ひとことで言うと
重症筋無力症は症状が日によって・時間によって変わる病気です。悪化のサインとクリーゼのきっかけをチームとご家族で共有しておくことが、在宅療養の要になります。
重症筋無力症は、神経と筋肉のつなぎ目で、筋肉の側にある受け手(受容体)が自分の抗体によって壊される自己免疫の病気です(指定難病11)。疲れやすさと筋力の低下が主な症状で、まぶたが下がる、物が二重に見えるといった目の症状が起こりやすいのが特徴です。治療によって約半数の方は日常生活や仕事に支障なく過ごせる一方、治療でもあまり改善しない方も1〜2割います。2018年の全国疫学調査では、発症年齢の中央値は59歳でした。ほかの病気を併せ持つ高齢の方も多く、在宅では「悪化に早く気づくこと」と「悪化のきっかけを避けること」が支援の中心になります。
01重症筋無力症の在宅療養で起きやすいこと
- 症状が変わる:疲れると悪くなり、休むと戻ります。悪化は初め夕方や体を動かした後に現れ、次第に一日中続くようになります。休むと戻るため、周りから病気として理解されにくいこともあります。
- 目の症状:まぶたが下がる(眼瞼下垂)、物が二重に見える(複視)。目の症状だけの型を眼筋型、全身に症状がある型を全身型と呼びます。
- 全身の症状:首が下がる、腕や脚の力が落ちるなど、さまざまな形で現れます。
- 飲み込み・話すこと:飲み込みにくさや話しにくさが目立つ方もいます。
- クリーゼ:症状が悪くなり、呼吸の筋肉の力が落ちて呼吸ができなくなる状態です。日本では、経過中に経験する方が9.1〜14.8%と報告されています。多くの場合、飲み込みにくさや話しにくさを伴い、急に悪化することがあります。
- 長く続く治療:治療の中心はステロイドや免疫抑制薬などの免疫療法です。これらを使っている間は生ワクチンを受けられませんが、インフルエンザなどの不活化ワクチンは受けられます(接種の予定は主治医と相談します)。
02悪化のサインと、クリーゼへの備え
重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022(日本神経学会)は、クリーゼになりやすい方として、発症から1年以内の方、飲み込みや話すことに症状がある方、胸腺腫を合併している方、糖尿病・高血圧・心臓の病気などを併せ持つ方を挙げています。こうした方では特に、次の変化をご家族と在宅チームで共有しておきます。
悪化のサイン(ご家族と在宅チームで共有する)
- まぶたの下がりや物が二重に見えるのが、いつもよりひどい、朝から出ている
- 首が下がる、腕が上がりにくい、立ち上がりにくい
- 飲み込みにくい、むせる、食事に時間がかかる、話しにくい
- 息苦しい、たんを出しにくい
- いつもは夕方だけの症状が、一日中続くようになった
息苦しさ・飲み込めないときは様子を見ない
クリーゼは急に進むことがあります。息苦しさが強いとき、急に飲み込めなくなったときは、次の訪問を待たずに主治医へ連絡し、必要なら救急車を呼びます。どこへ連絡し、どの病院へ運ぶかを前もって決め、紙に書いて見える場所に貼っておきましょう。病名、治療の内容、お薬の一覧も、すぐ見せられるようにまとめておきます。
同じガイドラインは、悪化やクリーゼのきっかけとして、次のものを挙げています。体温が上がると症状が悪くなることも知られています。
| きっかけ | 在宅でできる備え |
|---|---|
| 気道の感染(最も多い) | 手洗い・うがいを続ける。インフルエンザの流行期や人混みに出るときはマスクをつける |
| 過労・体温の上昇 | 休息を十分にとる。炎天下の外出や入浴で体温が上がりすぎないようにする |
| 免疫抑制薬の減量 | 治療の薬を自己判断で減らしたりやめたりしない |
| 一部の薬 | ほかの医療機関・歯科・薬局で新しい薬が出るときは、重症筋無力症であることを必ず伝える。抗菌薬や心臓の薬、精神科の薬など身近な薬の中にも、神経から筋肉への伝わりを妨げるものがあり、使うときは利益とリスクを考える必要があるとされている |
| 手術・ヨード造影剤(CT検査など) | 予定があるときは、脳神経内科の主治医にも伝える |
このほか、けが・精神的なストレス・出産もきっかけとして挙げられています(重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022)。

重症筋無力症の悪化は、診察の時間には落ち着いて見えることがあります。夕方の様子や食事のときのむせなど、暮らしの中で気づいた変化を具体的に伝えてもらえると、医師は治療の調整や受診が必要かを判断しやすくなります。
03訪問看護は医療保険?介護保険?
重症筋無力症は、訪問看護で「厚生労働大臣が定める疾病等」(特掲診療料の施設基準等の別表第七。以下、別表7)に入っています。一方、介護保険の特定疾病(16疾病)には入っていません。
年齢を問わず
訪問看護は医療保険
要介護認定を受けている方でも同じです
40〜64歳
介護保険は使えない
特定疾病に入っていないためです(ほかに特定疾病に当たる病気がある場合は別)。ホームヘルプなどは障害福祉サービスで組み立てます
65歳以上
介護保険が使える
原因を問わず対象です。訪問介護などの介護保険のサービスと、医療保険の訪問看護を組み合わせて使います
別表7に当たるため、週3日までという医療保険の原則の制限がなく、週4日以上の訪問ができます。1日に2回・3回以上の訪問(難病等複数回訪問加算)や、2か所(毎日の訪問を計画する場合は3か所)までの訪問看護ステーションの利用もできます(2026年9月時点)。
- 2006年の調査41.7%
- 2018年の調査66.1%
重症筋無力症の全国疫学調査の結果です。50歳以上で発症する方の割合が増えています。
04使える制度
- 難病の医療費助成(特定医療費):重症度分類で一定以上の方、または医療費の高い月が続く方(軽症高額)が対象です。指定医療機関(病院・診療所・薬局・訪問看護ステーションなど)での自己負担が、所得に応じた月ごとの上限額までになります。長く続く治療の費用の負担を抑える助けになります。
- 障害福祉サービス:重症筋無力症は障害者総合支援法の対象の病気で、障害者手帳がなくても、区市町村が必要と認めれば使えます。40〜64歳の方の家事や身の回りの支援は、こちらが中心になります。
- 介護保険:65歳以上で使えます。症状が時間帯によって変わるため、認定調査では調子の悪いときの様子も伝えるよう、ご本人・ご家族に助言します。
05在宅チームで押さえること(職種ごと)
- 主治医と訪問診療医:脳神経内科の主治医と、定期的な治療や通院をどう続けるか、急な悪化のときにどこへ運ぶかを分担して決めます。長く続く治療の副作用にも目を配ります。
- 訪問看護:朝と夕方など時間帯による症状の違い、飲み込み、呼吸、たんの出しやすさを記録し、主治医と共有します。服薬の管理と感染の兆しの確認、ご家族への悪化のサインの説明を担います。
- 薬局:お薬手帳などで、ほかの医療機関から出た新しい薬を確かめ、重症筋無力症に注意が必要な薬かを主治医と相談します。
- リハビリ職:休みを入れながら、疲れすぎない量で行います。症状が落ち着いていれば運動や仕事は可能とされていますが、過労は悪化のきっかけになります。
- ケアマネジャー・相談支援専門員:調子を崩しやすい時間帯や、疲れがたまった後に支援が届くよう計画します。「重症」という病名から強い不安を抱える方も多く、心理面の支えも大切です。

ほかの病院や歯科で新しい薬が出るとき、処方する側が重症筋無力症のことを知らない場合もあります。薬局や訪問看護の方が気づいて、主治医にひと声かけてもらえると、医師としてとても心強く、悪化を防ぐ手立ても早く考えられます。
06受け入れ先を探すときに伝えること
- 眼筋型か全身型か、今の症状(飲み込み・話すこと・呼吸・手足の力)
- クリーゼを経験したことがあるか、最近の入院の理由
- 定期的に病院で受ける治療や通院の予定
- 胃ろう・経管栄養、人工呼吸器の有無
- 脳神経内科の主治医の病院と、急な悪化のときの受診先
- 別表7に当たるため訪問看護は医療保険になること、希望する訪問の頻度
- 要介護認定(65歳以上)、難病の受給者証、障害福祉サービスの状況
症状の変動が大きい方は、夕方の訪問や急な訪問に対応できるかが事業所選びのポイントになります。Med-Tasuki(メドタスキ)の一括依頼を使うと、条件を一度入力するだけで、近くの複数の施設へまとめて受け入れを相談できます。
参考にした情報
監修者のプロフィール

Maekawa Hirotaka
脳神経内科専門医・頭痛専門医
地域医療連携サービス「Med-Tasuki」開発者
脳神経内科専門医・頭痛専門医。東京大学医学部附属病院 脳神経内科で診療に従事したのち、訪問診療を行う荏原ホームケアクリニックで頭痛センター長を務める。在宅医療の現場で、患者さんの受け入れ先を探す連絡が今も電話とFAXに頼っていることに課題を感じ、施設どうしがつながる地域医療連携サービス「Med-Tasuki(メドタスキ)」を自ら開発した。
Med-Tasukiを開発した理由を読む在宅医療は、ひとつの施設だけでは完結しません。顔の見える連携を、もっと速く、もっと気軽に。現場の「困った」を減らすために、医師として、開発者として取り組んでいます。