ひとことで言うと
訪問歯科は、通院が難しい方の自宅や施設に歯科医師・歯科衛生士が来て、虫歯や義歯の治療だけでなく、口腔ケアと飲み込みの評価も行います。誤嚥性肺炎の予防と食べる力の維持に直結するので、在宅チームに早めに入れます。
「歯が痛い」「入れ歯が合わない」だけが訪問歯科の出番ではありません。口の中が汚れていると誤嚥性肺炎の危険が上がり、噛めない・飲み込めないと食事が減って体力が落ちます。在宅チームの中で訪問歯科は、食べる力を守る役目を担います。頼めることと依頼の流れをまとめます。
01訪問歯科で頼めること
| 内容 | 誰が | 例 |
|---|---|---|
| 歯の治療 | 歯科医師 | 虫歯・歯周病の治療、抜歯、応急処置 |
| 義歯(入れ歯) | 歯科医師 | 作製・調整・修理。合わない義歯で食事が減っている方 |
| 口腔ケア | 歯科衛生士(歯科医師の指示) | 歯・舌・粘膜の清掃、家族や介護職への清掃方法の指導 |
| 飲み込みの評価 | 歯科医師・歯科衛生士 | 嚥下の状態を見て、食事の形態や姿勢を助言。必要なら検査(嚥下内視鏡) |
| 食べる訓練 | 歯科医師・歯科衛生士 | 口の体操、飲み込みの訓練、食事介助の指導 |
医療保険
治療・義歯・嚥下の評価
歯科の訪問診療
介護保険
口腔ケアの指導
居宅療養管理指導(歯科衛生士)
16km
訪問できる距離
歯科医院からの目安
訪問歯科は、歯科医院から半径16km以内が原則の対応範囲です。対応エリアを最初に確かめます。多くの訪問歯科は、施設(有料老人ホーム・グループホーム・特別養護老人ホーム)と自宅の両方に対応しています。

肺炎を繰り返す患者さんを診るとき、私はまず口の中を見ます。汚れた口の中の細菌が肺に入ることが、在宅での肺炎の大きな原因だからです。訪問歯科が定期的に入っている患者さんは、明らかに口の状態が違います。医師としても早めに紹介したい職種です。
02医療保険と介護保険の仕組み
歯科医師の治療や義歯、飲み込みの評価は医療保険の「歯科訪問診療」です。歯科衛生士が定期的に口腔ケアの指導に来る部分は、介護保険の認定を受けている方は介護保険の「居宅療養管理指導」(歯科衛生士)、認定のない方は医療保険の「訪問歯科衛生指導」になります。
| 内容 | 保険 | 仕組みの名前 |
|---|---|---|
| 歯科医師の治療・義歯・嚥下の評価 | 医療保険 | 歯科訪問診療 |
| 歯科医師の口腔管理の助言(認定のある方) | 介護保険 | 居宅療養管理指導(歯科医師) |
| 歯科衛生士の口腔ケア指導(認定のある方) | 介護保険 | 居宅療養管理指導(歯科衛生士)。月4回まで |
| 歯科衛生士の口腔ケア指導(認定のない方) | 医療保険 | 訪問歯科衛生指導 |
居宅療養管理指導は介護保険の支給限度額の枠に入りません。ケアプランには位置づけます。
03依頼の流れ
- 1
気づく
ケアマネジャー・訪問看護・介護職が、口臭・食事量の減少・むせ・義歯の不具合・歯の痛みに気づいたら、訪問歯科を検討します。
- 2
訪問歯科を探す
対応エリア、嚥下の評価ができるか、施設に対応しているかを確かめます。地域の歯科医師会に相談窓口があることもあります。
- 3
主治医に伝える
医科の主治医に、訪問歯科が入ることを伝えます。抗血栓薬(血を固まりにくくする薬)や骨粗しょう症の薬を飲んでいる方は、抜歯の前に情報が要ります。
- 4
初回訪問:診察と計画
歯科医師が口の中を診て、治療・義歯・口腔ケア・嚥下の計画を立てます。ご家族や介護職が同席すると、清掃の方法をその場で教わることができます。
- 5
継続
歯科衛生士の定期訪問で口腔ケアを続け、歯科医師が必要に応じて治療します。
訪問歯科に最初に伝えること
- 住所と住まいの種類(自宅・施設)
- 困っていること(痛み・義歯・口の汚れ・むせ・食事量の減少)
- 食事の形態(常食・きざみ・ミキサー・とろみ)と、口から食べているか
- 病名と飲んでいる薬(抗血栓薬・骨粗しょう症の薬は特に)
- 介護保険の認定と担当のケアマネジャー
- 医科の主治医と、訪問看護の有無
- 認知症の有無と、診療に協力できるか
04飲み込みの評価と食事の形態
訪問歯科の中には、飲み込みの評価と訓練(摂食嚥下リハビリテーション)に力を入れているところがあります。むせる、食事に時間がかかる、痰が増えた、微熱が続く、といったサインがあるときは、飲み込みの評価を頼みます。必要なら、自宅で内視鏡を使った検査(嚥下内視鏡検査)を行い、どの形態の食事なら安全かを調べます。
- Q1.歯が痛い・腫れている・義歯が壊れたはい歯科訪問診療で治療・義歯の調整を先にいいえ
- Q2.むせる・肺炎を繰り返す・食事が減ったはい飲み込みの評価を頼み、食事の形態と姿勢を見直すいいえ
- Q3.口の汚れ・口臭が強いはい歯科衛生士の定期的な口腔ケアと、介護職への指導いいえ

「食べられなくなった」と聞くと、医師は病気の進行を考えがちですが、義歯が合わない、口内炎がある、飲み込みの姿勢が悪い、といった歯科で解決できる理由も多くあります。食事量が減ったときは、病気のせいと決めつける前に訪問歯科に見てもらう、という順番を勧めています。
05よくある質問
- 費用は?:医療保険・介護保険とも自己負担は1〜3割です。訪問の費用が外来より加わります。義歯は別に材料費がかかります。金額は歯科医院に確かめます。
- 認知症で口を開けてくれない:訪問歯科は慣れています。無理に治療せず、まず口腔ケアから始めて関係を作ることが多いです。介護職が普段どう声をかけているかを伝えます。
- 寝たきりでも治療できる?:ベッドの上で、持ち運びの機器を使って治療します。抜歯などもできますが、全身状態によっては病院の歯科を紹介されます。
- 施設の入居者はまとめて頼める?:施設が提携する訪問歯科があることが多いです。個別に選ぶこともできます。
- 通所の事業所で口腔ケアをしてもらっている。訪問歯科も必要?:通所の口腔機能向上と、訪問歯科の治療・専門的なケアは別のものです。両方が入っても構いません。
06介護職・家族の口腔ケアと訪問歯科の分担
| 担い手 | 毎日の口腔ケア | 訪問歯科が担うこと |
|---|---|---|
| 本人・家族 | 毎食後の歯磨き・義歯の洗浄・うがい | 磨き方・義歯の扱い方の指導 |
| 訪問介護 | 介助での歯磨き・義歯の洗浄・口の中の観察 | 介護職への実技の指導、観察の目安 |
| 訪問看護 | 口腔内の観察、誤嚥のサインの把握 | 看護師と一緒に嚥下の評価 |
| 歯科衛生士 | — | 専門的な清掃(歯石・舌苔・粘膜)、定期の点検 |
| 歯科医師 | — | 治療・義歯・嚥下内視鏡検査 |
訪問歯科は「毎日のケアを代わりにする」のではなく、「毎日のケアがうまくいくように整える」役目です。介護職と家族が同じ方法で磨けるように、初回訪問で実際に見せてもらうと定着します。
07訪問歯科を頼むタイミングの目安
- 在宅療養を始めるとき:口の状態を一度確かめてもらうと、後の肺炎や食事量の低下を防ぎやすくなります。
- 退院直後:入院中に口腔ケアが行き届かず、義歯が合わなくなっていることがあります。
- 食事量が減った・むせるようになった:病気の進行と決めつける前に、口と飲み込みの評価を。
- 肺炎を繰り返す:口腔ケアの見直しと飲み込みの評価が、再発の予防になります。
- 看取りの時期:口の乾燥や汚れを整えることが、本人の苦痛の軽減と家族の安心につながります。
08受け入れ先の探し方
Med-Tasuki(メドタスキ)では、訪問歯科を地域や対応内容(嚥下の評価・施設への訪問など)で探せます。医療機関・介護事業所の方は、一括依頼で近くの訪問歯科にまとめて相談できます。
参考にした情報
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。