ひとことで言うと
神経難病の訪問診療は、脳神経内科の専門医と在宅医が役割を分けて診る形がよくとられます。通院の負担や、飲み込み・呼吸の変化が見えてきたら、早めに依頼を考えましょう。
パーキンソン病、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症、脊髄小脳変性症、ALSなどの神経難病では、病気が進むにつれて通院そのものが大きな負担になります。訪問診療(医師が計画的に自宅を訪問する診療)を始めると、自宅での暮らしを見ながら、急な変化にも対応しやすくなります。この記事では、神経難病の方の訪問診療について、在宅医ができることと、専門医との分担、依頼のタイミングをまとめます。訪問診療と往診の違いなどの基本は「訪問診療と往診の違いとは?」をご覧ください。
01神経難病で訪問診療が役立つ場面
- 通院の移動や待ち時間で、本人も付き添う家族も疲れ切ってしまう。
- 転びやすく、外出そのものに危険がある。
- 人工呼吸器や吸引器などの医療機器があり、外出の準備が大がかりになる。
- 発熱や肺炎、たんが増えるなど、体調の変化が自宅で起きる。
- 夜間や休日に具合が悪くなったとき、相談できる医師がほしい。
- 今後の過ごし方や医療の選択について、自宅で落ち着いて話し合いたい。
訪問診療の対象は、病気やけがのために通院による療養が難しい方です。厚生労働省の通知では、少なくとも一人で歩いて、家族などの助けを借りずに通院できる方は、通院は難しくないと考えられるとされています。
02脳神経内科の専門医と在宅医の分担
神経難病では、病院の脳神経内科の専門医に通い続けながら、在宅医が日々の診療を担う形がよくとられます。分担のしかたは地域や医師によって違うため、始めるときに確かめて、文書で共有しておくと混乱が起きにくくなります。
| 分野 | 専門医(脳神経内科) | 在宅医 |
|---|---|---|
| 診療 | 診断、病気に特有の治療や薬の調整の方針、専門的な検査 | 定期的な診察、日々の症状への対応、急なときの往診、自宅での看取り |
| 処置と医療機器 | 胃ろうをつくる・気管切開をするなど、入院で行う処置 | 医療機器や処置の管理 |
| 書類 | 難病の医療費助成の新規申請に使う臨床調査個人票(難病指定医が作成) | 訪問看護指示書、介護保険の主治医意見書 |
両方で共有すること:病状の見通し、薬の変更、本人の意向(人工呼吸器・胃ろう・救急搬送など)、入院が必要になったときの受け入れ先。
医療費助成の書類はだれが書くか
臨床調査個人票(診断書)は、新規の申請は「難病指定医」、更新は「難病指定医」または「協力難病指定医」が作成します。在宅医が指定医かどうかで、更新の書類をどちらに頼むかが変わります。早めに確かめておきましょう。

脳神経内科の立場からは、在宅医や訪問看護の方が暮らしの場で気づいた変化を、遠慮なく専門医に伝えてほしいと思っています。歩き方や飲み込み、薬の効き方の変化は、外来の短い診察だけでは見えにくいからです。
03訪問診療でできること
| 分野 | できること |
|---|---|
| 診察と薬 | 定期的な診察と薬の処方。自宅に届けられる薬局と連携する |
| 医療機器・処置 | 人工呼吸器、気管切開、胃ろう、たんの吸引、在宅酸素、尿道カテーテルなどの管理 |
| 検査と急なとき | 採血などの検査と、発熱や肺炎などへの往診での対応 |
| 訪問看護との連携 | 訪問看護指示書の作成(訪問看護ステーションの理学療法士などによるリハビリも、この指示書にもとづく)。状態が悪くなったときや退院直後などには、一時的に訪問看護を増やすための特別訪問看護指示書も出せる |
| 制度へのつなぎ | 自宅での様子を見ながら、介護保険の区分変更や障害福祉サービスの申請が必要になりそうな時期を、ケアマネジャーや相談支援専門員に伝える |
| 書類 | 介護保険の主治医意見書、医療費助成の更新の臨床調査個人票(指定医の場合)、身体障害者手帳の診断書(都道府県などが指定する医師の場合) |
| 東京都の事業 | 家族が休むための在宅難病患者一時入院事業では、地域の主治医が診療情報提供書を書く。人工呼吸器を使う方の非常用電源の事業は、人工呼吸療法を行う医療機関が申請する |
| 話し合いと看取り | 人工呼吸器や胃ろうなどの意思決定の話し合いと、自宅での看取り |
訪問看護指示書は主に診療を行う医療機関が出すのが原則なので、在宅医と専門医のどちらが出すかを決めておきます。対応できる医療処置や、夜間・休日の体制はクリニックによって違います。始める前に確かめてください。
04依頼を考えるタイミング
状態が大きく変わってから探し始めると、選べる時間が短くなります。上から順に、当てはまるものがないかを確かめてください。
- Q1.入院していて、自宅への退院が決まった?はい退院前に、脳神経内科の主治医や病院の医療ソーシャルワーカーに相談し、在宅医を探し始めます。いいえ
- Q2.マスク式の人工呼吸器や胃ろうを始めた、または始める予定がある?はい医療機器や処置の管理ができる在宅医を探します。人工呼吸器や気管切開の管理ができるかを確かめます。いいえ
- Q3.むせる・食事に時間がかかる・体重が減る、夜間の息苦しさやたんの増加など、飲み込みや呼吸の変化が見えてきた?はい状態が大きく変わる前に、在宅医とつながっておく時期です。いいえ
- Q4.転倒が増えた、一人での外出が難しくなった、通院が本人や家族の大きな負担になってきた?はい通院による療養が難しくなってきたサインです。訪問診療を始めたいことを主治医に相談します。いいえ
- Q5.家族の介護の負担が増え、在宅チームを組み直す必要がある?はいケアマネジャーと相談し、在宅医を含めてチームを組み直します。いいえ

在宅医につながるのは、「もう通えなくなってから」でなくてかまいません。外来に通えているうちに一度顔を合わせておくと、急な変化のときにも、ご本人の普段の様子を知ったうえで判断できます。迷ったら、まず主治医に相談してみてください。
05依頼までの流れ
- 1
専門医に相談する
訪問診療を始めたいことを脳神経内科の主治医に伝え、分担のしかたと紹介状(診療情報提供書)について相談します。
- 2
候補を探す
ケアマネジャー、病院の医療ソーシャルワーカー、訪問看護ステーション、保健所の保健師などに相談し、候補のクリニックを探します。
- 3
条件を確かめる
訪問エリアに入っているか、夜間・休日の連絡と往診の体制、人工呼吸器や気管切開の管理ができるか、難病の指定医療機関か、専門医とどう連携するかを確かめます。
- 4
情報を渡す
病名と経過、今の薬、医療機器の設定、使っている制度、本人の意向の話し合いの状況を、紹介状とあわせて伝えます。
- 5
初回の訪問で分担を決める
在宅医・専門医・訪問看護・ケアマネジャーの役割と、急なときの連絡の順番を、本人・家族と確かめます。
06始めた後の連携のコツ
訪問診療が始まると、本人を診る医師が2人以上になります。情報が行き違うと、薬が重なったり、急なときの判断が遅れたりします。次のような工夫で、チーム全体が同じ情報を持てるようにします。
- 専門医の受診の前に、在宅医や訪問看護から自宅での様子(転倒、飲み込み、呼吸、睡眠、薬の効き方など)を文書で伝えます。
- 薬を変えたときは、どちらの医師が何を変えたかを、お薬手帳や診療情報提供書で共有します。薬局にも伝えます。
- 訪問看護の報告書は、指示書を出している在宅医に届きます。専門医にも伝えたい変化があれば、在宅医から伝えてもらう流れを決めます。
- 入院が必要になったとき、どこに相談するか(専門医の病院か、近くの病院か)を決めておきます。東京都では、都が指定する難病診療連携拠点病院や難病医療協力病院も相談先になります。
- 本人の意向の話し合いの記録は、専門医・在宅医・訪問看護・ケアマネジャーの全員が同じものを持つようにします。
07費用と使える制度
- 訪問診療・往診には医療保険が使えます。
- 難病の医療費助成:在宅医のクリニックが難病の指定医療機関であれば、指定難病(とそれに伴う病気)についての訪問診療の費用も、自己負担の上限の対象になります。受診のたびに自己負担上限額管理票に記入してもらいます。
- 東京都の在宅難病患者訪問診療事業:東京都医師会に委託し、地区医師会ごとに、専門医を中心とした医療チームが訪問診療を行う事業です。対象は、難病医療費等助成の対象の病気で、要介護4以上または身体障害者手帳1・2級相当の状態の方です(2026年4月の都の案内)。都のページでは、訪問診療にかかる本人・家族の費用負担はないとされています。利用したいときは、かかりつけ医に相談します。
- 交通費など、医療保険のほかにかかる費用はクリニックによって違います。
08訪問診療先を探すとき
神経難病の方を受け入れられるか、人工呼吸器や気管切開に対応できるかは、クリニックごとに違います。Med-Tasuki(メドタスキ)では、地域の訪問診療クリニックを探せるほか、一括依頼で近くの複数のクリニックへまとめて相談できます。
参考にした情報
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。