ひとことで言うと
筋ジストロフィーは若い年代から長く呼吸を支える病気です。訪問看護は医療保険、介護保険は特定疾病に入らず40〜64歳は使えないため、障害福祉サービスが暮らしの支えの中心です。
筋ジストロフィーは、筋肉の壊れと再生をくり返しながら筋力が落ちていく、遺伝性の筋肉の病気の総称です(指定難病113)。子どものころに発症するデュシェンヌ型、患者さんの数が最も多いとされる筋強直性ジストロフィーなど、病型によって発症の年齢も進み方も大きく違います。在宅チームにとってほかの神経難病と違うのは、若い年代から長い年月にわたって呼吸を支えることと、介護保険が使えない年代が長いことです。
01筋ジストロフィーの在宅療養で起きやすいこと
- 呼吸:呼吸の筋肉が弱くなります。初めは寝ているときだけに異常が出るため、睡眠中の呼吸の評価が大切です。進むと、マスクで空気を送る人工呼吸(NPPV)を使います。呼吸器を使う期間が長いため、肺をきれいに保つことがきわめて重要です。
- 咳が弱い:たんを出す力が弱く、かぜなどの呼吸器の感染をこじらせやすくなります。たんが取りきれない、高い熱、下痢、食事や水分がとれないときは、早めの受診が必要です。
- 心臓:心不全や不整脈が起きます。体を動かす量が少なく呼吸器も使っているため、心不全の症状がわかりにくく、感染などをきっかけに急に悪くなることがあります。筋強直性やエメリー・ドレフュス型では、不整脈が突然死の原因としても重要です。
- 飲み込み:多くの病型では進んだ時期に出ますが、筋強直性や眼咽頭型では早い時期から出ることがあります。体の変形や心臓・肺の状態のため、胃ろうを造るのが難しい場合も少なくありません。
- 関節と背骨:関節が固くなり(拘縮)、背骨や胸郭が変形すると、座った姿勢を保ちにくくなり、呼吸にも影響します。
- 筋強直性ジストロフィー:全身のさまざまな臓器に合併症が出るのが特徴で、合併症が運動の障害より先に出ることも少なくありません。歩ける時期から呼吸不全が起きることがあります。
日常生活は、疲れや筋肉痛が出ない範囲なら原則として制限しません。一方で、負荷の大きい筋力トレーニングや、飛び降りるなどの動作は筋肉を傷めるおそれがあり勧められていません。転倒によるけがで動けない時期ができると筋肉が衰えるため、転倒を防ぐことも大切です。
02訪問看護は医療保険、介護保険は年齢で変わる
筋ジストロフィー(告示では「進行性筋ジストロフィー症」)は、訪問看護で「厚生労働大臣が定める疾病等」(特掲診療料の施設基準等の別表第七。以下、別表7)に入っています。そのため訪問看護は、年齢にかかわらず医療保険で行い、週4日以上の訪問、1日に2回・3回以上の訪問(難病等複数回訪問加算)、2か所(毎日の訪問を計画する場合は3か所)までの訪問看護ステーションの利用ができます(2026年9月時点)。
一方で、筋ジストロフィーは介護保険の特定疾病(16疾病)に入っていません。ここがALSやパーキンソン病関連疾患と大きく違う点です。介護保険が使えるかどうかは、年齢で次のように分かれます。
- Q1.65歳以上ですか?はい原因を問わず介護保険の対象です。それまで使っていた障害福祉サービスとの関係は、次の見出しで説明します。いいえ
- Q2.40〜64歳ですか?はい介護保険の第2号被保険者ですが、使えるのは特定疾病が原因のときだけです。筋ジストロフィーを理由に要介護認定は受けられません(ほかに特定疾病に当たる病気がある場合は別です)。いいえ
このため65歳未満の方の暮らしの支え(ホームヘルプ、長時間の介護、短期入所など)は、障害福祉サービスが中心になります。計画づくりはケアマネジャーではなく、障害福祉の相談支援専門員が「サービス等利用計画」として担います。
病院の退院支援で起きやすい行き違い
40〜64歳の方に「まず介護保険の申請を」と案内すると、筋ジストロフィーだけでは認定を受けられず、退院の準備が遅れます。障害福祉サービスは、区市町村への申請のあと、障害支援区分の認定や支給決定の手続きを経て使えるようになります。入院中から進めましょう。

筋ジストロフィーの方の退院支援では、「介護保険が使えるか」より先に「障害福祉サービスの申請が進んでいるか」を確かめてもらえると助かります。手続きには時間がかかるので、入院中から相談支援専門員とつながっておくことが、退院後の暮らしを支える近道です。
03使える制度
| 制度 | 対象・使えること |
|---|---|
| 障害福祉サービス | 障害者総合支援法の対象の病気。障害者手帳がなくても、区市町村が必要と認めれば使える。居宅介護(ホームヘルプ)、重度訪問介護、短期入所(ショートステイ)、補装具(車いす・意思伝達装置など)、日常生活用具など |
| 重度訪問介護 | 障害支援区分4以上で、二肢以上に麻痺などがあり、歩行・移乗・排尿・排便のいずれも支援が必要と認定された方など。見守りを含めて、長い時間の介護を受けられる |
| 介護職員によるたんの吸引 | 研修を受けて認定を受けた介護職員が、登録を受けた事業所で、医師の指示と看護職との連携のもと、たんの吸引や経管栄養を行える。特定の利用者に限って行うための研修の区分もある |
| 療養介護 | 障害支援区分5以上の進行性筋萎縮症の方など。病院で長期の医療的ケアと常時の介護を受ける |
| 難病の医療費助成(特定医療費) | 指定医療機関での自己負担が、所得に応じた月ごとの上限額までになる。マスクや気管切開で人工呼吸器を常に使い、日常生活の動作が著しく制限されている方は、所得にかかわらず上限が月1,000円になる区分がある(当てはまるかは個別に判断) |
| 小児慢性特定疾病の医療費助成 | 18歳未満。18歳の時点で対象になっていて引き続き治療が必要な方は20歳未満まで延長できる。20歳が近づいたら、指定難病の医療費助成への申請を準備する |
| 東京都の事業(東京都にお住まいの方) | 在宅人工呼吸器使用難病患者訪問看護事業(在宅で人工呼吸器を使い、医師が1日3回以上の訪問看護を必要と認めた方)。難病患者在宅レスパイト事業(ご家族が休むときに看護師などを自宅に派遣) |
0465歳を迎えるときの注意
65歳になると介護保険が優先になり、障害福祉サービスで受けていた支援を介護保険のサービスに移すかどうかを、区市町村が判断します。厚生労働省は2023年の事務連絡で、要介護度や障害支援区分などの画一的な基準だけで判断するのは適切ではなく、一人ひとりの障害の特性を考えて判断するよう求めています。あわせて、介護保険の訪問介護の支給限度額では足りない分を、居宅介護や重度訪問介護で補う運用例を示しています。65歳が近づいたら、相談支援専門員とケアマネジャーが一緒に、今の支援の量を保てるかを確かめましょう。
05在宅チームで押さえること(職種ごと)
| 職種 | 担うこと |
|---|---|
| 専門医療機関と訪問診療医 | 呼吸と心臓の定期的な評価は、症状がなくても専門医療機関で続ける。在宅医は、感染したときの早めの対応と、急な心不全の悪化への備え。どちらに何を相談するかを、ご家族と一緒に決めておく |
| 訪問看護 | NPPVのマスクが当たる部分の皮膚、たんの出し方(排痰補助装置や呼吸のリハビリ)、感染の兆しを見る。心不全の症状が表に出にくいことを前提に、ふだんとの小さな違いを記録してチームで共有する |
| リハビリ職 | 拘縮を防ぐ関節の運動、呼吸のリハビリ、車いすや座る姿勢の調整、パソコンなどのIT機器を使う練習 |
| 相談支援専門員(65歳以上はケアマネジャー) | 重度訪問介護などの支給量が、呼吸器の管理や夜間の見守りに足りているかを定期的に見直す |
| 重度訪問介護・居宅介護の事業所 | 長時間の見守り、体位の調整、たんの吸引など。担当するヘルパーが研修と認定を受けているかを確かめる |
| 病院のMSW | 退院時の制度の申請。遺伝についての相談を希望されるときは、主治医や遺伝診療を行う窓口につなぐ |
在宅で人工呼吸器を使う神経筋疾患の方には、排痰補助装置が保険で使えます。

心臓や呼吸の悪化は、ご本人も周りも気づきにくい形で進むことがあります。「いつもより元気がない」「たんが多い」といった小さな違いを記録し、早めに知らせてもらえると、医師は受診や往診が必要かを判断しやすくなります。
災害と、手術・歯の治療への備え
長い在宅生活では、機器のトラブルや災害が起こりえます。電源と予備の物品、ご家族・支援者・医療機関との連絡方法、避難の方法を前もって決めておきます。また、全身麻酔の手術や抜歯などを受けるときは、軽症であっても病気のことを伝え、前もって主治医と相談するよう、ご家族に伝えておきます。
06受け入れ先を探すときに伝えること
筋ジストロフィーの方の受け入れを相談するときに伝えること
- 病型(デュシェンヌ型、筋強直性など)と年齢
- 呼吸の管理:NPPVを使う時間(夜間だけか、一日中か)、気管切開の有無、排痰補助装置、たんの吸引の回数(特に夜間)
- 心臓の状態と、かかっている専門医療機関
- 飲み込みの状態と、胃ろう・経管栄養の有無
- 障害支援区分、重度訪問介護などの支給量、担当の相談支援専門員
- 難病(または小児慢性特定疾病)の受給者証の状況
- 別表7に当たるため訪問看護は医療保険になること、希望する訪問の頻度(毎日か、1日に複数回か)
- 急に具合が悪くなったときの搬送先(専門医療機関か、近くの病院か)
呼吸器の管理が長く続く方の訪問看護は、複数のステーションで分担することもあります。Med-Tasuki(メドタスキ)の一括依頼を使うと、条件を一度入力するだけで、近くの複数の施設へまとめて受け入れを相談できます。
参考にした情報
- 難病情報センター「筋ジストロフィー(指定難病113)」
- 厚生労働省「特掲診療料の施設基準等」別表第七
- 厚生労働省「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法」
- 厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」
- 厚生労働省「障害福祉サービスの内容」
- 厚生労働省「障害者総合支援法の対象となる難病が追加されます(令和7年4月1日から)」
- 厚生労働省 事務連絡「自立支援給付と介護保険制度の適用関係等に係る留意事項及び運用の具体例等について」(2023年6月30日)
- 厚生労働省「喀痰吸引等の制度(全体像)」
- 難病情報センター「指定難病患者への医療費助成制度のご案内」
- 小児慢性特定疾病情報センター「医療費助成の概要」
- 東京都難病ポータルサイト「在宅人工呼吸器使用難病患者訪問看護事業」
- 東京都難病ポータルサイト「難病患者在宅レスパイト事業」
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。