ひとことで言うと
薬剤師が自宅に薬を届けて飲み方を整える仕組みには、医療保険の「在宅患者訪問薬剤管理指導」と介護保険の「居宅療養管理指導」があります。どちらも医師の指示が要り、介護保険の認定がある方は介護保険が優先です。
薬が増えて管理できない、飲み忘れが多い、薬局まで取りに行けない。こうしたときに、薬剤師が自宅に来て薬を届け、飲み方を整える仕組みがあります。医療保険と介護保険で名前が違い、依頼の流れにも決まりがあるので、実務の順にまとめます。
01訪問薬局で頼めること
- 薬の配達:処方せんに基づいて調剤した薬を自宅に届けます。
- 一包化・服薬カレンダー:朝・昼・夕・寝る前ごとに薬をまとめ、カレンダーやケースにセットします。
- 残薬の整理:飲み残しを確かめて、医師に処方の見直しを提案します。
- 飲み方の指導:本人・家族・介護職に、薬の目的と飲み方、注意する副作用を説明します。
- 副作用・飲み合わせの確認:ふらつき・眠気・便秘などが薬によるものか確かめ、医師に報告します。
- 医療材料・衛生材料の供給:医師の指示で、処置に使う材料を届けられる場合があります。
- 特別な調剤:医療用麻薬(麻薬小売業者の免許がある薬局)、無菌調剤(中心静脈栄養の輸液・麻薬の注射薬)は、設備のある薬局だけが対応できます。
医師の指示
訪問の前提
薬局が勝手には始められない
介護保険が優先
認定がある方
居宅療養管理指導(薬剤師)
限度額の外
居宅療養管理指導
ケアプランの枠を使わない
02医療保険と介護保険の仕組み
| 在宅患者訪問薬剤管理指導 | 居宅療養管理指導(薬剤師) | |
|---|---|---|
| 保険 | 医療保険 | 介護保険 |
| 対象 | 通院が困難で、介護保険の認定を受けていない方(40歳未満・非該当など) | 通院が困難で、要支援・要介護の認定を受けている方 |
| 指示 | 医師の指示(処方せんへの記載や指示書) | 医師の指示(同じ) |
| 回数の目安 | 月4回まで(末期のがん・中心静脈栄養の方は週2回・月8回まで) | 月4回まで(末期のがん・中心静脈栄養の方は週2回・月8回まで) |
| ケアプラン | 関係なし | 限度額の枠には入らないが、ケアプランに位置づける |
同じ薬局が、同じ内容のサービスを、保険の違いで名前を変えて行う形です。認定のある方は介護保険が優先されます。
居宅療養管理指導は、介護保険のサービスですが支給限度額の枠には入りません。訪問介護や通所の枠を減らさずに薬剤師の訪問を入れられるので、ケアマネジャーは遠慮なくケアプランに位置づけます。

薬剤師さんが自宅に入ると、私たち医師が診察では気づけないことが見えてきます。引き出しにたまった飲み残し、似た薬の重複、家族が理解していない飲み方。薬剤師さんからの報告で処方を減らせた患者さんは少なくありません。
03依頼の流れ
- 1
必要性を見立てる
ケアマネジャー・訪問看護が、飲み忘れ・残薬・管理の難しさに気づいたら、主治医に相談します。
- 2
主治医が指示を出す
処方せんに「訪問薬剤管理指導を行うこと」と記載するか、薬局あてに指示書を出します。訪問診療の医師なら、初回訪問で一緒に決めることが多いです。
- 3
薬局を決める
対応エリア・麻薬や無菌調剤の可否・配達の曜日を確かめます。かかりつけの薬局が訪問に対応していれば、そのまま頼めます。
- 4
初回訪問
薬剤師が自宅で薬の状況を確かめ、一包化や服薬カレンダーなど管理の方法を決めます。
- 5
継続と報告
訪問のたびに薬剤師が主治医(介護保険の方はケアマネジャーにも)報告します。処方の変更はここから生まれます。
処方せんの薬局への渡し方
通院が難しい方は、医師が処方せんを薬局に FAX や電子処方せんで送り、薬剤師が調剤して届ける形が一般的です。ご家族が処方せんを薬局に持ち込む必要はありません。
04対応できる薬局の見分け方
薬局に確かめること
- 在宅の訪問に対応しているか(対応エリア・配達の曜日・時間)
- 医療用麻薬を扱えるか(麻薬小売業者の免許)
- 無菌調剤ができるか(中心静脈栄養・麻薬の注射薬)
- 一包化・服薬カレンダーの対応
- 夜間・休日の連絡先(緊急の処方に対応できるか)
- 医療材料(処置の材料)の供給ができるか
- 主治医・ケアマネジャーへの報告の方法
Med-Tasuki(メドタスキ)の薬局の一覧では、在宅対応・麻薬・無菌調剤などの対応内容で絞り込めます。地域の薬剤師会に「在宅対応薬局」の一覧があることもあります。

薬局を選ぶとき、私は「急なときに動いてくれるか」を重く見ています。土曜の夜に痛み止めが切れた、退院が急に決まった。そういうときに配達できる薬局があると、患者さんもご家族も在宅を続けやすくなります。
05よくある質問
- 費用は?:医療保険・介護保険とも自己負担は1〜3割で、訪問1回ごとの費用がかかります。薬代は別です。金額は薬局に確かめます。
- かかりつけの薬局を変えないといけない?:今の薬局が訪問に対応していればそのままで構いません。対応していなければ、在宅対応の薬局に変えるか、2つの薬局を併用します。
- 薬剤師が来ると、訪問看護の服薬確認は要らなくなる?:役割が違います。薬剤師は薬の整理と説明、訪問看護は日々の服薬の確認と体調の観察です。両方が入ると、飲み忘れと副作用の両面を見られます。
- 施設に入っている場合は?:有料老人ホームやグループホームでも、施設が対応していれば薬剤師の訪問は使えます。特別養護老人ホームは施設の薬剤管理の仕組みがあるので、施設に確かめます。
- 薬が多すぎて減らしたい:薬剤師の残薬整理と主治医への報告が、減薬のきっかけになります。「減らしたい」と薬剤師に伝えてよいことです。
06薬剤師の訪問でよくある改善
| 問題 | 起きていること | 対応 |
|---|---|---|
| 残薬の山 | 同じ薬が何か月分もたまっている | 医師に報告し、処方日数と量を見直す |
| 重複 | 複数の医療機関から似た薬が出ている | 医師どうしの連絡を薬剤師が橋渡し |
| 飲み方の誤解 | 朝の薬を夜に飲んでいる、粉薬を捨てている | 一包化と服薬カレンダー、家族への説明 |
| 副作用の見落とし | ふらつき・便秘・食欲低下が薬によるもの | 医師に報告し、減量や変更を提案 |
| 飲みにくさ | 錠剤が大きい、粉薬がむせる | 剤形の変更(口腔内崩壊錠・液剤など)を提案 |
こうした問題は、外来の短い診察では見つかりにくいものです。薬剤師が自宅の引き出しを見ることで初めてわかることが多く、減薬や誤薬の防止につながります。
07訪問看護・ケアマネジャーからの依頼のコツ
- 主治医への相談は具体的に:「飲み忘れが週に3回以上」「残薬が2か月分」「粉薬でむせる」など、状況を数字や場面で伝えると、指示が出やすくなります。
- 薬局への最初の連絡:住所、通院が難しい理由、薬の数と処方元の医療機関の数、麻薬や特別な調剤の有無、介護保険の認定の有無を伝えます。
- 訪問の時期を合わせる:訪問看護の訪問日と薬剤師の配達日を近づけると、薬の変更がすぐ現場に伝わります。
- 報告の宛先を決める:薬剤師の報告を主治医だけでなくケアマネジャー・訪問看護にも送ってもらうと、チームで薬の情報がそろいます。
08受け入れ先の探し方
Med-Tasuki(メドタスキ)では、訪問に対応する薬局を地域や対応内容で探せます。医療機関・介護事業所の方は、一括依頼で近くの薬局にまとめて相談し、引き受けた薬局とチャットで調整できます。
参考にした情報
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。