々の注入と観察、介護職がいない時間帯の対応
言語聴覚士・歯科・管理栄養士口から食べる練習と飲み込みの評価、口のケア、栄養量の相談。口から食べていなくても、歯みがきなどの口のケアは必要
薬剤師胃ろうから入れる薬の形の工夫と、自宅への配達
ケアマネジャーケアプランの見直し。施設への入所を考える場合は、胃ろうの方を受け入れているかの確認

05カテーテルの種類と交換

胃ろうのカテーテルは、外から見える形と、胃の中のストッパーの形で分けられます。

カテーテルの種類
種類どこの違いか特徴・交換の目安
チューブ型外から見える形管が長く出ている
ボタン型外から見える形管がない。専用の接続チューブをつないで使う
バルーン型胃の中のストッパー水で膨らませる。抜けやすいといわれる。バルーンの水が自然に抜けることが多いため、1〜2週間に一度、看護師が入れ替える。交換の目安は1〜2か月に一度
バンパー型胃の中のストッパー水で膨らませない。交換の目安はおよそ4〜6か月に一度

交換の目安は厚生労働省の研修テキストの記載で、交換は医師が行います。実際の時期は主治医の判断によります。交換の直後は、出血や抜けるなどのトラブルが起こることがあります。

06費用と気をつけること

造設は入院での医療として医療保険で行います。指定難病の医療費助成を受けている方は、助成の対象になる医療かを医療機関で確かめましょう。栄養剤には、医師が処方する医薬品(医療保険)と、食品として購入するもの(全額自己負担)があり、どちらを使うかで毎月の負担が変わります。退院前に確認しておきましょう。

抜けたときの備え

胃ろうのカテーテルが抜けたまま放っておくと、ろう孔がふさがって、新しいカテーテルが入らなくなることがあります。抜けたときに誰に連絡し、何をするかを、あらかじめ医師・訪問看護と決めて、ご家族とヘルパーに伝えておきましょう。

前川 裕貴
医師のひとこと前川 裕貴脳神経内科専門医・頭痛専門医
カテーテルが抜けたときに一番困るのは、誰に連絡すればよいか分からないことです。連絡先と順番を退院前に決めて、ご家族とヘルパーの目に入る場所に置いておいてもらえると、医師も早く動けます。

注入の前後で気をつけること

注入の前に、熱、お腹の張り、吐き気、下痢など、いつもと違う様子がないかを確かめます。気になることがあれば、注入する前に看護師・医師に相談します。注入を止めたり遅らせたりするときの水分の扱いも、あらかじめ決めておきましょう。

胃ろうでも誤嚥性肺炎は起こりうる

栄養剤が食道を逆流して気管に入ると、誤嚥性肺炎を起こしやすくなります。注入の姿勢(上半身をどのくらい起こすか)や速さは医師・看護師の指示に従い、注入中や注入後の息苦しさ、吐き気、顔色の変化に気をつけます。

07受け入れ先を探すときに伝えること

最初の打診で伝えること

  • 住所(町名・丁目まで)
  • カテーテルの種類(チューブ型かボタン型か、バルーン型かバンパー型か)とサイズ、前回と次回の交換の予定と担当
  • 栄養剤(医薬品か食品か、液体か半固形か)、1日の回数と時間、水分の量
  • 口から食べているか、とろみなど食事の形
  • たんの吸引が要るか
  • 薬の入れ方
  • 介護職に注入をお願いしたいか(研修・認定が要ります)
  • 胃ろうや今後の治療についてのご本人の意向

Med-Tasuki(メドタスキ)の一括依頼では、住所(町名まで)と「胃ろうあり」などの条件を入れると、近くの施設へまとめて受け入れを相談できます。医療機関・介護事業所の方は無料で登録できます。

参考にした情報

監修者のプロフィール

前川 裕貴(脳神経内科専門医・頭痛専門医)
前川 裕貴

Maekawa Hirotaka

脳神経内科専門医・頭痛専門医

地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者

日本内科学会 内科専門医日本神経学会 神経内科専門医日本頭痛学会 頭痛専門医難病指定医

脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。

2012〜2018年順天堂大学 医学部 医学科
2018〜2020年東京逓信病院 初期臨床研修
2020〜2023年東京大学医学部附属病院 脳神経内科 特任臨床医
2023年〜埼玉精神神経センター 頭痛専門外来
荏原ホームケアクリニック 頭痛センター長
昭和医科大学 脳神経内科 客員講師
2025年〜株式会社Iris Wellness設立

在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。

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