在宅医療の基本

訪問歯科の依頼:口腔ケア・義歯・飲み込みで頼めること

公開|内容の確認:

対象:ケアマネジャー・訪問看護師・施設の相談員の方、ご家族

前川 裕貴(脳神経内科専門医・頭痛専門医)

この記事の監修

前川 裕貴

脳神経内科専門医・頭痛専門医

荏原ホームケアクリニック 頭痛センター長

地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者

日本内科学会 内科専門医日本神経学会 神経内科専門医日本頭痛学会 頭痛専門医難病指定医

Med-Tasuki(メドタスキ)は、監修者が開発した、在宅医療・介護の施設どうしが患者さんの受け入れをチャットで相談できる無料のサービスです。近くの施設へまとめて相談できる一括依頼も使えます。

ひとことで言うと

訪問歯科は、通院が難しい方の自宅や施設に歯科医師・歯科衛生士が来て、虫歯や義歯の治療だけでなく、口腔ケアと飲み込みの評価も行います。誤嚥性肺炎の予防と食べる力の維持に直結するので、在宅チームに早めに入れます。

「歯が痛い」「入れ歯が合わない」だけが訪問歯科の出番ではありません。口の中が汚れていると誤嚥性肺炎の危険が上がり、噛めない・飲み込めないと食事が減って体力が落ちます。在宅チームの中で訪問歯科は、食べる力を守る役目を担います。頼めることと依頼の流れをまとめます。

01訪問歯科で頼めること

訪問歯科で頼めること
内容誰が
歯の治療歯科医師虫歯・歯周病の治療、抜歯、応急処置
義歯(入れ歯)歯科医師作製・調整・修理。合わない義歯で食事が減っている方
口腔ケア歯科衛生士(歯科医師の指示)歯・舌・粘膜の清掃、家族や介護職への清掃方法の指導
飲み込みの評価歯科医師・歯科衛生士嚥下の状態を見て、食事の形態や姿勢を助言。必要なら検査(嚥下内視鏡)
食べる訓練歯科医師・歯科衛生士口の体操、飲み込みの訓練、食事介助の指導

医療保険

治療・義歯・嚥下の評価

歯科の訪問診療

介護保険

口腔ケアの指導

居宅療養管理指導(歯科衛生士)

16km

訪問できる距離

歯科医院からの目安

訪問歯科は、歯科医院から半径16km以内が原則の対応範囲です。対応エリアを最初に確かめます。多くの訪問歯科は、施設(有料老人ホーム・グループホーム・特別養護老人ホーム)と自宅の両方に対応しています。

前川 裕貴
医師のひとこと前川 裕貴脳神経内科専門医・頭痛専門医
肺炎を繰り返す患者さんを診るとき、私はまず口の中を見ます。汚れた口の中の細菌が肺に入ることが、在宅での肺炎の大きな原因だからです。訪問歯科が定期的に入っている患者さんは、明らかに口の状態が違います。医師としても早めに紹介したい職種です。

02医療保険と介護保険の仕組み

歯科医師の治療や義歯、飲み込みの評価は医療保険の「歯科訪問診療」です。歯科衛生士が定期的に口腔ケアの指導に来る部分は、介護保険の認定を受けている方は介護保険の「居宅療養管理指導」(歯科衛生士)、認定のない方は医療保険の「訪問歯科衛生指導」になります。

訪問歯科の保険(2026年9月時点)
内容保険仕組みの名前
歯科医師の治療・義歯・嚥下の評価医療保険歯科訪問診療
歯科医師の口腔管理の助言(認定のある方)介護保険居宅療養管理指導(歯科医師)
歯科衛生士の口腔ケア指導(認定のある方)介護保険居宅療養管理指導(歯科衛生士)。月4回まで
歯科衛生士の口腔ケア指導(認定のない方)医療保険訪問歯科衛生指導

居宅療養管理指導は介護保険の支給限度額の枠に入りません。ケアプランには位置づけます。

03依頼の流れ

  1. 1

    気づく

    ケアマネジャー・訪問看護・介護職が、口臭・食事量の減少・むせ・義歯の不具合・歯の痛みに気づいたら、訪問歯科を検討します。

  2. 2

    訪問歯科を探す

    対応エリア、嚥下の評価ができるか、施設に対応しているかを確かめます。地域の歯科医師会に相談窓口があることもあります。

  3. 3

    主治医に伝える

    医科の主治医に、訪問歯科が入ることを伝えます。抗血栓薬(血を固まりにくくする薬)や骨粗しょう症の薬を飲んでいる方は、抜歯の前に情報が要ります。

  4. 4

    初回訪問:診察と計画

    歯科医師が口の中を診て、治療・義歯・口腔ケア・嚥下の計画を立てます。ご家族や介護職が同席すると、清掃の方法をその場で教わることができます。

  5. 5

    継続

    歯科衛生士の定期訪問で口腔ケアを続け、歯科医師が必要に応じて治療します。

訪問歯科に最初に伝えること

  • 住所と住まいの種類(自宅・施設)
  • 困っていること(痛み・義歯・口の汚れ・むせ・食事量の減少)
  • 食事の形態(常食・きざみ・ミキサー・とろみ)と、口から食べているか
  • 病名と飲んでいる薬(抗血栓薬・骨粗しょう症の薬は特に)
  • 介護保険の認定と担当のケアマネジャー
  • 医科の主治医と、訪問看護の有無
  • 認知症の有無と、診療に協力できるか

04飲み込みの評価と食事の形態

訪問歯科の中には、飲み込みの評価と訓練(摂食嚥下リハビリテーション)に力を入れているところがあります。むせる、食事に時間がかかる、痰が増えた、微熱が続く、といったサインがあるときは、飲み込みの評価を頼みます。必要なら、自宅で内視鏡を使った検査(嚥下内視鏡検査)を行い、どの形態の食事なら安全かを調べます。

訪問歯科に頼むとき、何を先に頼むか
  1. Q1.歯が痛い・腫れている・義歯が壊れた
    はい
    歯科訪問診療で治療・義歯の調整を先に
    いいえ
  2. Q2.むせる・肺炎を繰り返す・食事が減った
    はい
    飲み込みの評価を頼み、食事の形態と姿勢を見直す
    いいえ
  3. Q3.口の汚れ・口臭が強い
    はい
    歯科衛生士の定期的な口腔ケアと、介護職への指導
    いいえ
定期的な口の点検として、数か月に1回の訪問を組む
前川 裕貴
医師のひとこと前川 裕貴脳神経内科専門医・頭痛専門医
「食べられなくなった」と聞くと、医師は病気の進行を考えがちですが、義歯が合わない、口内炎がある、飲み込みの姿勢が悪い、といった歯科で解決できる理由も多くあります。食事量が減ったときは、病気のせいと決めつける前に訪問歯科に見てもらう、という順番を勧めています。

05よくある質問

  • 費用は?:医療保険・介護保険とも自己負担は1〜3割です。訪問の費用が外来より加わります。義歯は別に材料費がかかります。金額は歯科医院に確かめます。
  • 認知症で口を開けてくれない:訪問歯科は慣れています。無理に治療せず、まず口腔ケアから始めて関係を作ることが多いです。介護職が普段どう声をかけているかを伝えます。
  • 寝たきりでも治療できる?:ベッドの上で、持ち運びの機器を使って治療します。抜歯などもできますが、全身状態によっては病院の歯科を紹介されます。
  • 施設の入居者はまとめて頼める?:施設が提携する訪問歯科があることが多いです。個別に選ぶこともできます。
  • 通所の事業所で口腔ケアをしてもらっている。訪問歯科も必要?:通所の口腔機能向上と、訪問歯科の治療・専門的なケアは別のものです。両方が入っても構いません。

06介護職・家族の口腔ケアと訪問歯科の分担

口腔ケアの分担
担い手毎日の口腔ケア訪問歯科が担うこと
本人・家族毎食後の歯磨き・義歯の洗浄・うがい磨き方・義歯の扱い方の指導
訪問介護介助での歯磨き・義歯の洗浄・口の中の観察介護職への実技の指導、観察の目安
訪問看護口腔内の観察、誤嚥のサインの把握看護師と一緒に嚥下の評価
歯科衛生士専門的な清掃(歯石・舌苔・粘膜)、定期の点検
歯科医師治療・義歯・嚥下内視鏡検査

訪問歯科は「毎日のケアを代わりにする」のではなく、「毎日のケアがうまくいくように整える」役目です。介護職と家族が同じ方法で磨けるように、初回訪問で実際に見せてもらうと定着します。

07訪問歯科を頼むタイミングの目安

  • 在宅療養を始めるとき:口の状態を一度確かめてもらうと、後の肺炎や食事量の低下を防ぎやすくなります。
  • 退院直後:入院中に口腔ケアが行き届かず、義歯が合わなくなっていることがあります。
  • 食事量が減った・むせるようになった:病気の進行と決めつける前に、口と飲み込みの評価を。
  • 肺炎を繰り返す:口腔ケアの見直しと飲み込みの評価が、再発の予防になります。
  • 看取りの時期:口の乾燥や汚れを整えることが、本人の苦痛の軽減と家族の安心につながります。

08受け入れ先の探し方

Med-Tasuki(メドタスキ)では、訪問歯科を地域や対応内容(嚥下の評価・施設への訪問など)で探せます。医療機関・介護事業所の方は、一括依頼で近くの訪問歯科にまとめて相談できます。

参考にした情報

監修者のプロフィール

前川 裕貴(脳神経内科専門医・頭痛専門医)
前川 裕貴

Maekawa Hirotaka

脳神経内科専門医・頭痛専門医

地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者

日本内科学会 内科専門医日本神経学会 神経内科専門医日本頭痛学会 頭痛専門医難病指定医

脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。

2012〜2018年順天堂大学 医学部 医学科
2018〜2020年東京逓信病院 初期臨床研修
2020〜2023年東京大学医学部附属病院 脳神経内科 特任臨床医
2023年〜埼玉精神神経センター 頭痛専門外来
荏原ホームケアクリニック 頭痛センター長
昭和医科大学 脳神経内科 客員講師
2025年〜株式会社Iris Wellness設立

在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。

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監修:前川 裕貴脳神経内科専門医・頭痛専門医)/この記事は情報提供を目的としたもので、診断・治療を行うものではありません。受け入れの状況や費用は各施設に、治療の判断は主治医にご相談ください。