ひとことで言うと
退院前カンファレンスは「病状の説明会」ではなく「退院後の1週間を決める会議」です。在宅側の訪問診療・訪問看護・ケアマネジャーを呼び、退院日からの訪問の予定、医療処置の引き継ぎ、急変時の連絡先を決めて終わります。
退院前カンファレンスは、病院と在宅チームが顔を合わせる数少ない機会です。ただ、病状の説明に時間を使い切って、肝心の「退院した翌日に誰が来るのか」が決まらないまま終わることも少なくありません。会議を「退院後の1週間を決める場」にするための進め方をまとめます。
01目的:退院後の1週間を決める
1週間
決める範囲
退院日からの訪問の予定
30〜45分
会議の長さの目安
資料は事前に送る
在宅側
必ず呼ぶ
訪問診療・訪問看護・ケアマネ
退院前カンファレンスで決めることは3つです。「退院日から誰がいつ訪問するか」「医療処置と薬を誰がどう引き継ぐか」「急変したときに誰に連絡し、どこに運ぶか」。病状の説明はこの3つを決めるための材料なので、要点にとどめ、資料で補います。

在宅医として退院前カンファレンスに出るとき、私が一番知りたいのは「退院当日と翌日に何が起きうるか」です。病院での経過は資料で読めます。会議では「退院初日の夜、痛みが強くなったら誰がどう動くか」まで決めて終われると、安心して引き受けられます。
02誰を呼ぶか
| 立場 | 参加者 | 役割 |
|---|---|---|
| 病院 | 主治医、病棟看護師、MSW・退院支援看護師、薬剤師(薬が複雑な場合)、リハビリ職(動作の引き継ぎ) | 病状・処置・薬・動作の引き継ぎ |
| 在宅の医療 | 訪問診療医(または看護師)、訪問看護ステーション | 退院後の訪問の予定、処置の受け入れ、急変時の方針 |
| 在宅の介護 | ケアマネジャー、必要なら訪問介護・福祉用具 | ケアプラン、ベッド・用具の準備、介護の体制 |
| 薬局 | 在宅対応の薬局(麻薬・無菌調剤・複雑な薬がある場合) | 薬の供給と管理 |
| 本人・家族 | できるだけ本人と、主に介護する家族 | 希望の確認、役割の理解 |
訪問診療医が出席できないときは、診療所の看護師や相談員が出席するか、事前に電話で要点を共有します。オンラインでの参加も広がっています。
03事前に送る資料
在宅側に事前に送るもの(会議の2〜3日前まで)
- 診療情報提供書(病名・経過・治療・見通し)と看護サマリー
- 処方の内容(退院時処方の日数を含む)
- 医療処置の一覧(酸素・カテーテル・胃ろう・褥瘡・点滴・麻薬など)と、退院後に誰が行う想定か
- 日常生活の動作(食事・排泄・移動・入浴)と介助の量
- 介護保険の認定の状況、暫定ケアプランの有無
- 本人・家族の希望(在宅で最期まで/入院も考える、など決まっていれば)
- 退院予定日と、退院日に必要な準備(ベッド・酸素の設置など)
資料が事前にあると、在宅側は「受けられるか」「何が足りないか」を考えて会議に来られます。当日初めて病状を聞く形だと、会議は説明会になり、決めるところまで進みません。
04当日の進め方(型)
- 1
目的と時間を宣言する(1分)
「退院後の1週間の予定と、急変時の連絡先を決めます。45分で終わります」と司会(MSW か退院支援看護師)が最初に言います。
- 2
病状と見通しの要点(5〜10分)
主治医から、病名・現在の状態・退院後に起きやすいこと・見通しを要点で。詳細は資料で。
- 3
本人・家族の希望(5分)
どう暮らしたいか、急変時に病院へ運びたいか、看取りの場所の希望。決まっていなければ「まだ」でよい。
- 4
医療処置と薬の引き継ぎ(10分)
処置ごとに「退院後は誰が・いつ・何を使って」を確認。薬は退院時処方の日数と、次の処方を誰が出すか。麻薬・無菌調剤は薬局を確認。
- 5
退院後1週間の予定(10分)
退院日・翌日・1週間の訪問診療・訪問看護・訪問介護・薬局の配達を、カレンダーに書き込む形で決める。
- 6
急変時の連絡先と方針(5分)
夜間・休日に誰に電話するか(訪問看護→医師の順など)、救急車を呼ぶ場合の基準、戻れる病院。
- 7
確認と役割の読み上げ(5分)
司会が決まったことを読み上げ、各自の役割と締め切りを確かめる。議事録を全員に送る。
- Q1.受け入れ先(訪問診療・訪問看護・薬局)が決まっていないはい退院日を動かすか、決まるまで MSW が引き続き探す。一括依頼で同時に打診するいいえ
- Q2.医療処置の担当が決まらない(家族ができない・訪問看護の回数が足りない)はい特別訪問看護指示書や別表7・8の該当を確認し、訪問の回数を増やせるか主治医と相談いいえ
- Q3.本人・家族の希望が固まっていないはい「まだ決めない」を決める。在宅で折に触れて確かめることをチームで共有いいえ

会議の最後に「では退院翌日の朝10時に訪問看護、午後に私が伺います」と口に出して確かめることを、私はいつもお願いしています。それだけで、退院直後の「誰も来ない日」がなくなります。ご家族もその一言で表情が変わります。
05退院時共同指導との関係
退院前カンファレンスの多くは、診療報酬の「退院時共同指導」として行われます。病院の医師・看護師と、在宅の医師・看護師・ケアマネジャーなどが、患者さん・家族に対して共同で退院後の療養の指導を行うと、病院と在宅の双方が算定できる仕組みです。要件(参加者の職種・文書の交付など)は MSW が確かめます。オンラインでの参加も一定の条件で認められています。
- 算定のための会議にしない:要件を満たすことは大事ですが、目的は退院後の段取りです。要件の職種がそろっていても、訪問の予定が決まらなければ意味がありません。
- 文書:指導の内容を文書で患者さん・家族に渡します。この文書が、在宅チームの共通の資料にもなります。
- 在宅側の算定:在宅の医療機関・訪問看護ステーションも要件を満たせば算定できます。参加を頼むときに伝えると、出席しやすくなります。
06よくある失敗と対策
| 失敗 | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 病状の説明で時間切れ | 訪問の予定が決まらない | 資料を事前に送り、説明は要点に。司会が時間を区切る |
| 在宅側が呼ばれていない | 退院後に「聞いていない」処置が出てくる | 訪問診療・訪問看護・ケアマネを必ず呼ぶ。出られなければ事前に電話で共有 |
| 退院日が近すぎる | 受け入れ先が決まらないまま退院 | 受け入れ先の見通しが立ってから退院日を決める。急ぐなら同時に複数へ打診 |
| 家族が理解できていない | 退院後に不安で救急車を呼ぶ | 家族向けに「困ったときの連絡先」を1枚にして渡す |
| 薬の引き継ぎが曖昧 | 退院時処方が切れて薬がない | 退院時処方の日数と、次の処方の担当・薬局を明記 |
07受け入れ先の探し方
受け入れ先が決まらないと、カンファレンスの日程も決められません。Med-Tasuki(メドタスキ)の一括依頼では、患者さんの住所と条件を入れて、近くの訪問診療・訪問看護・薬局にまとめて受け入れを相談でき、引き受けた施設とそのままチャットで調整できます。医療機関・介護事業所の方は無料で登録できます。
参考にした情報
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。