ひとことで言うと
停電は、人工呼吸器を使う方の命に直結します。バッテリーの持ち時間、非常用電源、蘇生バッグ、避難のタイミングを「災害時個別支援計画」としてチームで決めておきましょう。
在宅で人工呼吸器を使う方にとって、停電は命にかかわる問題です。地震だけでなく、台風や大雨でも停電は起こります。東京都は「東京都在宅人工呼吸器使用者災害時支援指針」(2025年4月一部改訂)で、平常時からの備えと災害時の動き方を示しています。この記事では、指針の内容をもとに、在宅チームが本人・家族と一緒に準備することをまとめます。
01備えを「計画」にしておく理由
東京都の指針は、在宅で人工呼吸器を使う方には、電気が止まることが命の危機に直結する、移動などの避難行動が難しい、という特性があるとしています。国も、災害対策基本法で、自力での避難が難しい方(避難行動要支援者)の名簿づくりを区市町村の義務とし、2021年の改正で、一人ひとりの「個別避難計画」をつくることを区市町村の努力義務としました。
東京都は、在宅で人工呼吸器を使う方に、電源の確保や風水害からの避難の方法・タイミングなどを前もって決めておく「災害時個別支援計画」の作成を勧めています。慌てずに動けるよう、本人・家族と支援者で話し合って、紙に残しておくことが大切です。
02災害時個別支援計画のつくり方
- 1
区市町村の窓口に相談する
お住まいの区市町村の「在宅人工呼吸器使用者災害時支援窓口」に相談します。対象(使用時間や人工呼吸療法の種類など)は自治体によって違います。窓口の一覧は東京都難病ポータルサイトに載っています。
- 2
情報提供書兼同意書を出す
人工呼吸器の種類(TPPV・NPPV)、使用時間、バッテリーの有無と時間、吸引器や蘇生バッグの有無などを書いた書類を、本人・家族の同意のもとで区市町村に提供します。
- 3
本人・家族・支援者で話し合って作る
主治医、訪問看護、ケアマネジャーや相談支援専門員、医療機器の業者、保健師などが加わり、家庭の状況と地域の実情に合わせて決めます。
- 4
訓練する
外部バッテリーへのつなぎ替え、蘇生バッグの使い方、非常用電源の動かし方を、実際にやってみます。
- 5
見直す
機器や体の状態、家族の状況、支援者が変わったら計画を直します。
計画で決めておくこと
- 電源の確保:バッテリーの持ち時間、非常用電源の種類と使い方、充電できる場所
- 連絡:停電や災害のとき、誰が誰に連絡するか。安否確認の方法
- 避難:避難するかどうかの判断の目安、避難先、運ぶ方法
- 運ぶ人:避難には複数の人手が要る。蘇生バッグを押す人、機器を運ぶ人、本人を運ぶ人
- 持ち出すもの:人工呼吸器の設定の指示書のコピー、お薬の情報、機器のつなぎ方の写真など

計画づくりには、人工呼吸器の設定の指示書や非常用電源の申請など、医師にしかできない部分があります。話し合いが始まったら、早めに主治医にも声をかけてください。平常時に決めておいたことが、いざというときに迷わず動くための支えになります。
03停電への備え:機器ごとのチェック
停電への備え:機器ごとに確かめること
- 人工呼吸器:内部バッテリーと外部バッテリーで合計何時間動くか、フル充電に何時間かかるか
- 外部バッテリー:長い停電に備えて複数用意し、交互に充電できるか。つなぎ方を練習したか(東京都の指針は、外部バッテリーの用意には診療報酬が充てられているので、かかりつけ医とよく相談するよう勧めている)
- 蘇生バッグ(人工呼吸器が止まったときに手で呼吸を助ける道具):手の届く場所にあるか。押し方を訪問看護師やかかりつけ医と定期的に練習しているか。NPPVの方は使い方をかかりつけ医と相談したか
- 吸引器:充電式と、電気を使わない吸引器(足踏み式など)があるか。充電式は常に充電し、バッテリーは2年を目安に交換するのが望ましい
- 加温加湿器(停電すると止まる):人工鼻に替えられるかなど、対応をかかりつけ医と決めたか(人工鼻は加温加湿器と一緒には使わない)
- 酸素ボンベの本数、乾電池で動くパルスオキシメーター
- 電気を使わない意思の伝え方(文字盤や「はい・いいえ」の合図)
- 明かり(ランタンやヘッドライト)
- 備蓄:吸引チューブ、衛生材料、栄養剤、薬を7日分以上

停電への備えは、道具をそろえるだけでは足りません。外部バッテリーへのつなぎ替えや蘇生バッグの扱いを、ご家族が実際に手を動かして練習しておくことが大切です。訪問看護の訪問のときに、ときどき一緒に確かめてもらえると心強いです。
04発電機・蓄電池・車から電気をとるときの注意
停電が長引くと、バッテリーだけでは足りなくなります。東京都の指針は、非常用電源として発電機・車のシガーソケット・蓄電池などを挙げつつ、発電機や蓄電池を人工呼吸器に直接つないで動かすことは推奨されていない、としています。電源ごとの扱いは次のとおりです。
| 電源 | 人工呼吸器への使い方 | 選び方・注意 |
|---|---|---|
| 人工呼吸器専用のバッテリー(業者が勧めるもの) | 安全に使えるとされている | 年数とともに持ち時間が短くなる |
| 医療機器専用の無停電電源装置(UPS) | 安全に使えるとされている | マスクで使う人工呼吸器(NPPV)の一部には内部バッテリーがなく、医療用の無停電電源装置を使う |
| 車(専用のシガーソケット・ケーブル) | 安全に使えるとされている | 普通車の電気は直流12Vで、家庭用の交流100Vにするにはインバーターが要る。業者が勧める専用のケーブルを使い、必ずエンジンをかけてからつなぐ |
| 発電機 | 直接つながず、外部バッテリーの充電に使う | 正弦波インバーター付きのものを勧めている。定期的に試運転をしておく |
| 蓄電池 | 直接つながず、外部バッテリーの充電に使う | 正弦波が出るタイプを選び、充電と作動の確かめ方を販売業者に聞いておく |
- カセットボンベ式の発電機:使い終わったらボンベを外し、エンジンが止まるまで運転して、残ったガスを使い切ります。
- ガソリン式の発電機:ガソリンは消防法上の危険物にあたるため、保管や使い方は消防署などに確かめます。
- 消費電力:使う機器のワット(W)数などを確かめておきます。機器が動き始めるときは、表示の2〜3倍の電力が要ることがあります。
発電機は必ず屋外で
発電機を動かしている間は、一酸化炭素中毒の危険があります。東京都の指針も、必ず屋外で使うよう勧めています。使い方は、かかりつけ医と医療機器の業者に平常時から確かめておきましょう。
05使える支援制度(東京都の場合)
| 制度 | 内容 | 相談先 |
|---|---|---|
| 東京都の非常用電源設備整備事業 | 医療機関が、在宅で人工呼吸器を使う難病の方に、発電機・無停電電源装置・蓄電池を無償で貸す場合に、購入費を都が補助する(発電機と蓄電池はどちらか一方) | かかりつけ医(申請するのは医療機関) |
| 区市町村の日常生活用具 | 発電機・蓄電池・車用のインバーターなどを給付する区市町村がある。たとえば品川区は、在宅で人工呼吸器を使い、区の災害時個別支援計画を作った方などが対象 | 区市町村の窓口(都の事業との使い分けは区市町村によって違う) |
| 東京電力パワーグリッドへの登録 | 在宅で人工呼吸器を使う方が登録でき、停電のときに停電の発生や復旧の見込みの連絡を、可能な範囲で受けられる(在宅酸素や睡眠時無呼吸症候群の治療器は対象外) | 東京電力パワーグリッド |
電力会社への登録とは別に、自分たちでの備えは欠かせません。
東京都の非常用電源設備整備事業の対象は、指定難病などで、原則として常に人工呼吸器を使う在宅の方です。原則はその年度に在宅療養を始めた方ですが、この事業を使ったことがない方は申請できます。申請の受付は4月1日から12月末までで、交付が決まる前に買った物品は対象になりません(2026年9月時点)。
06風水害と地震:いつ、どこへ動くか
- 台風や大雨は、ある程度前もって予想できます。計画で決めた目安に沿って、早めに動けるようにします。ハザードマップで、自宅の浸水の危険を確かめておきます。
- 地震のときは、まず身の安全を守ります。自宅の倒壊や火災などの危険がなければ、自宅で療養を続けられるかを考えます。
- 停電が長引き、自宅で続けるのが難しいときの避難先を、前もって確かめておきます。指針では、自家発電設備や非常用電源のある公共施設・民間の協力施設、親類や知人の家、かかりつけの医療機関などが挙げられています。
- 避難の手段(家族の車、福祉タクシー、民間の搬送業者など)と、手伝ってくれる人への連絡方法を決めておきます。
07在宅チームの役割分担
- 主治医:バッテリーや蘇生バッグの方針、人工呼吸器の設定の指示書、非常用電源の事業の申請。
- 訪問看護:蘇生バッグやバッテリーのつなぎ替えの練習と点検、災害のときの安否確認と訪問。
- 医療機器の業者:機器の消費電力、つないでよい電源と接続方法、災害時の連絡先。
- ケアマネジャー・相談支援専門員:計画づくりの調整、日常生活用具などの申請の支援。
- 区市町村の窓口・保健所:災害時個別支援計画の作成、避難行動要支援者の名簿。
計画づくりには、地域の在宅医や訪問看護が早くから関わっていることが欠かせません。Med-Tasuki(メドタスキ)では、人工呼吸器の方の受け入れを地域の訪問看護ステーションや訪問診療クリニックにまとめて相談できます。
参考にした情報
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。