ひとことで言うと
胃ろうを造るかはご本人が決めること。ALSでは呼吸の働きが落ちる前の相談が勧められています。造ったあとの交換の予定や、抜けたときの手順をチームで決めておきます。
神経難病では、飲み込む力が少しずつ弱くなり、口からだけでは必要な栄養や水分をとれなくなることがあります。そのときの選択肢の一つが胃ろう(お腹の皮膚から胃に通した管から栄養を入れる方法)です。この記事では、神経難病で胃ろうが話題になる場面と、在宅で使うまでの段取り、チームの分担をまとめます。胃ろうを造るかどうかはご本人が決めることで、この記事はどちらかを勧めるものではありません。
01神経難病で胃ろうが話題になる場面
- ALS:飲み込みにくさで食事に時間がかかり、体重が減りやすくなります。ALS では体重が減ると病状が悪くなることが知られていて、胃ろうは体重を保つために有効と考えられています。呼吸の働きが悪くなってから造ると危険が増すため、早めに主治医と相談することが勧められています。
- 進行性核上性麻痺(PSP):飲み込みにくさやむせが少しずつ出てきて、中期以降には誤嚥性肺炎をしばしば合併します。口から食べるのが難しくなると、経管栄養や胃ろうが必要になります。
- 多系統萎縮症(MSA):飲み込みの障害が強いときは、胃ろうが必要になることも多いとされています。
- パーキンソン病:誤嚥して肺炎を起こすことがあります。また、治療のために胃ろうを造ることもあります。L-ドパ・カルビドパ配合経腸用液療法では、胃ろうから小腸まで入れたチューブを通して、ポンプで薬を持続的に入れます(栄養のためではない胃ろうです)。
胃ろうを造っても、飲み込む力が保たれていれば、口から食べることはできます。「胃ろうにしたら、もう食べられない」わけではないことを知っておくと、ご本人・ご家族と話し合いやすくなります。
02造るかどうかを考えるときの材料
口からの食事で栄養が足りないときの方法には、鼻から胃に入れた管(経鼻胃管)からの経管栄養、胃ろうからの経管栄養、点滴による栄養補給があります。厚生労働省の研修テキストでは、経鼻胃管と胃ろうの特徴を次のように整理しています。
| 経鼻胃管 | 胃ろう | |
|---|---|---|
| 入れるとき | 入れるのは簡単 | 造るときに処置が必要(入院して行う) |
| ふだんの様子 | 入っている違和感がある。管が細く詰まりやすい | 顔まわりに管がない |
| 抜けやすさ | 抜けやすい | 抜けにくい |
| 交換 | 1〜2週間ごと | 間隔が長め(下の「カテーテルの種類と交換」を参照) |
| 主な心配 | 抜けると誤嚥などの重い事故につながりやすい | 皮膚のトラブルや腹膜炎などの合併症のおそれ |
厚生労働省「喀痰吸引等研修テキスト 第三号研修」経管栄養の整理による。
どの方法を選ぶか、選ばないかは、ご本人の価値観や暮らし方によって答えが変わります。考えは時間とともに変わることもあるため、節目ごとに話し合い、チームで同じ情報を持つことが大切です。意思決定の支え方は、別の記事「神経難病の意思決定支援」で扱います。

胃ろうは「造るか、造らないか」だけでなく、いつ話し合うかも大切だと考えています。考えが変わってもかまいません。ご本人がそのとき話したことをチームで共有してもらえると、医師もその気持ちに沿って説明ができます。
03在宅で胃ろうを使うまでの流れ
- 1
相談と評価
主治医(脳神経内科)、在宅医、訪問看護、言語聴覚士(ST)、ケアマネジャーで、飲み込みの状態、体重、呼吸の状態を共有し、ご本人・ご家族と話し合います。
- 2
造設(入院)
胃ろうは、胃カメラを使ってお腹の皮膚から胃に小さな孔(ろう孔)を造る処置で、入院して行います。
- 3
退院前に決めること
栄養剤の種類(液体か、ゼリー状の半固形か)・量・1日の回数と時間、水分の量、薬の入れ方、シリンジや接続チューブなどの物品をどこから受け取るか、カテーテルの種類と次の交換の予定と担当を決めます。ご家族は入院中に注入の練習をします。
- 4
在宅チームへの引き継ぎ
訪問看護指示書を用意します。介護職に注入をお願いする場合は、喀痰吸引等研修(経管栄養を含む)と認定、事業所の登録、医師の指示書がそろっているかを確かめます。薬局には、胃ろうから入れやすい薬の形を相談します。
- 5
退院後
定期的なカテーテル交換、ろう孔の周りの皮膚のケア、体重や栄養量の見直しを続けます。口から食べる練習を続けるかは、飲み込みの評価をもとに決めます。
04誰が何をするか
| 担い手 | すること |
|---|---|
| 主治医・在宅医 | 造設の相談、栄養剤の処方と量の決定、カテーテルの交換、トラブル時の対応 |
| 訪問看護 | ろう孔の周りの皮膚、注入のときの様子、体重・脱水・便通の観察。ご家族や介護職への手ほどき。バルーン型のバルーンの水の入れ替え |
| 介護職(訪問介護・重度訪問介護など) | 研修を修了して認定を受け、登録した事業所に属していれば、胃ろう・腸ろうからの経管栄養。息苦しさや吐き気など、いつもと違う様子があれば看護師・医師・ご家族に連絡 |
| ご家族 | 日々の注入と観察、介護職がいない時間帯の対応 |
| 言語聴覚士・歯科・管理栄養士 | 口から食べる練習と飲み込みの評価、口のケア、栄養量の相談。口から食べていなくても、歯みがきなどの口のケアは必要 |
| 薬剤師 | 胃ろうから入れる薬の形の工夫と、自宅への配達 |
| ケアマネジャー | ケアプランの見直し。施設への入所を考える場合は、胃ろうの方を受け入れているかの確認 |
05カテーテルの種類と交換
胃ろうのカテーテルは、外から見える形と、胃の中のストッパーの形で分けられます。
| 種類 | どこの違いか | 特徴・交換の目安 |
|---|---|---|
| チューブ型 | 外から見える形 | 管が長く出ている |
| ボタン型 | 外から見える形 | 管がない。専用の接続チューブをつないで使う |
| バルーン型 | 胃の中のストッパー | 水で膨らませる。抜けやすいといわれる。バルーンの水が自然に抜けることが多いため、1〜2週間に一度、看護師が入れ替える。交換の目安は1〜2か月に一度 |
| バンパー型 | 胃の中のストッパー | 水で膨らませない。交換の目安はおよそ4〜6か月に一度 |
交換の目安は厚生労働省の研修テキストの記載で、交換は医師が行います。実際の時期は主治医の判断によります。交換の直後は、出血や抜けるなどのトラブルが起こることがあります。
06費用と気をつけること
造設は入院での医療として医療保険で行います。指定難病の医療費助成を受けている方は、助成の対象になる医療かを医療機関で確かめましょう。栄養剤には、医師が処方する医薬品(医療保険)と、食品として購入するもの(全額自己負担)があり、どちらを使うかで毎月の負担が変わります。退院前に確認しておきましょう。
抜けたときの備え
胃ろうのカテーテルが抜けたまま放っておくと、ろう孔がふさがって、新しいカテーテルが入らなくなることがあります。抜けたときに誰に連絡し、何をするかを、あらかじめ医師・訪問看護と決めて、ご家族とヘルパーに伝えておきましょう。

カテーテルが抜けたときに一番困るのは、誰に連絡すればよいか分からないことです。連絡先と順番を退院前に決めて、ご家族とヘルパーの目に入る場所に置いておいてもらえると、医師も早く動けます。
注入の前後で気をつけること
注入の前に、熱、お腹の張り、吐き気、下痢など、いつもと違う様子がないかを確かめます。気になることがあれば、注入する前に看護師・医師に相談します。注入を止めたり遅らせたりするときの水分の扱いも、あらかじめ決めておきましょう。
胃ろうでも誤嚥性肺炎は起こりうる
栄養剤が食道を逆流して気管に入ると、誤嚥性肺炎を起こしやすくなります。注入の姿勢(上半身をどのくらい起こすか)や速さは医師・看護師の指示に従い、注入中や注入後の息苦しさ、吐き気、顔色の変化に気をつけます。
07受け入れ先を探すときに伝えること
最初の打診で伝えること
- 住所(町名・丁目まで)
- カテーテルの種類(チューブ型かボタン型か、バルーン型かバンパー型か)とサイズ、前回と次回の交換の予定と担当
- 栄養剤(医薬品か食品か、液体か半固形か)、1日の回数と時間、水分の量
- 口から食べているか、とろみなど食事の形
- たんの吸引が要るか
- 薬の入れ方
- 介護職に注入をお願いしたいか(研修・認定が要ります)
- 胃ろうや今後の治療についてのご本人の意向
Med-Tasuki(メドタスキ)の一括依頼では、住所(町名まで)と「胃ろうあり」などの条件を入れると、近くの施設へまとめて受け入れを相談できます。医療機関・介護事業所の方は無料で登録できます。
参考にした情報
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。