ひとことで言うと
多発性硬化症は別表7に入り訪問看護は医療保険ですが、介護保険の特定疾病には入りません。40〜64歳の方は障害福祉サービスが支えの中心です。再発のサインに早く気づく体制が要です。
多発性硬化症(MS)は、脳や脊髄、視神経の神経を包むカバー(髄鞘)が炎症で壊れる病気(脱髄)で、症状が出たりおさまったりを繰り返します。視神経脊髄炎(NMOSD)は、多くの方でアクアポリン4抗体という自己抗体が見つかる病気で、以前は多発性硬化症の一つの型と考えられていました。難病医療費助成では、2つを合わせて「多発性硬化症/視神経脊髄炎」(指定難病13)として扱います。この記事では、在宅療養を支えるチームが押さえたい保険と制度、職種ごとの役割をまとめます。
01MS・NMOSDの在宅療養で起きやすいこと
MSは若い成人に多く、平均の発病年齢は30歳前後で、女性に多い病気です。NMOSDはMSより発病の年齢が高い傾向があり、女性の割合がとても高いのが特徴です。働き盛りや子育て中の方も多く、仕事や家庭と療養をどう両立するかが、ほかの神経難病より大きな課題になります。
- 再発と回復を繰り返す:MSの多くは再発と回復を繰り返し、一部は次第に進む経過をとります。NMOSDは再発型で、再発のときの症状が重くなりやすいため、生涯にわたって再発予防の治療を続けます。
- 見え方:視力の低下や視野の欠け、物が二重に見える(複視)ことがあります。
- 手足:しびれ、痛み、力が入らない(麻痺)、手足の突っ張り(痙縮)、歩きにくさ。
- 排尿・排便:尿もれ、尿が出にくい、便秘などの障害が起こることがあります。
- 体温で一時的に悪くなる:熱いお風呂などで体温が上がると、一時的に症状が悪くなることがあります(ウートフ現象)。
- 急に手足がジーンとして突っ張る発作(有痛性強直性痙攣)が、脊髄の障害の回復期に起こることがあります。
- NMOSDでは、しゃっくりが止まらない、吐き気・嘔吐、強い眠気などが出ることもあります。
過労やストレス、感染症は再発の危険を高めるとされています。再発を防ぐための治療には、自己注射、定期的な点滴、飲み薬などがあり、免疫に働く治療を長く続ける方が多いのも特徴です。
02訪問看護は医療保険か介護保険か
多発性硬化症は、訪問看護を医療保険で行う病気の一覧「別表7」(厚生労働大臣が定める疾病等)に入っています。一方で、40〜64歳でも介護保険を使える「特定疾病」(16の病気)には入っていません。この組み合わせが、ほかの神経難病との大きな違いです(2026年9月時点)。
| 年齢 | 訪問看護 | ヘルパーなど生活の介助 |
|---|---|---|
| 39歳以下 | 医療保険 | 障害福祉サービス(居宅介護・重度訪問介護など)が中心 |
| 40〜64歳 | 医療保険 | 障害福祉サービスが中心(この病気を理由に要介護認定は受けられない) |
| 65歳以上 | 医療保険 | 要介護認定を受けた方は介護保険が基本(福祉用具も) |
訪問看護は、年齢や介護保険の認定の有無にかかわらず医療保険です。週4日以上の訪問、1日に複数回の訪問、複数の訪問看護ステーションの利用ができます。

多発性硬化症は介護保険の特定疾病に入らないため、働き盛りの年代の方には、ケアマネジャーがつかないまま療養が続くことがあります。相談支援専門員や訪問看護が生活全体を見渡す役を担ってくれると、私たち医師も、困ったときに誰と相談すればよいかが分かり、心強く感じます。
別表7に書かれている病名は「多発性硬化症」です。難病医療費助成では「多発性硬化症/視神経脊髄炎」として1つにまとめられていますが、NMOSDの方の訪問看護が別表7として扱われるかは、主治医と訪問看護ステーションで事前に確かめてください。
- Q1.主治医・訪問看護ステーションに確かめて、別表7(多発性硬化症)として扱われるかはい医療保険。週4日以上の訪問、1日に複数回の訪問、複数の訪問看護ステーションの利用ができるいいえ
- Q2.65歳以上で、要介護認定を受けているかはい介護保険いいえ
03使える制度
- 難病医療費助成(特定医療費):重症度分類で、障害の程度(EDSS)が4.5以上か、見え方の障害が一定以上の方が対象です。障害が軽くても、再発予防の治療などで医療費が高額な月が続く方は「軽症高額」として対象になることがあります(医療費の総額が33,330円を超える月が年3回以上。2026年9月時点)。
- 助成は、都道府県が指定した病院・診療所・薬局・訪問看護ステーションなどで受けた医療が対象です。訪問介護(ヘルパー)の費用は対象外です。
- 障害福祉サービス:多発性硬化症/視神経脊髄炎は障害者総合支援法の対象の病気です。障害者手帳がなくても、市区町村に申請して必要と認められたサービスを使えます。介護保険を使えない40〜64歳の方にとって、生活を支える中心の制度です。
- 身体障害者手帳:手足の障害や、見え方の障害が残った方は、市区町村の窓口で相談できます。
- 指定難病登録者証:医療費助成の対象にならない方にも交付され、福祉や就労の支援を受けるときに使えます。
- 就労の相談:東京都難病相談・支援センターの就労相談や、ハローワークの難病患者就職サポーター(都内ではハローワーク飯田橋・立川)が、症状に合わせた仕事探しや、働き続けるための相談に応じています。
04在宅チームで押さえること(職種ごと)
MS・NMOSDの方は、病院の脳神経内科に通いながら在宅サービスを使うことが多い病気です。
| 職種 | 担うこと |
|---|---|
| 訪問診療・専門医 | 再発を疑ったときにどこへ連絡し、どこで診てもらうかを、専門医・訪問診療・訪問看護で決めておく |
| 訪問看護 | 新しい症状や今までの症状の悪化に早く気づく(体温の上昇による一時的な悪化のこともあるため、見分けは主治医に相談)。排尿・排便の障害への対応、感染のサインの観察、自己注射の手技の確認 |
| リハビリ(PT・OT・ST) | 歩行や手足の突っ張りへの対応、生活動作の工夫。再発のあとは回復の時期に合わせて内容を見直す |
| 薬局 | 長く続く再発予防の治療の、飲み忘れを防ぐ工夫と、ほかの病院の薬との飲み合わせの確認 |
| 相談支援専門員・ケアマネジャー | 40〜64歳の方の障害福祉サービスの計画は相談支援専門員が担う。65歳で介護保険に移るときは、ケアマネジャーと丁寧に引き継ぐ |
| ヘルパー | 入浴の介助では熱いお湯や長湯を避ける。見え方に障害がある方には、物の置き場所を変えない、声をかけてから触れる |
| 保健所・保健センターの保健師 | 難病の方の療養相談や家庭訪問 |

再発かどうかの見分けは、医師でも経過を追わないと難しいことがあります。新しい症状やいつもと違う様子に気づいたら、自分たちだけで様子を見すぎず、決めておいた連絡先に早めに相談してください。「こんなことで連絡してよいのか」と迷うくらいのときこそ、声をかけてもらえると助かります。
再発で入院したあとの見直し
再発で入院すると、退院するときには以前と状態が変わっていることがあります。退院前に、訪問看護の回数、ヘルパーの時間、福祉用具や住まいの調整を見直しましょう。障害福祉サービスは支給の決定までに時間がかかることがあるため、市区町村への申請は早めに進めます。
05受け入れ先を探すときに伝えること
受け入れ先に最初に伝えること
- 住所(町名・丁目まで)
- 病名(多発性硬化症か、視神経脊髄炎か)と、通っている専門の医療機関
- 年齢と、使っている制度(介護保険・障害福祉サービス・難病医療費助成の受給者証)
- 障害の内容:歩行、手の動き、見え方、排尿・排便(導尿やカテーテルの有無)
- 治療の形(自己注射・定期的な点滴・飲み薬)と、訪問看護に手伝ってほしいこと
- 再発を疑ったときの連絡先
- 仕事・家庭の状況(日中にひとりでいる時間、子育てなど)
若い方の在宅療養では、平日の日中は仕事に出ている、子どもの送り迎えがある、といった事情で、訪問できる時間帯が限られることがあります。希望の時間帯を最初に伝えておくと、受けられる事業所を探しやすくなります。
06Med-Tasukiで受け入れ先に相談する
Med-Tasuki(メドタスキ)の一括依頼では、住所(町名まで)と必要な条件を入れると、近くの施設へまとめて受け入れを相談できます。医療機関・介護事業所の方は無料で登録できます。
参考にした情報
- 難病情報センター「多発性硬化症/視神経脊髄炎(指定難病13)」(病気の解説)
- 難病情報センター「多発性硬化症/視神経脊髄炎(指定難病13)」(診断・治療指針、重症度分類)
- 難病情報センター「指定難病患者への医療費助成制度のご案内」
- 厚生労働省「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(令和8年3月5日 保発0305第19号)
- 厚生労働省 中央社会保険医療協議会 資料「在宅(その3)」(医療保険と介護保険の訪問看護対象者のイメージ)
- 厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」
- 厚生労働省「障害者総合支援法の対象疾病(難病等)」
- 厚生労働省「令和7年4月からの障害者総合支援法の対象疾病一覧」(周知用リーフレット)
- 東京都保健医療局「難病医療費助成の助成内容」
- 東京都保健医療局「難病患者さんが利用できる就労支援サービス」
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。